【 ウゴ・チャベスという男〜炎の国連演説/2006.9.20 】


   

この暑苦しいオッサンが世界を変えるかも知れない



以前からベネズエラのチャベス大統領(52才)が米政府をボロクソに叩く度に、ブッシュに批判的な僕でさえ“そこまで言っちゃうのか!?”とたまげてたんだけど、9月20日の国連総会で炸裂した「ブッシュは悪魔」演説は過去最強のチャベス節で、僕は彼が暗殺されないかマジでヒヤヒヤしている。

壇上にあがったチャベスは最初に米国の言語学者チョムスキーの著書をかざし、「これは素晴らしい本だ。スーパーマンの映画ばかり見ていないで、アメリカ人はチョムスキーの本『覇権か生存か』を読むべきだ」と訴え、各国代表にも「数ヶ国語で翻訳されており簡単に読める」と勧めた。チョムスキーは米国人でありながら「我が国こそが世界最悪のテロ国家」「米国はアフガンに援助ではなく賠償すべき」と吠えている反骨の知識人(チャベスの演説後、同書はアマゾンで1位となり大手書店が2万5千冊の増刷を指示した)。

この時点でもう会議場に笑いが起きていたが、これはほんの序章だった。

チャベスは前日の総会でブッシュが演説したことに触れ、「米国人にとっての脅威は彼ら自身の家にある。悪魔は本国にいる。昨日ここに悪魔が来た。まさにこの壇上に。まだ地獄の硫黄の匂いがする」と言い、お祓いの為に天を仰いで十字を切ったのだ。そしてブッシュによる外交政策を「悪魔のレシピ」「まるでヒッチコックの映画」と断罪し、「世界はお前の所有物じゃない、頭を医者に分析してもらえ」と斬り捨てた。米国政府はもちろんカンカン。米のボルトン国連大使は「チャベスこそ言論の自由を自国民に与えていない」と批判した。しかし、言論の自由がないというのはとんでもない勘違いだ。

ベネズエラではTV局の民放はすべて大金持ちの“反”チャベス勢力が握っており、これまでにデマや中傷の猛烈な反チャベス・キャンペーンが展開されてきた。'02年には富裕層と結託した軍部によるクーデターが勃発、彼は大統領職を奪われ、監禁、処刑される寸前までいった。この時は、市民が軍に対し「大統領をクビにできるのは国民だけだ」と命懸けでデモを行ない、市民自身がチャベスの命を救った。
軍による拉致から生還したチャベスはこう言った「反対派に言いたい。反論は大いに結構。私はあなた方を説得できるよう努力する。しかし国民の規範である憲法に背く行為は許されない(政権交代は選挙でのみ可能であり軍事クーデターは憲法違反)。憲法は国家という共同体の基本だからだ」。
後に軍事クーデターを背後で支援したのはブッシュ政権(CIA)と判明。殺されかけたチャべスがさらに米国嫌いになったのも当然だ。

※参考/市民がチャベスを救った軍事クーデターの真実(これはかなり感動的な話ッス。どれほどチャベスが国民から愛されているか分かりマス!)

ベネズエラは世界第5位の産油国で本来は豊かな国だ。しかしチャベスが登場するまで石油の利権は米国企業が独占し、猛烈な貧富の差から貧困層は学校にさえ行けなかった。貧しい家庭に生まれて大統領となった彼は、石油の利益を社会福祉に還元し、文盲の300万人に文字を教え、大学まで教育を無料にし、何と大半の国民の医療を無料にした(医薬品もタダ!)。食糧を人口の半数に安価で提供し、うち百万人には生活が改善されるまで“無料”で配給している。ここで大事なのは、けっして“保護漬け”にするのではなく、支援は自立の為の一時的措置であり、文字を学んで健康を維持して社会に出て行ける環境を作っている点だ。失業率も7%減少した。これらを'98の就任から7年間で実現させ、市民、特に貧困層から絶大な支持を得ている。

チャベスは昨年の国連で「安保理5カ国の拒否権の即時廃止」を訴え、「このようなエリート主義の遺物は平等や民主主義という基本的思想にも相容れません」と力説。また「私達は5年前の総会で飢餓に苦しむ8億4千万の人を2015年までに半減することを目指しましたが、このままでは目標達成に2215年までかかってしまいます。私達はまた、初等教育の完全普及を2015年に実現することを宣言しました。現在の状況では2100年までかかります。たとえ人類が環境破壊に生き残ったとしても、誰がそれを祝うことができるでしょう?」とも。
ブッシュを「ミスター・デンジャー」と呼ぶ彼は、ラテンアメリカで絶大な人気を誇り“ゲバラの再来”と言われている。

米のライス国務長官は「“悪魔”は絶対に言ってはいけない言葉」と怒り心頭だ。国連総会という公の場で、一国の元首が他国のトップを悪魔呼ばわりするのは、確かに外交辞令を無視した下品な行為といえる。しかし、チャベスの演説に各国代表から拍手喝采がわき起こった事実を、米国は真摯に受け止めた方が良い。自分達がどんな風に世界から見られているのかを。このチャベスの演説はCNNで生中継されていたので、早くもネットにアップされている。

国連総会のチャベス動画 スペイン語の演説だけど雰囲気は伝わる。始めにチョムスキーの本を
絶賛、“問題”の「昨日悪魔(ディアボロ)がここにいた」発言は2分20秒あたりから。会場から拍手。
チャベスの後方に映っている人の笑顔が幸せそうだ(笑)。

チャベスの演説全文の訳 リンクの許可を頂きました♪

パレスチナに対する人道援助がイスラエルに妨害された時の怒りのスピーチ(3分13秒)は、言葉は過激だけど他国の指導者が言えない正論を叩き付けている。

●2011.10.25追記 チャベスよ冷静に…!

このページをアップしてから5年後にリビアの独裁者カダフィが倒された。
僕はチャベスのことをオモロイ奴と思ってるんだけど、ちょっと頭を傾げることが…。
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・「殉教者として記憶されるだろう」 チャベス大統領、盟友の死悼む〔2011.10.21 時事通信〕
南米ベネズエラのチャベス大統領は20日、リビアの最高指導者だったカダフィ大佐が死亡したことを受け、記者団に対し「偉大な闘士、革命家、殉教者として記憶されるだろう」と述べ、かつての盟友の死を悼んだ。
チャベス氏はカダフィ氏の死をテロリストによる「暗殺」と表現。「ヤンキー帝国(米国)は世界を支配できない。帝国は世界を征服しようと努力して、火を放っている」と述べ、欧米諸国の対リビア戦略をあらためて批判した。
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うーむ!カダフィは確かに良いこともやったけど、数千の政治犯を虐殺してきた男だ。“アラブの春”革命では、カダフィ派の弾圧で5万人もの市民が行方不明になっている。その男を手放しで讃えすぎ!アメリカ憎しのあまり、人権のバランス感覚がおかしくなってはいかんぜよ。

●2011.11.25 さらに追記
チャベスのカダフィ支持発言に対して僕が違和感を持っていることを書いたところ、読者の方から“カダフィはアフリカ諸国の真の意味での独立を考え、欧米に殺害された”とメールを頂き、次の動画(13分39秒)を紹介して頂きました。政治犯虐殺の真相は分かりませんが、欧米メディアでは流れないカダフィ擁護意見だったのでリンクを貼っておきます。判断は読者の方にお任せます。m(_ _)m



追記〜2013年3月5日、チャベス死す!
【チャベス大統領死去=がん闘病、復帰かなわず―反米の盟主・ベネズエラ】

時事通信 2012年3月6日(水)6時58分配信

反米左派諸国の盟主として知られた南米ベネズエラのウゴ・チャベス大統領が5日、首都カラカスの軍病院で死去した。マドゥロ副大統領がテレビ演説で明らかにした。58歳だった。がんとの闘病を続け、再び表舞台に立つことを目指していたがかなわなかった。チャベス氏の死去を受け、30日以内に大統領選挙が行われる。
世界有数の産油国ベネズエラは財政難にもかかわらず、チャベス氏の強い指導力でキューバやニカラグアなど反米左派の同盟国に石油を安価で提供している。


〔チャベスの国葬〜こんなに愛されていたのか!〕海外の報道写真より、16点

  
 
  

  

  

  

  

  

  

いかに米国メディアがチャベスを批判しようと、これらの写真がベネズエラ民衆の心を僕らに伝えてくる。最後の写真、若者がチャベスの遺志を継ぐように手を挙げているのが印象的。

チャベス「主よ、あなたの十字架を、100の十字架を与えてください。あなたに代わってわたしがそれを担ぎましょう。そのかわり、命をわたしに与えてください。わたしには、わが国民と祖国のためにやるべきことがまだあるのです。まだ奪わないでください」(癌闘病中に、死の前年のミサで)

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★各国指導者による弔辞
●オバマ米大統領
チャベス大統領死去というこの厳しい時期にあって、米国はベネズエラ国民を支援するとともに、同国政府との建設的な関係の構築に関心があるということを再確認する。ベネズエラが新たな時代に入るに当たり、米国は、民主主義、法による統治、人権尊重を促進する政策に引き続き取り組んでいく。

●ブラジル・ルセフ大統領
ブラジル政府はチャベス大統領に完全に同意しないことが度々あったが、われわれは偉大な指導者を失ったと認識している。何よりもブラジルの友人だった。

●コロンビア・サントス大統領
われわれを団結させ、関係の基盤となっていた考えは、コロンビアを含む南米地域における平和だった。チャベス大統領とベネズエラ政府の限りないコミットメントに感謝している。
平和なコロンビアを目指し、内戦を終わらせるため合意に至るという共通の夢を実現することが、チャベス大統領への最大の敬意となる。

●チリ・ピネラ大統領
われわれの違いは歴然としていたが、信念のために戦うチャベス大統領の強さや情熱には敬意を表してきた。病状が悪化し、彼が治療を受けるためキューバ(の病院)に戻った時、私は彼に電話した。思い出すのはその時に、死が避けられないのなら、愛してやまないベネズエラで迎えたいと彼が語っていたことだ。

●エルサルバドル・フネス大統領
中南米で最も強力で人気の指導者の1人であるチャベス大統領の死は、間違いなく政治的空白を生むだろう。しかし何よりも、ベネズエラ国民の心にむなしさをもたらすに違いない。

●ヘイグ英外相
チャベス大統領の訃報は悲しいことだ。14年間にわたりベネズエラの大統領を務め、国内外で忘れがたい印象を残した。ご遺族とベネズエラ国民の皆様にお悔やみを申し上げる。

★ハリウッドからの弔辞

●ショーン・ペン
わたしは親愛なる友人を失いました。世界中の貧しい人々はチャンピオンを失った。
※約3カ月前に闘病中のチャベスの見舞いに訪れており、その際に「チャベスは地球上で最も影響力のある一人です。これまでにも見せてくれた強靭さで回復してくれることを願っています」と声明を出していた。

●オリバー・ストーン
既得権益を享受している層から嫌われることで、彼の名は歴史に刻まれることになるでしょう。

●マイケル・ムーア(『華氏911』の監督)
ベネチア国際映画祭で彼に会ったときは1時間以上も話をしました。『自分以上にブッシュを憎んでいる人にようやく会えてうれしい』と彼は言っていました。

  少年時代のチャベス

 

左はマンガみたいな顔になってるカストロと。右はカストロに見舞い。先にチャベスが逝ってしまうとは…



2019年追記・ベネズエラの悲劇

2013年にチャベスが他界、そして2019年、ベネズエラは汚職・腐敗・経済政策のミスでこの世の地獄と化してしまった。チャベスは後継者の育成に完全に失敗したと言わざるを得ない。本当に残念だ。

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政権が食い物にした石油大国 「チャベスの『革命』に裏切られた」 ベネズエラ
2019年6月3日05時00分(アサヒ・コム)

世界最大の原油埋蔵量を誇り、1970年代まで「南米で最も豊か」と言われたベネズエラ。外貨獲得の柱である石油産業の現場を歩くと、優秀な技術者は去り、設備投資もされず、事故や故障が頻発していた。国営石油会社はチャベス、マドゥロ両政権に食い物にされ、立て直す道のりは険しい。
「昔は一網させばごっそりエビが捕れた。今はほとんど捕れない」
5月22日、ベネズエラ北西部プントフィホ。ベネズエラ湾に面する小さな漁村で、漁師のジョスコ・ディアさん(45)はモスグリーンに濁った海を前に嘆いた。最盛期は一度の漁で1トン近く水揚げすることもあったが、今は50キロも捕れればよい方だ。
入り江を挟んだ対岸には、国営石油会社の製油所がある。1980年代から漏れ出た石油が入り江を汚染し、社会問題になっている。国営石油会社はオイルフェンスを張ったり、石油を回収したりしたが、汚染は解消されていない。
ディアさんは1998年の大統領選で「漁師を守る」と訴えたチャベス元陸軍中佐を支持した。チャベス氏は当選し、「ボリバル革命」と呼ぶ手厚い貧困層支援などの社会主義政策を進めた。
低所得者が多い漁師は恩恵を受けたが、入り江の汚染は改善しなかった。ディアさんたち漁師は首都カラカスに出向き、政府に陳情を繰り返した。
2013年にマドゥロ大統領になると、国営石油会社は陳情を受け付けなくなり、石油回収にも来なくなった。漁村の浜辺には流れ着いた石油がたまり、真っ黒な固まりになっている。

ディアさんは「漁ができなくなっても、石油で国が潤うのなら」と思ったこともあった。だが、経済が破綻(はたん)すると、政府の食料配給は年数回しか届かなくなった。身の回りの自然に豊かに実るマンゴーやバナナといったフルーツで、食いつないでいる。
さらに、この3月以降は停電の影響で水道が止まった。子どもたちと数キロ先まで歩いて水くみをしなければならず、子どもたちは学校に通えなくなった。
「私はチャベスの『革命』と結婚したつもりだった。でも、裏切られた」

製油所の煙突からは、炎が噴き出ていた。ベネズエラでは石油輸出がほぼ唯一の外貨獲得源だ。中でもプントフィホの製油所は世界でもトップクラスの精製能力がある。
だが、この製油所で15年以上、技術者として働いた40代男性によると、現在稼働しているのは約半分だ。男性は5月上旬、突然解雇された。解雇の理由を尋ねると、「野党の集会に参加した」と告げられた。
国営石油会社は最も人気のある就職先の一つだった。収入は安定し、福利厚生も充実していたからだ。だが、チャベス前政権が推し進めた社会主義政策と、経済の崩壊による超インフレの影響で、1998年に1600ドル相当だった作業員の平均月収は、今は8ドル相当になった。優秀な技術者は欧米の大手石油会社に次々転職していった。
男性によると、技術者の離職で技術力が落ちたことに加え、作業員の人手不足も深刻だ。以前は数人で担当した夜間勤務を最近は1人でこなしている。新たな設備投資は止まり、補修もされない。事故や故障が頻発しているが、その対応もままならないという。
一方、管理部門は職員が増えた。2000年代前半、当時大統領だったチャベス氏は反大統領派の幹部や職員ら約2万人を解雇し、自身を支持する軍人や与党関係者を雇用した。チャベス派に石油産業の知識や技能はなく、管理部門に配属するしかなかった。与党の集会があれば、管理部門のオフィスは空になる。
労働組合幹部によると、チャベス派の幹部は家族や親族、友人を次々採用し、会社に購入させた車を自家用として使い、「会社を食い物にしている」という。








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