★何が問題になっているのか、チベットの歴史も踏まえて簡単に整理 1949〜1979年の30年間で中国側に殺されたチベット人の数は120万人。弾圧はその後も激しく続いているので、犠牲者の数はさらに増えている。こうしたチベットの受難は1950年の中国軍の侵略から始まった(中国は前年に建国)。1951年にラサが占領され、8千あった寺院の大半が被害を受け、多くの僧侶・市民が虐殺される。 1959年3月10日、命に危険が迫ったダライ・ラマは人々に守られてインドへ脱出。同日チベット全土で中国軍への一斉蜂起が起きた(後年、大規模デモが3月10日に起きるのは、その日が歴史的に重要だから)。 その後も、文化大革命時に6千もの寺院が破壊されたり、1989年に起きた大規模な抵抗運動が軍に鎮圧され、多数の死傷者が出る。1996年〜98年の中国当局による弾圧では約500名の僧尼が逮捕され、実に約1万名が僧籍を剥奪された。 チベット亡命政府は08年3月10日以降のチベット騒乱で、武力鎮圧による死者203人、負傷者千人以上、現在も5715人以上が拘束されていると発表した。 現状はダライ・ラマいわく『文化の大虐殺』。中国政府の強引な移住政策の結果、600万人のチベット人が暮らしている地域に、なんと750万人もの非チベットが流入し、しかも現在進行形で移住は続いている。言語、文化、伝統などチベット独自の文化遺産が刻々と消えており、チベット人は自国に居るにもかかわらず少数派になってしまった。 僧院はチベット仏教文化の宝庫かつ学びの場だが、その数は壊滅的に減らされており、残った僧院でもチベット仏教の本格的な勉強をすることが禁じられている。出家して僧院に入ることすら厳しく規制されているのが実状。宗教の自由を求めれば反中国のレッテルを貼られ弾圧される。だからダライ・ラマは、「チベットに真の自治を」「中国の憲法で保障されている基本的な自由を」と訴えている。 ※ダライ・ラマが第11世パンチェン・ラマ(No.2の高僧)に認定した少年は、認定発表の3日後に中国政府の手で親ごと拉致されて行方不明になったままだ。ちなみに先代の第10世は10年間も投獄され、さらに北京で5年間軟禁され、チベット帰還後に当局の意向を無視してスピーチをした結果、その5日後に50歳の若さで突然他界した。 ※チベット国旗に似たものを所持するだけで7年間投獄され、チベットでダライ・ラマ法王の写真を所持することは違法となっている。 チベット独立のデモは、それが非暴力の抗議行動であっても容赦無く弾圧され、デモに参加する際は「もはや無事に帰れまい」という覚悟が必要だ。“独立”を口にすれば必ず逮捕され、残虐で執拗な拷問が待っている。このような中国支配のチベットからインド・ネパールへ脱出する為に、零下40度のヒマラヤ越えを命懸けで行うチベット人は毎年2千人以上もいる。 中国政府はチベット暴動をダライ・ラマが裏で指揮していると決めつけているが、これに対してダライ・ラマは疑惑を晴らす為にも「徹底調査して欲しい」と逆に要請している。これには国際的なメディアが調査に加わることが重要だ。そうすれば、今まで無検閲の情報を入手できなかった10億人以上の中国人に、チベットで実際に何が起きているかを明らかにできる。 チベット騒乱では多くの僧侶や市民が連行され行方不明になっており、その安否が非常に心配される。取材&言論の自由は民主国家の大原則。何もやましいことがないなら、堂々と海外のジャーナリストを受け入れればいい。 それにしても、ダライ・ラマが何度も繰り返して「私はチベット独立を主張しているのではなく、文化保護の為に自治権の拡大を求めている」と明言しているのに、「独立は認めない!」「ワン・チャイナ!」「中国のものだ!」とヒステリックに叫んでる中国の若者たちを見ると、なぜ人の話をちゃんと聞かないのかと悲しくなる。言論の自由がない中国国内の人間ならともかく、海外で暮らして様々な情報に触れているはずの留学生まで同じ様なことを言ってるし…。 留学生たちには、自国政府がチベットで報道機関を追い出して取材規制していることを非難して欲しいが、母国にいる親族に迷惑がかかるから、海外にいてもそんなことは言えないのだろうか…。 ダライ・ラマがかつてCIAから資金を提供されたこと、独立派が軍事訓練を受けていたことを批判する声もある。そりゃあダライにしてみれば利用できるものは何でも利用するだろう、相手が巨大な中国軍なんだから。っていうか、半世紀近くも昔のことで今のダライを叩くのはナンセンス。 北京五輪を前に日本の著名人80名がダライ・ラマと中国政府の直接対話を求める声明文を出した。学者だけでなくミュージシャンやタレントも多い。色んなしがらみがあるなか、こうして行動を起こすのは素晴らしいと思う。 ※チベット高原の環境破壊も大きな問題だ。中国政府は既にチベットの森林資源の4割を伐採し、540億ドル(約5兆円)もの外貨を手に入れている。さらに、将来水不足が心配される中国政府は、人類の4割を養っている豊かな水資源を持つチベットを、何としても支配下に置きたいだろう。 ※ネットを見ていると、本当にチベットを心配して中国政府を指弾する人と、単に中国を叩きたいだけでチベットを利用している人がいるように見える。ひどい差別用語を使ったり。それはチョット違うだろう。また、長野聖火リレーでは、一部右翼が留学生を殴った結果“チベット独立派はこんなに暴力的”と中国で報道されている。手を出したら終わり。それはダライ・ラマの望まないことだし、中国政府がチベット派の悪印象を世界に見せつける口実をつくるだけ。運動全体の足を引っ張ることになる。 ※資料サイト『ダライ・ラマ法王日本代表部事務所』。僕はここを何度か訪れ話を聞いた。事務所にはチベット出身の方が数人いる。そのうちの1人の方がこうおっしゃっていた「日本の保守派には、過去に日本が中国を侵略したことを正当化したいが為に、チベットを抑圧する今の中国政府と、過去の中国を結びつけて話したり、政治利用しようとする人たちがいます。それは間違ったことです」。 |
【わが聖地・チベットの苦しみ:野口健(アルピニスト)】 gooニュースより〜2008年4月10日付 野口健さんは世界七大陸の最高峰を世界最年少(当時)で登頂したことで、あまりに有名な登山家である。エベレストや富士山で清掃活動を行なったり、「野口健・環境学校」を開設したりするなど、環境保護活動に精力的に取り組んでいることでも知られている。 チベットを支配してきた中国はチベット人の命懸けの抗議行動を戦車や装甲車まで持ち出して弾圧し、おびただしい流血を招いた。チベットに通い詰め、チベット人に対して中国が何をしてきたかを知っていた野口さんは、こうなることが「時間の問題」と感じていたという。登山家である彼が、なぜ中国非難の声を上げたのか。日本はこの事態にどう対応すべきか。率直な意見を聞いた。 中国資本による凄まじい開発 ●3月14日にチベット自治区のラサで発生した僧侶らによる"騒乱"は、四川、青海、甘粛各省のチベット人居住区に拡大し、中国の治安部隊はこれに銃撃を浴びせています。 野口さんは昨年、チベット側からエベレスト登頂に成功されました。チベット人との交流も深いと思いますが、今回の事態をどのようにご覧になっていますか。 野口 はっきりいえば、こうなるのは時間の問題だと思っていました。中国の警察が木の棒でチベット人を引っぱたく光景をよく見掛けましたから。 ●日常的に、そういう行為をやっているのですか。 野口 そう、しかもそれはラサに限りません。浮浪者のような人が寝転がっているだけで殴る。それが常態化しているんです。 エベレストの比較的近くに、ネパールとの国境であるナンパ・ラ峠があります。チベット人はその峠を越えてネパールに入り、交易や巡礼をする。峠のネパール側にはシェルパ族の村があり、私がネパールに行ったときも牛に似たヤクという動物に品物を載せて、彼らはシェルパ族の村に行商に来ていました。 2006年10月13日、いつものように彼らがナンパ・ラ峠を越えようとしたとき、一行に向けて中国警備当局が銃を発射した。近くにいたヨーロッパの登山家が一部始終を撮影し、その映像がユーチューブを通じて世界に流れ、弾圧の現状が知られるところとなりました。 私も映像を見ましたが、ほんとうに驚きましたね。行列の先頭の人が撃たれて倒れたら、普通の人は逃げるでしょう。しかし、彼らはまったく動じない。さらにパーンと撃たれ、次の人が倒れても、整然と歩いている。チベット人の覚悟を見た気がしました(動画3分)。 ●彼らはチベットからの難民ではないのですか。難民がナンパ・ラ峠を越え、ネパールに逃れようとした、という見方もありますね。 野口 あのルートは有名で、交易する人も、難民も、同じ道を歩くんです。真相ははっきりわからない。にもかかわらず『朝日新聞』は、チベット人が中国警備隊に危害を加えようとしたから、正当防衛で撃った、と報道した。 その後、清掃活動のためにエベレストに足を運びましたが、ベースキャンプで大変な人数の「公安」を見掛けました。僕らが清掃で何を拾っているかも調べに来ましたし、アメリカ人が「フリー・チベット(チベット解放)」と看板に書いただけで逮捕したり、という厳しさでした。 ●しかも中国は今年、北京オリンピックを控えている状況です。 野口 だから極度に神経質になっているんです。エベレスト山頂に向けて聖火リレーが行なわれる予定で、中国警備隊にとってはその実現が最重要課題。5月10日に聖火を山頂に上げる、とすでに発表していますから。そのために現地に300人を待機させています。チベット人の知人に「でも天気が悪かったらどうするの?」と聞いたら、「それでも上げなきゃいけない。300人いるから押し込んでいけば何とかなる」と。「それでは旅順攻防戦の203高地と同じだ」といったんですが。 周囲の開発もいま、凄まじい。1995年にラサへ行き、毎年のように足を運んでいますが、最初に訪れた時点で、かなり中国資本による開発が進んでいました。オリンピックの準備でそれが加速して、1年単位で町の姿は変貌している。チベットの町は路地裏が入り組んでいますが、それが年々壊され、すべて大通りに変わっています。高層建築が増え、秋葉原の電気街のようなショッピングセンターも、高級ホテルもある。上海に通じる鉄道(青蔵鉄道)も開通し、その駅の規模たるや、東京駅など目ではないくらいです。 そうなると、今度は観光客がやって来る。2006年には21万人だったのが、2007年は36万5000人にまで増えました。 ●急増しているわけですね。 野口 そこから新しいビジネスが生まれ、さらに中国人がなだれ込む。ベースキャンプにしても、すっかり様変わりしてしまいました。 ●心あるチベット人は危機感を覚えていたんでしょうね。ところでベースキャンプというのは、固定された場所にあるのですか。 野口 そうですね。日本でいえば、富士山の5合目、というイメージです。ラサからベースキャンプまでのほとんどを舗装し、民宿やお土産屋、定食屋、女性付きのパブまである。去年からは観光バスもどんどん上るようになりました。 じつは今年の春も、チベット側で清掃活動をする予定だったんです。ところがオリンピックの前だから、ゴミのあるところを写すな、と条件が付いた。それならやる意味がないので、ネパール側から山に登る準備をいま進めているところです。 ダライ・ラマの言い分は正しい ●野口さんはどのようなかたちでチベット人と交流されるんですか。シェルパ(山岳案内人・荷運び人)と一緒に登頂するときでしょうか。 野口 ネパール人はイギリスの影響でシェルパとして登山隊のサポート要員となったりしますが、チベット側にはそういう文化がありません。チベット人は、ベースキャンプのさらに上のほう、ヤクが上がれるところまで、ヤク使いとして来るんです。6000メートルぐらいまでは、チベット人と一緒に登る。あるいはチベット登山協会という組織があって登山家たちの面倒を見てくれますが、そこでもさまざまな話をする機会があります。 ●聖火をエベレストに上げる、という話がありましたが、チベット人にとってエベレストは神様の宿る「聖なる山」です。心情としていたたまれないのではないか。中国に対するチベット人の本心を、野口さんはお聞きになったことがありますか。 野口 表面的にはなかなかわかりませんが、親しくなると本音を語りますね。ダライ・ラマがインドに亡命したあとに、中国が認可したパンチェン・ラマというお坊さんがいます。チベット仏教ではダライ・ラマに次ぐ高僧ですが、チベット人は彼を傀儡だ、と思っている。象徴は必要ですから、とりあえず認めてはいますけど。 今回の暴動について中国政府は、ダライ・ラマが裏で糸を引いている、といっています。しかし本人は否定しています。私はダライ・ラマの言い分が正しい、と思う。もしほんとうに彼が「戦え!」といえば、あの程度では済みません。一億玉砕のようなことが起きるでしょう。 ●ダライ・ラマに対する尊敬心や宗教心が、チベット人にはまだ根付いているんですね。 野口 そうですね。しかしそれはイラスム教徒的な盲目心ではありません。ダライ・ラマとはチベット仏教の象徴であると同時に、チベットそのものの象徴です。長きにわたってチベットは中国に支配され、虐げられ、苦しんできた。国力が違いますから、まともに戦っても勝てません。だからじっと耐えてきたし、どこかで中国の一部になるのをよしとした部分すらあるように思います。中国の政策によってものが溢れ、町全体も裕福になった。いまのほうが快適だ、と若者などは思っているのではないでしょうか。 しかし裕福になれば、新しい問題が起きる。アルコールが入ってきて、チベット人は酒を飲みますから、中毒者が増え、ラサでは酔った浮浪者が徘徊している状況です。経済格差も発生し、社会の脱落者が出てきた。精神的にすさんでいくわけです。 外交官だった私の父(野口雅昭氏・京都文教大学教授)は、戦後教育が日本の心を壊していくのを目の当たりにした、といいましたが、中国もチベットに対して同じことをやろうとしている。あからさまな弾圧はできないから、精神構造から崩していくという戦略です。 ●ダライ・ラマは、「文化的ジェノサイド」といいましたね。チベット独自の文化や伝統を宗教も含めて根絶やしにし、チベットの生息空間をなくそうとしている。インドに亡命しているダライ・ラマの姉も「魂が大事で、それを失ってしまえば民族は滅びる」と発言しているようです。 中国の同化政策とは、一言でいえば、「魂を奪う政策」です。チベットの寺院では中国の愛国主義教育、つまり中国共産党を讃える教育まで行なっているという、驚くべき実態がある。 野口 「共産党バンザイ」という文言が、町中の至るところに書いてありますからね。しかし最後の最後、その文化の部分でチベット人はダライ・ラマに寄り添い、必死に抵抗している。耐えてきた彼らがついに爆発した。それが今回の騒乱です。 ●チベットはもともとは独立国家です。チベット人の全人口は600万人程度なのに、中国によって100万を超えるチベット人が虐殺されてきた。チベット出身のペマ・ギャルポさんの話を聞くと、家族が1人も虐殺の目に遭っていない人は見当たらないそうです。そのような扱いを受けても、彼らはけっして武力で抵抗しない。 野口 短刀はもっていますが、実際に使用することはありません。 ●そんなチベット人に対し、中国政府は、「人民戦争だ」と言い放った。戦争状態だから、銃撃し、殺してもよい、としたのです。 野口 中国はいつもそうで、ナンパ・ラ峠でチベット人への銃撃が話題になったときも、初めは事実すら認めませんでした。しかし映像が世界に行き渡ってしまうと、「チベット人が危害を加えてきたから、正当防衛で撃った」と訂正した。今回も同じで、最初は「発砲していない」といったでしょう。それが次には「警察が身の危険を感じ、正当防衛として威嚇射撃をした」と。死者の数についてもチベット亡命政府が「140人以上」、中国側は「20人」と食い違っている。 中国が20人しか撃ち殺していない自信があるなら、世界のメディアに「取材してください」といえばいい。しかし当局が取材許可を与えた海外メディアの記者は10数人、日本では共同通信社だけ。外国人旅行者ですら、多くがカメラやビデオを没収されている。没収自体が隠蔽行為です。 ●「毒ギョーザ事件」に対する対応も同じですね。しかし、なぜこのタイミングでチベット人は暴動を起こしたのでしょうか。 野口 北京オリンピックで世界の目が中国に集まっているいまなら、国際社会が注目してくれる、と考えたのでしょう。戦略として正しいと思います。彼らには武力がありませんから、国際社会に訴えるしか手段がない。逆にいえば、彼らが必死で訴えるメッセージを、僕たちはしっかりキャッチしなければならないんです。 いま発言しなければ、僕は十字架を背負う ●そういう意味では、国際社会はチベットの声を受け止めていますね。3月21日、アメリカの米議会下院議長のペロシ氏がインドでダライ・ラマと会談し、中国政府の行動を強く非難したうえで、「中国政府の弾圧に声を上げないなら、人権を語る資格を失う」といいました。 野口 EU議会も「北京オリンピック開会式のボイコットも辞さない」と発言しました。実際にボイコットするかは別にして、いま中国はそういわれるのがいちばん怖い。EUはそのカードを切った。日本ももっと人権問題など、さまざまなカードを使うべきでしょう。 ●アメリカではリチャード・ギアやミア・ファロー、ミア・ファローに煽られたスティーブン・スピルバーグなど、数えきれない人が非難の声を上げています。しかし日本では、町村官房長官が「基本的には中国の国内問題というものの、双方の自制を求める」という、何がいいたいのかよくわからない発言を行なった程度でした。 野口 中国は最初、チベット人が店舗を壊し、物品を略奪する映像を外部に流しました。予備知識なしであの映像に出合えば、おなかをすかせた農民一揆のように見える。それに対して「正当防衛で撃った」というんです。「双方」という言葉を使った時点で、中国に加担していることになる。 ●そんな状況下、野口さんが声を上げられたのは素晴らしいことだと思います。 野口 じつは登山家は皆、現状をよく知っているんです。チベットと登山家の縁は深く、チベット人に対する思いも同じ。問題は、その思いを公の場でいうか、それともいわないか。僕がチベットについて自分のブログやホームページに書いたときも、「よく書いたな。おまえはもうチベット側から登れないぞ」といわれました。実際にそうだと思います。僕の最終目標はエベレストをチベット側から登ってネパール側に降りることでしたが、それが失われてしまった。登山家の多くが自身の欲望のために発言を控えるのは、ある意味、当然のことでしょう。 しかし、僕はその欲望と、現場を知ってしまった人間の思いのどちらを優先すべきか、自分に聞いたんです。そして、やはり後者を優先すべき、という答えが出た。いま発言しなければ、そのために僕は十字架を背負うことになるんです。 オリンピック選手にしても同じですが、しかし登山家とは違い、彼らは現役年齢が限られている。4年に1度のチャンスを奪うのはきわめて酷な話です。彼らが発言できないならば、代わりに政治家がいえばいいのに、日本はそうしない。 登山家や政治家だけではありません。メディアも一緒です。騒乱が起こる前ですが、ある新聞の取材で「もうすぐチベットで大変なことが起きる、そう書いてください」といいました。しかし「オリンピックの取材許可が下りなくなるから、無理です」と返された。事態はそこまで進んでいるのか、と愕然としましたね。 しかし、本当に日本人はチベット問題に関心がない。一昨年、アメリカのボルダーという町に行きましたが、至るところで「フリー・チベット」という看板を見掛けました。本屋にもチベットの旗がはためいていた。日本でそんな光景に出合うことはないでしょう。 ●日本とチベットは近い国なのに、あまりに態度が冷淡です。 野口 父親にいわせれば、扱うのが面倒なテーマらしいんです。その話題に触れるだけで、日本と中国の関係が冷えきっていく。触れないほうが無難、と判断しているようですが、本当にそれでいいのか。 ●最終的にこの問題は、どうやって収束させればよいのでしょうか。 野口 北京オリンピックまでは中国もある程度、自制すると思います。僕がいちばん恐れているのは、オリンピック後、中国が復讐に出ること。暴動が起きた場所に調査団を置いて、復讐できないシステムをつくることが不可欠でしょうね。4月にネパールで7年ぶりの選挙がありますが、あの国は政府と共産ゲリラがずっと戦っていて、日本の自衛隊などさまざまな国の軍隊が、選挙がきちんと行なわれるかを監視する。チベットでも同じようなことをやればよい。 単純にボイコットせよ、というのではなくて、ボイコットはしない。代わりに調査団を設置させよ、ダライ・ラマとも直接対話を行なえ、といえばいいんです。いちばん避けるべきは、無責任にオリンピックに参加すること。オリンピックを開催したため、新たな血が流れる可能性がある。そうなれば選手だって傷つきます。自分が金メダルを取ってもその後に血が流れれば、生涯、十字架を背負って生きなければならない。直接的ではないにせよ、そうすること自体が中国への「加担」ですから。 ●オリンピックというのは平和の象徴であり、正義の象徴です。 野口 ある意味で、政治の象徴でもあるんです。「政治をよくしていく」というポジティブな意味で。今回のチベット問題も、まさに政治問題でしょう。オリンピックによって実態を世界中が感知し、政治路線が変わっていくなら、それは世界にとってプラスです。「オリンピックと政治は別だ」と中国はいいますが、両者は必ずしも切り離せない。過去の歴史がそれを証明しています。ならばその関係を、ポジティブな意味に捉え直さなければならない。 |
〜ダライ・ラマの日本での記者会見〜 「オリンピックに関しては中国には開催する資格があるし成功を望んでいる。しかし、中国政府は私を悪者のように言う。別に私はどう言われてもいい。言論の自由というのは、私を悪く言う自由もあるということだから。 だけど、チベットには今言論の自由がない。現実に今、何百人も殺され、何千人も逮捕されている。そして中国本土の人たちはそれを知らない。 私はそれを悲しく思う。 どうかチベットを助けてください。誰よりも中国本土の人に言いたい。あなたたちの兄弟であるチベット民族をどうか助けてください」 |
イタリアの老舗自動車メーカー、フィアット社が“不適切なCM”を中国に謝罪した。どんな海外CMか検索したら動画があがってた(45秒)。さすがYouTube。出演しているのは、チベット支持者で知られる俳優リチャード・ギア。彼が車で旅をするんだけど、出発地点はハリウッドの(これが重要)チャイニーズ・シアター前。そこにはギア氏や有名人の手形がある。その後、彼はチベットに向かって若い僧侶と交流し、ヒマラヤの雄大な自然の中で雪山に手形を押し、最後に「変わる力」とコピーが入って締めくくられる。完璧ッス!中国の象徴としてのチャイニーズ・シアターとチベットの大地を手形と手形で握手のように結ぶという演出が見事。しかもチベット側は僧侶(子供だとソフト)との共同作業。政治的なメッセージを声高々に主張してないにもかかわらず、企業として限界に挑んでいる感じ。こんなの全く謝罪する必要なんてナシ。美しい山々の描写もあって、素晴らしい作品だと思う!これをよく45秒でまとめた。フィアット社は謝らずに「実際変わるべきです」と言って欲しかったな。でもギア氏を起用した時点で誰が見てもガンガンに政治的意図があるのに、「意図ナシ」と会見でシレッと言いのけるのは、それはそれで有効な戦法かもネ。 |