北方領土をめぐる丸山発言がなぜ問題か
2019.5.18

「戦争なんて言葉は使いたくないです。使いたくない」。北方領土旧島民のご年配の毅然とした姿勢に胸を打たれた。11日夜、日本維新の会に所属していた丸山穂高衆院議員(35/大阪19区)は日露友好の「北方領土ビザなし交流訪問団」に参加した際、平和交流でロシア人島民の家庭を訪問して夕食時に飲酒。その後、宿舎の「友好の家」に戻り、食堂で訪問団の懇親会が催されていた午後8時ごろ、酒に酔った議員は、記者団による大塚訪問団長への取材に割って入り、やり取りがレコーダーに記録された。大塚さんは89歳という高齢であり、戦争で悲惨な体験をした方。その大塚さんに、丸山議員は大声で戦争による領土奪還をけしかけた。

丸山「戦争でこの島を取り返すことには賛成ですか?反対ですか?」
大塚「戦争で?」
丸山「ロシアが混乱しているときに、取り返すのはOKですか」
大塚「戦争なんて言葉は使いたくないです。使いたくない」
丸山「でも取り返せないですよね」
大塚「いや、戦争するべきではない」
丸山「戦争しないとどうしようもなくないですかぁ?」
大塚「戦争は必要ないです」

 

大塚団長は怒りを抑えて、さとすように反論されていた。当サイトでは以前から丸山議員の危険性、無思慮な攻撃性を指摘してきた(4月7日にも書いたばかり)。戦争が引き起こす悲しみをいやというほど味わった当事者に、そして自分の倍以上も年上の方に、相手を小馬鹿にするような煽り口調で「戦争しないとどうしようもなくないですかぁ?」。絶句する。人間は深酒したからといって、まったく心にないことを口走ることはない。
ビザなし交流が始まったのは1992年であり、故郷の島を追われて47年もかけてようやく実現したもの。訪問団は北方領土での不測の事態を避けるために夜間の外出を自粛しているが、丸山氏は酔っ払って夜中に外出しようとして制止されたほか、深夜、鍵のかかっていない部屋に入っては旧島民に議論をふっかけ、睡眠を妨害したという。耳を疑うばかりだ。
翌日、丸山議員は訪問団の北見市職員(旧島民2世)の北村浩一さん(59)に呼び出され、みんなの前で「あなたは深夜に及んでもまだ事務局のお世話になって大声を出した。ここが国後島でなくとも一般常識として、社会的にあなたのやっていることは許されない」と説教され、残りの日程への参加自粛を求められる。

 

訪問団の清水征支郎さん(80)いわく「コップで机をバンバンたたいて大騒ぎをしており、国会議員の態度じゃないと腹が立った。翌日も嫌々謝罪し、本気でないように見えた」。8歳のときにソ連軍の侵攻に遭い、翌年、何も持たずに歯舞群島を命からがら脱出した角鹿泰司さん(82)は「戦争のために我々は島をとられて苦労した。だから戦争は絶対してはならない。そんなことを、まさか国会議員が言うとは」「1人の勝手な言動で規制が厳しくなる」。

−−政治家がそもそも戦争を提案する時点で論外。
憲法9条は「(武力行使は)国際紛争を解決する手段としては、永久にこれを放棄する」と明記し、国連憲章は国際紛争を平和的な手段で解決するよう加盟国に義務付けている。外交上でも1956年の日ソ共同宣言で「紛争の平和的手段による解決」を約束している。
日本は1945年8月15日を終戦と考えているが、ロシアは降伏文書が調印された9月2日を終戦と考えており、それ以前に占領した土地はロシア領土と主張している。世界史的に9月2日が第二次世界大戦終結日であるため、日本の立場に各国の賛同が集まりにくい要因になっている。またロシアは北方領土の返還後に米軍基地ができることを恐れており、それも返還の妨げになっている。ロシアは沖縄の辺野古問題を例にあげ「日本は民意が反対であっても米国の要求を断ることができない」と判断、プーチンに「日本は本当に主権国家なのか?」とまで言われているが、官邸はこれに反論できないでいる。
邦人の北方領土訪問には原則的にビザが必要だが、日本政府は北方四島が日本領土という立場からビザをとって渡航することに反対している。両者に挟まれて旧島民は墓参ができず、これではあまりに気の毒とロシアは人道上の理由から「ビザなし渡航」を認めた。民間交流を積み重ねて相互信頼を築きあげた成果だ。このような歴史的背景をもった「北方領土ビザなし交流訪問団」にあって、まさに四島滞在中に「友好の家」の親睦会で飛び出した「戦争しないとどうしようもなくないですかぁ」。この暴言後も大騒ぎする議員に事務局も手を焼き、懇親会を退席する人が続出。夜10時まで予定されていた懇親会は9時前に終わったという。
安倍政権にとっても大災難だ。安倍氏は2016年、プーチンに経済協力の名で3000億円を献上したのに何も成果がないため、ロシアの機嫌を取るために北方領土と呼ばず北方四島と呼ぶようになった。さらに先月、官邸の意向を受けた外務省は2019年の外交青書から「北方四島は日本に帰属する」の文言を削除した。外交を扱う公文書から、「北方領土」どころか「北方四島」まで消えたのだ。

それほどまでに官邸はロシアに対して腫れ物を触るかのような外交をしているのに、その最中の国会議員による戦争発言。しかも心証を最悪にする「ロシアが混乱しているときに、取り返すのはOKですか」という卑怯な内容を含んでいる。さっそくロシア上院のコサチョフ国際問題委員長が記者団に「日露関係の流れの中で最もひどい発言」と批判している。ガルージン駐日大使も「戦争という言葉、ロシアの混乱を望むようなことは非常に不快」「酒を飲んだからということで言い訳にはならない、というロシアのことわざがある」と厳しい。ロシアにしてみれば、平和交流のビザなし訪問でやってきた議員が戦争を口走り、しかも所属党が改憲派、これで警戒しない訳がない。既に国際問題になっており、議員辞職が筋。自民は閣僚に失言が多いため、失言を理由にした辞職勧告には及び腰にだが、そういう状況じゃないだろう。自衛隊制服組トップの統合幕僚長を先月まで務めた河野克俊氏が「非常に不適切で論外、むちゃくちゃです。自衛以外の戦争は国際法違反だと知らないのでしょうか。」と呆れるのも当然だ。

戦争を知る世代である旧島民の大塚団長の「戦争はすべきでない」の重み。一方、35歳の丸山議員が語る、当事者感のない「戦争しないとどうにもならない」。近年の学校教育が、日本の負の歴史から目を背けるように、きちんと戦争の悲惨さを教えないから、軽いニュアンスの戦争論が出てくる。丸山議員は当初、「発言を切り取られた」とマスコミのせいにしていたが、他の会話を聞くと記者にも絡んでおり印象はさらに悪くなった。本当に切り取られただけなら、現場にいた誰かが丸山議員をかばうはずだが、誰1人フォローしないのはなぜか。印象操作というなら、どうして現場で謝罪させられたのか。また、「賛成か反対か聞いただけ」と主張しているが、旧島民が戦争にノーと答えるとイエスしかないだろうと畳みかけており、賛成か反対か聞いただけではない。僕は彼の意見には反対だけど、なぜ言ってなかったことにするんだ。昨年、靖国神社の小堀邦夫宮司が「今上陛下は靖国神社を潰そうとしてる」「新しく皇后になる彼女は神社神道大嫌いだよ。来るか?」発言で職を追われたときも、小堀氏は当初「言ってない」ととぼけていた。籠池氏を称えた後に知らん顔をしている青山繁晴議員もそう。「愛国」を掲げる論客は同様のケースが多すぎる。日本のためと信念があるなら貫き通せばいいのに、言い逃れを繰り返すさまが見苦しい。

丸山議員のいう戦争にリアリティがないのは国連の敵国条項を失念していること。国際連合も、第二次世界大戦の連合国も、英語表記は同じ「United Nations」。国連の母体は大戦の戦勝国であり、日本・ドイツ・イタリアなどに対して国連憲章で「敵国条項」を定めている。すなわち、通常他国に対する武力制裁には国連安保理の許可が必要だが、旧敵国に対しては許可がなくても武力行使が可能となっており、「他の加盟国はこれを妨害してはならない」とされている。日本政府は、敵国条項がなくならなければ日本の戦後は終わったとはいえないという立場で、これらの削除を求めて運動しているのに、敵国条項の国が常任理事国に戦争をしかけるなどあり得ない。北海道に自衛隊を集め始めるとすぐに察知され、配置が終わる前に殲滅されてジ・エンド。
近年ロシアのラブロフ外相が二言目には「日本は第2次世界大戦の結果を受け入れろ」と言っているのは「大戦の結果を認めないとこちらが判断したらいつでも軍事制裁を行なっていいんだぞ」というニュアンスを含んでいる。想像するのも馬鹿げているが、電撃作戦で北方領土を一時的に奪還できても、その後、総力をあげて取り返しにきたロシア軍を防ぐ軍事力は日本にない。もうひとつ、日本人視点では第二次大戦からの問題だけどロシア人視点ではシベリア出兵の復讐であることも頭に入れておきたい。あれはまさにロシア革命という「混乱に乗じて」の出兵であり、丸山氏の「ロシアが混乱しているときに取り返すのはOKですか」がいかに最悪の表現かわかる。

丸山議員は維新で三期も政治家をしている。彼を育てたのは松井氏であり、橋下氏であり、維新の先輩政治家だ。あのように外交の選択肢に「戦争」が入るのは、日常的にこの言葉がポンポン飛び交う環境にあるからだろう。むろん、上級国民の議員本人は戦場に行かず、犠牲になるのは彼らが名前を知らぬであろう一般の自衛隊員だ。丸山議員のツイッターにはいつも彼をチヤホヤするネット右翼の人々がいる。彼らは日頃、年長者を敬え、戦争の犠牲者に感謝しろと言っているのに、旧島民の方々を「お花畑」と批判して丸山議員を擁護している。僕は「ああ、彼らが丸山議員を増長させ、暴走させたのだ」と理解した。支持者がおだて、甘やかし、のぼせあがらせ、このていたらくとなった。
維新の会はこれまで丸山議員を「鉄砲玉」として使ってきた。2017年5月19日の衆院法務委で自公が強行採決した共謀罪は、丸山議員が先導したもの。同法はテロ集団だけでなく「一般人」にも捜査が及ぶ懸念が残ったままであり、追加される277項目もの罪状をまだまだ審議する必要があった。ところが丸山議員は委員外にもかかわらず「これ以上ピント外れの質疑ばかり繰り返し、足を引っ張ることが目的の質疑は、これ以上は必要ない!ただちに採決を!」と早々に審議を打ち切らせて与党に強行採決を促したのだ。彼はそれまで法務委の審議に来ておらず、この日初めて共謀罪関連で発言。どの口で「審議時間は十分」と言うのか。あの時、ドヤ顔でイキり倒していた若手議員、それが丸山穂高氏だ。

 

暴言の発覚当初、松井代表は「言論の自由がある」と丸山議員を擁護していた。その後、手のひらを返したが、党として短慮な所属議員を育て上げたことを真摯に反省してほしい。維新は足立康史議員が「立民(立憲民主)は北朝鮮の工作員」と嘘の中傷をツイートしたり、加計学園問題で戦う朝日について「朝日新聞、死ね。」と目を疑うツイートをするなど、他者に敬意を払う姿勢に欠けている。人工透析患者を罵った長谷川豊を候補者にするなどヘイト体質が問題。ただ、今回の騒動では、対立する立憲民主党に頭を下げて辞職勧告案の共同提出を呼びかけており、その姿勢は評価できる。
上皇は退位前のお言葉で、涙を含んだ声で「平成が戦争のない時代として終わろうとしていることに、心から安堵しています」と述べられた。戦後の日本政治は、先の大戦の教訓から「いかに戦争を起こさないか」を目標にしてきた。憲法は政治家が国民を縛るためのものではなく、国民が政治家を縛るために存在する。政治家が人気取りで勇ましいことを言って戦争に導かせないための憲法だ。
国会議員の劣化はここまできた。今回の発言は憲法第99条で国会議員に課されている「憲法尊重擁護義務」にも違反している。自民以上に改憲に積極的な維新の議員から今回の暴言が出たことで、いっそう護憲の必要性が増した。

※酒が駄目にするのではなく、隠れていた駄目な部分を酒がさらけ出す。丸山議員は2015年に泥酔して一般人とケンカになり、相手の手を噛むという不祥事を起こしている。その際、ツイッターに「あらゆるトラブルを予防するため、今後の議員在職中において公私一切酒を口に致しません」と禁酒を約束している。この約束を破った時点で、戦争発言にかかわらず議員の資格はない。自分で自分を律せない人間に国家の舵取りは任せられないからだ。

※このコラムは安易に戦争を口にする勢力を念頭に警鐘的な意味合いで書いており、必要以上に議員を追い詰めるためのものではないと付け加えておく。事態は維新の会の片山共同代表と馬場幹事長がロシア大使館を訪れて直接謝罪するまでになっている。勇ましいことをいう人ほど打たれ弱いもの、そこを少し心配している。



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