【 男たちの大和/YAMATO レビュー 】



1945年3月26日に米軍が沖縄に上陸。28日、軍上層部は昭和天皇に神風の特攻作戦を伝えると、天皇は「海軍にもう艦はないのか、海上部隊はないのか」と質問。この一言を受け、すぐさま大和を旗艦とした連合艦隊第二艦隊に沖縄出撃の命が下る。それは片道分の燃料で沖縄の海岸に乗り上げ、水上砲台となって戦えという「水上特攻」の指令だった。
軍が考えていた元々の作戦では、大和を使って米艦隊を本土の側まで誘い出し、空と海から叩くというものだった。しかし天皇の言葉で作戦は激変、「畏レ多キ御言葉ヲ拝シ恐懼(キョウク)ニ堪ヘズ…」と緊急電報で特攻が告げられた。
一機も航空機の支援がない無謀な作戦であり艦隊司令長官は抗議したが、参謀長から「一億総
特攻の規範となるよう、立派に死んでもらいたい」と説得され、「我々は死に場所を与えられた」と
言葉を呑み込んだ。慌ただしく出航準備が整えられ、4月6日夕刻、大和は出撃する。

「死ニ方用意」。約3千名の乗組員に作戦内容が特攻と知らされたのは出航の後。動揺し、特攻の是非を巡って衝突する兵士たちに対し、“これは無駄死にではない”と語る臼淵大尉の悲壮な言葉(実話)は、この映画の核となっている--
「進歩のない者は決して勝たない。負けて目覚めることが最上の道だ。日本は進歩ということを軽んじ過ぎた。私的な潔癖や徳義にこだわって、真の進歩を忘れていた。敗れて目覚める。それ以外にどうして日本が救われるか。今目覚めずしていつ救われるか。俺たちはその先導になるのだ。日本の新生に先駆けて散る、まさに本望じゃないか。」
大和は半日で米潜水艦に捕捉され、わずか1日後、出撃の翌日に鹿児島沖で386機もの米艦載機による猛爆を受け、沖縄を見ることもなく轟沈した(生還者は1割以下、269名)。

撮影後、大和の生き残りの漁師・神尾を演じた仲代達矢(74才)は「どんな理由があろうと戦争は絶対に良くない。そのことを強く訴える為にも、先の戦争をもう一回検証する必要がある。それがこの映画の使命であり、僕らの世代の使命であると考えている」と語り、神尾の年少兵時代を演じた松山ケンイチは「皆、誰かを守りたいと思って戦争へ行き、殺し合いになり、その結果憎しみや負の感情だけが生まれてしまう。純粋で綺麗な人間の心が利用されながら戦争は拡大してゆく。それこそが戦争の本当の悲惨さではないでしょうか」と語った。
この映画は軍指導部や将校の視点で戦争を描くことよりも、最前線の年少兵や下士官の視点から描くことに重点が置かれていた。そして、内臓をえぐるような凄絶な戦闘描写は、戦争とはヒーローが活躍するカッコイイものではなく、血だまりの中でのたうつ酷いものと訴えている。

映画の完成記者会見の席で「愛する者を守る為に死ねるか?」と聞かれた中村獅童、反町隆史ら若手俳優は「家族を守る為に、愛する者の為に戦場に向かう」と答えた。これを横で聞いた佐藤純彌(じゅんや)監督は次の様にさとした「違います。本当に愛するものを守りたいなら“戦争をしない”ことです。戦争をしない為にはどうすればいいのか、その為にいま何をすべきか考えて下さい。この映画が今後の日本を考える上でのきっかけになれば」。僕は監督の信念を知り深く胸を打たれた。
ところが、企画発表の段階では『“戦争の大義”が何であるかなど知る由もなく、ただ愛する家族を、友を守りたい一心で「水上特攻」に向かい、若い命を散らしていった男たち』とあった宣伝コピーが、公開後の公式サイトから「“戦争の大義”が何であるかなど知る由もなく」の部分がまるまる削除されてしまい、どの広告からも消えてしまった。この一文の有無で印象は変わってしまう。

実際の宣伝では「愛する人の為に死ぬ」ことの悲壮美が強調され、人命を軽んじた命令を下す国家への批判はゼロ、パンフには「この映画を見れば国家への忠誠心を自分たちも身につけたいと思うであろう。若い男女が日本を再び誇るべき国に盛り立ててくれるなら、戦没将兵へそれ以上の手向け草はあるまい」というコラムが載った。どうしてそうなる?
この映画は戦いの悲惨さや虚しさを描いており、戦没将兵への手向け草は、彼らが命をかけて守ろうとした子孫が2度と戦争をしないことだろう。忠誠心が大切なんてメッセージはどこにもない(っていうか、本当にこの映画を見たの?)。
それに“再び誇るべき”って、じゃあ今は誇れないのか。僕は日本にすごく誇りを持っている。今の日本文化は歌舞伎や能といった古典芸能からマンガやゲームといったポップカルチャーまで世界の多くの人々を惹き付けており、文学や最先端の科学技術も高く評価されている。コラム作者には逆に「あなたがもっと今の日本に誇りを持って下さい」と言いたい。
せっかくの力作なのに、監督が抱く「戦争にならないように努力することが真の愛国心」という思い、二度と繰り返してはならないという祈りが、宣伝マンや一部の観客に伝わっていないことが残念だ。
とにもかくにも、これだけの大作を作り上げた製作スタッフたちを僕は讃えたい。

※長渕剛の主題歌について。どうして誰も“これはマズイだろう”って言わなかったのかな。大和の乗組員は米国に殺されたのに、主題歌のタイトルが『CLOSE YOUR EYES』(あり得ない!)、さらにサビまで英語ってどうなのさ。常識的に考えて、この映画の主題歌は全部日本語だろう。


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