【 イラク海外派遣に思う 】
2007.1.12
'06年12月15日、防衛省昇格案と“愛国心条項”を盛り込んだ改正教育基本法が同じ日に可決された。戦前に軍部の暴走を許した反省から、防衛庁は内閣府の下に置かれていたが、これが独立した防衛省に格上げされる。 教育基本法の改正は野党が一丸となって反対したので大きくニュースで取り上げられたけれど、“防衛省誕生”のニュースは重大な法案にもかかわらず実に扱いが小さかった。郵政民営化のようには国民の関心を呼ばず、自民・公明のみならず民主党までが賛成に回った為に、ニュース性に乏しいと判断されたからだろうか? 今年発覚した防衛庁の外局・防衛施設庁の談合問題をはじめ、自衛官による情報流出、武器紛失、誤射、覚醒剤事件など不祥事が相次ぐ中、衆議院の審議時間がわずか17時間というスピード採決だった。談合汚職事件はまだ再発防止策の効果を見極めている段階だし、防衛庁長官の責任は不問のままだ。 ※談合問題…歴代防衛施設庁の官僚たちは、国民の平和と安全の為に使うべき防衛費の一部を、長年にわたって自身の「天下り」に利用していたことが今年発覚した。再就職に有利な条件を出した業者に工事を優先的に発注していたんだ。 省への格上げより国民の信頼を取り戻すことが先と僕は思うけど、防衛省誕生を読売・産経は手放しで歓迎し、リベラルの毎日も“時代の流れ”と容認に踏み切り、朝日は採決の前日にとってつけたような反対意見を書くにとどまった。 とはいえ、北朝鮮のミサイル発射や核実験への反感から、昇格案の是非を自分でもハッキリと出せず、結果的に採決当日まで沈黙することで同意の意志を示してしまった。そして法案が可決された今、もっと法案を検証して反対しておくべきだったと後悔している。 このサイトに意見を書いたって国政には何の影響もないけれど、同時代を生きている者として、政府の方針に疑問を持っている時にこそ意思表明しておく必要があると思い、このコラムを書く。 【防衛省になって何が変わるのか】 大きく分けて次の3点が変わる。 1.防衛庁長官から防衛大臣となって権限が強化。これまで文民統制(軍人ではなく文民が軍を統制=シビリアンコントロール)の観点から軍事に関する法案はすべて総理大臣を通して閣議にかけられていたが、防衛大臣が直接閣議の開催を求められるようになった。つまり防衛省が法律を作成・提出できる。また海外交渉は今まで外務省の仕事だったが、省として対等になったことで軍事交渉は防衛省が直接行なっていくと見られる。 2.防衛予算の要求も総理を通さず財務省に直接求めることが出来るようになった。 3.自衛隊法の改正(3条2項)によって、自衛隊の付随的任務だったPKOなどの海外での活動が、本来の任務に格上げされた。 ※最高指揮官は引き続き首相が務める。 マスコミ報道ではごく小さな扱いだったので感覚がマヒしそうになるけど、この3番目は自衛隊の存在理由そのものが一変する大転換だ。これまで自衛隊は「専守防衛=日本の防衛専門」という位置づけだったのが、「海外派遣活動」も主要任務となったんだ。この“活動”にはテロ対策特別措置法(特措法)の内容も含まれる。これがヤバイ。久間防衛庁長官でさえ「今までの海外での自衛隊の活動で、一番法律的に危なっかしいと思うのはテロ対策特措法だ」「(特措法は)アメリカが仕掛けた自衛のための戦争を後方支援と言いながら応援する法律」と国会で答弁している。 “報復戦争支援法”の異名を持つこの法律は、テロ支援国家への武力行使を、兵員輸送、武器運搬、燃料補給などで協力することだ。政府は「輸送・補給のみだから武力行使ではない」と主張するが、こんな論法は国際社会では通用しない。戦争は前線の兵士だけで行うものではなく、補給という後方支援があって初めて行えるもの。補給部隊がいなければ前線は崩壊するわけで、軍事物資を送り届ける日本は明らかに武力行使の当事者の一員だ。日本は憲法で武力の行使を禁じており、“法律的に危なっかしい”というのはこのこと。アフガン戦争時の「テロ対策特措法」に続いて、「イラク特措法」が成立し、“危なっかしさ”はさらに加速した。 米英が国連を軽視して先制攻撃で始めたイラク侵攻は明白に国際法に違反しており(後述)、それゆえに世界191カ国中、153カ国がイラク派遣を拒否した。しかし、日本政府は占領に積極的に協力する為にイラク特措法を成立させて自衛隊を派遣し、半数以上の国が撤兵した現在('07年1月)も空自に米軍の物資・人員を輸送させている。大量破壊兵器が存在しないどころか、開戦時の米英の説明が虚偽だったことが暴露され、イラク国内が内戦化し破滅的な状況となった今も、政府は米国を支持しイラク戦争を肯定している。 武装米兵の輸送など米英の軍事作戦を後方で支えている自衛隊は、『国際紛争を解決する手段として武力の行使や威嚇を禁ずる』とした国連憲章や日本国憲法に違反しているし、非戦闘地域の認定の仕方も“自衛隊が派遣される場所が非戦闘地域”という訳の分からないもの。そしてイラク派遣の様々な矛盾を放置したまま隊員には重装備の武器使用を認めていた。政府がこういう姿勢のまま海外派遣活動を本来任務にしたことに僕は反対する。 《まとめ》 日本がこれまで軍事組織をあえて「自衛隊」と呼び、防衛「庁」に留めて「省」としなかったのは、過去の悲惨な戦争体験から、二度と軍国主義に走らないという内外への誓いを示したものだった。防衛「庁」のままでも大きな支障はなく、いま権限の強化は必要ない。それより機密情報のネット流出や談合事件など、相次ぐ不祥事の再発防止に意識を集中すべきだ。海外派遣活動の本来任務化については、 1.国連の公式な要請の下で、国連の部隊として、 2.“非戦闘地域”において、 3.憲法に触れない平和的活動(人道支援)に限るもの であれば、国際貢献になるのでアリだと思う。でも、国連の呼びかけではなく米国の呼びかけで海外に派遣するのは反対だ。それでは中立性が保てない。補給部隊は攻撃目標となる恐れがあり、防衛の為の反撃から泥沼に入り込むのは、歴史上、多くの国がたどった道だ。海外に出すというのなら活動内容を復興支援に限定し、他軍への武器・弾薬、燃料、歩兵の輸送という軍事的な後方支援は除外するべきだ。 今回の法改正について短絡的に「日本を戦争できる国にする気だ!」と叫ぶつもりはない。しかし、歴代の日本政府が「国土防衛」に自衛隊の任務を限定し、海外派遣の際は“例外的措置”として特別措置法を個々に制定し、インド洋やイラクに派遣していたのが、「本来任務だから」と、特措法なしに派遣を可能にする恒久法を作る動きに早くもなっている。 イラクでは軍事行動の一端を担った活動が既に行なわれた。その総括もないまま防衛省に格上げされれば、なし崩し的に同様の事をするのではないかと懸念しており、動向を見すえる必要がある。 ※国際紛争はどれも複雑な背景を持っている。国連から派遣要請があれば、そのつど個々に特措法を制定していくべき。 ※今まで志願者のみだった海外派遣が今後は部隊ごとの任務出動となり、いつ海外派遣に動員されるか分からなくなったことも大きな変化だ。
※'07年1月9日に防衛省が発足。その3日後にはさっそく安倍首相が欧州の軍事同盟NATOを訪問し、「日本とNATOは、これまで以上に互いの能力を発揮し、ともに行動する必要がある」と宣言した。NATO訪問は歴代首相で初めて。これまで政府は憲法との絡みもあり、軍事同盟のNATOとは距離を置いてきたからだ。 ※念の為に書いておくけれど、僕はイラク派遣自体には反対しているものの、サマワの復興支援で汗を流した自衛隊員はすごく頑張ったと思っているし、全員が無事に帰国できて心から胸を撫で下ろしている。宿営地に何度も迫撃砲が撃ち込まれ、コンテナをロケット弾が貫通したり、オランダ軍兵士の死傷者も出るなか、最終的には撤収完了まで武装勢力との間に本格的な交戦がなかったのも本当に良かった。 ★参考資料〜イラク問題の総括 ここから先は海外派遣の在り方を考える資料として、イラク戦争を例に政府の問題点を掘り下げていく。イラク侵攻や自衛隊の米英軍への後方支援がなぜ国際法に違反しているのか、具体的に説明したい。(もし事実誤認があれば遠慮なくご指摘下さい。すぐに調べ直します) 【海外派遣活動の問題点】 自衛隊のイラク派遣は「人道復興支援」が目的とされていた。では何が問題になっているのか。 '03年7月に成立したイラク特措法の第1条で、政府はイラク戦争を「安保理決議678、687、1441に基き国連加盟国(米英)が行った行為」として、あたかも国連決議に基づく合法的なものであったかのように書いている。冗談じゃあない。 そもそも米英の武力行使を正当化するような安保理決議は存在しない。 安保理決議678は'91年3月の湾岸戦争当時のもので、「クウェートの平和と安全を回復するため国連加盟国に必要な権限を与える」と決議したものだ。クウェートの国境回復と同時に決議の役目は終わっているので、当然武力行使の理由にならない。 決議687も'91年4月のもので、この決議ではイラクの大量破壊兵器の開発・保有が禁止されたが、実際は大量破壊兵器はなかったばかりか、もともと疑惑となる証拠すらなく、米英の情報操作が暴露された。 '02年11月の安保理決議1441は、決議の最後でイラク問題全般に関して「安保理は引き続きこの(査察)問題に取り組む」とし、様々な疑惑の存在を認めつつも“イラクへの武力行使を許可する”という文言は載せなかった。だからこそ'03年に入っても米英は武力行使を認める新たな決議を求めていた。 そして'03年3月19日、米英はイラク攻撃を容認する安保理決議の採択がないまま、「大量破壊兵器を隠しているのは疑いない」としてイラク戦争に突入した。ブッシュ大統領は「国防の為には、時によっては先制攻撃が必要である。戦争こそが唯一の防衛手段である。米国は必要であれば単独行動をためらわず、先制攻撃という自衛権を行使する」と言いのけた。 もとより国連憲章第2条第3項は「全ての加盟国は国際紛争を平和的手段によって解決しなければならない」とし、第4項では「全ての加盟国は武力による威嚇または武力の行使は慎まなければならない」と定め、国際紛争の解決手段としての武力行使を禁止している。 例外的に国連憲章が武力行使を認めるのは次の2点だが、いずれのケースもイラク攻撃を正当化できない。 ●安全保障理事会が侵略行為を認定し、安保理決議で国連軍を派遣する場合(第42条)…イラクは米英を侵略していないし、テロ支援もしていないので、「テロとの戦い」をイラク戦争の理由とすることはできない(むしろフセインとアルカイダは敵対していた)。前述したように安保理決議も出ていない。 ●自衛権の行使(第51条)…自衛権を主張できるのは自国に対する武力攻撃が発生した場合だけ。イラクは米英を攻撃しておらず、米英の自衛権行使は認められない。'04年10月、アナン国連事務総長は米英の先制攻撃で始まったイラク戦争が国際法に違反することを明言し、「世界の平和・安定が依拠してきた原則に対する根本的挑戦である」と厳しく批判した。 つまり国連が認める武力制裁は、国家が国家を攻撃した場合にのみ発動される。大量破壊兵器の保有疑惑は武力攻撃の理由にならない。厳密に国際法を適用すれば、逆に米英の方がイラクの領土に軍事侵攻したことで制裁を受けねばならない(イラク側は自衛権の行使となる)。この違法なイラク攻撃の延長線上に占領軍の駐留が行われている。それゆえに、国連加盟国の4分の3を超える国がイラク派遣を拒否した。アラブ諸国からの参加国はゼロだ。しかも派遣した38カ国のうち半数は150人以下の人員であり、これらは米国の要求を拒否しきれなかった象徴的派遣といえる。 ※米英以外で千人以上の大規模派遣をしたのは、韓国、イタリア、ポーランド、ウクライナ、スペイン、オランダの6カ国。日本は800名。 【自衛隊の任務〜陸自は人道復興支援、空自&海自の後方支援は法的に戦闘行為】 国連憲章第2条でも憲法第9条でも、そしてイラク特措法第2条2項でも、「武力による威嚇や武力の行使」は国際紛争を解決する手段として認められていない。 イラク特措法は第8条6項で「武器・弾薬の提供」を禁止しているが「輸送」は認めている。また、攻撃準備中の戦闘機への給油・整備を禁じているが、待機中の戦闘機には給油・整備ができる。これはもう、米英軍の戦闘行動と自衛隊の後方支援は一体といえる。実際、'04年4月、航空自衛隊の津曲義光幕僚長が、空自の輸送部隊が武装した米軍兵士を運んでいることを喋ってしまい大きな波紋を呼んだ。日本国民はサマワで陸自が行なっている給水作業や道路舗装を見て“人道復興支援”と思っていたが、一方で武装した米兵をクウェートからイラク(タリル空港)へ運んでいたんだ。国際法では戦地への歩兵や武器・弾薬の運搬は、自ら直接の武力行使を行わなくても軍事行動と見なされており、当然ながら憲法に抵触する。海自がインド洋で行なっている作戦中の米艦艇への給油も国際社会では軍事行動(集団的自衛権の行使)と認定される。 イラク特措法第2条3項では、派遣先が“非戦闘地域”であることが大前提になっている。政府は「他国の武力行使との一体化と見なされる後方支援は違憲である」としているが、一体化であるか否かの主な判断基準に活動地が“非戦闘地域”であることをあげている。自衛隊は米軍に、燃料、食糧、装備品、そして鉄条網等の資材を含めあらゆる軍需物資を輸送しているが、物資の詳細や運搬先などの情報は“米兵輸送”の一件以来、全て不開示となった。理由は「公にすれば他国軍の部隊の動向を推察される恐れがある」というもの。おかしな話だ。“非戦闘地域”へ輸送するなら何も危険がないし、むしろ「こんなに自衛隊は活動している」とアピールできる機会なのに。 輸送物資が本当に人道復興支援のものなら、開示しても他国軍部隊の動向を知らせることもないはず。小泉首相は「武力行使を目的とする多国籍軍に、日本は、自衛隊であれどのような組織であれ参加しない」と答弁したが、輸送物資の大半を公開出来ないということから、米英軍への軍事的な後方支援であることは明らかだ。 派遣隊の武装内容も問題になっている。カンボジア('92)&モザンビーク('93)へのPKO派遣時の武器は拳銃・小銃までだった。ゴラン高原('96)&東チモール('02)の派遣時にはこれに機関銃が加わった。そして今回、イラク派遣は人道支援にもかかわらず、以下のように「対戦車砲」を含んだ重武装になっている。 ●96式装輪装甲車…戦車並の装甲を有した八輪駆動の装甲兵員輸送車。武装は12.7o重機関銃or96式40o自動てき弾銃(オートマチック・グレネード・ランチャー)。これらの銃器は車から外し三脚架に載せて使用可能。重機関銃は1キロ以内であれば軽装甲車両も撃破可能。最高時速100キロ、8名の歩兵が搭乗可。 ●110o個人携行“対戦車”弾…肩射ち式の軽量対戦車無反動砲。射程距離500m。 ●84o無反動砲…対戦車榴弾や対人榴弾の使用可能。射程距離700m(対戦車榴弾)〜1000m(対人榴弾)。 その他、軽装甲機動車、MINIMI軽機関銃、89式小銃、9o拳銃など。 これは非戦闘地域における装備なのか。戦車並みの装甲車や対戦車砲は、禁じられた「武力による威嚇」に相当しないのか。'04年5月、北富士演習場(山梨)にサマワの宿営地の模擬施設が設置され、出兵前の隊員は敵襲撃に備えた実戦訓練を受けるようになった。敵役の隊員はターバンを巻いた姿でイラク人の武力攻撃を想定したもの。これは派遣先が非戦闘地域ではないと主張しているのと同じだ。 ※特措法延長の際、額賀防衛庁長官がたった5時間のサマワ滞在で「安全宣言」を行ない非戦闘地域と再確認された。ちなみに自衛隊の派遣費用は1日あたり約1億円('06年9月時点で609億円)。 国際法的にはイラクにおいてイラク人が自衛隊を攻撃することは、侵入した外国の軍隊に対する合法的な戦闘行為。自衛隊がこれに反撃することは他国の領土なので『自衛の攻撃』とはみられない。しかし日本政府は正当防衛を理由に武器の使用を許可している(特措法第12条)。補給ラインを断つことは戦闘の基本。状況だけを見れば「自ら戦闘地域に身を置きながら、攻撃を受けるのを待って武力行使を行なう機会を狙うようなもの」と受け止める人もいるだろう。 政府はイラク特措法第1条の中で「安保理決議第1483号を踏まえ人道復興支援活動及び安全確保支援活動を行う」と、まるで派遣に国連決議のお墨付きがあるかのように書いているが、1483号はイラク国内の極度の治安悪化に伴い、事実上イラクを占領している米英軍を占領軍と認定することで、国際法(ハーグ規則やジュネーブ条約)が定めた占領国としての義務、治安維持や福祉の保護を果たすよう「要請」したものだ。けっして占領統治も武力行使も合法化してはいない。 また特措法第2条の文中では、日本が「主体的かつ積極的に寄与」しようとする対象は「国際社会の取り組み」とだけ書かれており、“国連の取り組み”とは書かれていない。イラクでの「国際社会の取り組み」とは米英の軍事作戦・占領政策であり、特措法自身が派遣の目的を国連の活動以外に寄与する事を自ら認めてしまっている。 ※ハーグ規則43条…占領者は占領地の現行法律を尊重して公共の秩序及生活を回復確保する為、一切の手段を尽すべし。 ※ジュネーブ第4条約55条1項…占領国は住民の食糧及び医療品の供給を確保する義務を負う。占領国は占領地域の資源が不十分である場合には、必要な食糧、医療品その他の物品を輸入しなければならない。 ---------------- 【参考資料・追記〜米軍の軍事作戦の実態】 ハーグ陸戦法規23条では「毒を施したる兵器、不必要の苦痛を与うべき兵器」「投射物(無差別的効果)」「自衛手段を持たない投降者の殺傷」を禁じ、25条では「無防備な建物への砲撃」が禁じられている。 ●劣化ウラン弾…放射能が残り将来にわたって長期的に苦痛を与える。汚染地域の非戦闘員も被曝。特に胎児に深刻な被害。米軍はバグダッド市内でも使用しており米兵まで被曝している。一種の核兵器と呼ぶ学者も。(不必要な苦痛) ●白リン弾…化学兵器。'05年11月の第二次ファルージャ攻撃に使用したことをペンタゴンが認めた。弾頭から出るガス=雲状になった白リンの粉が約150mの範囲に広がる。白リンは防御マスクを通過して顔まで届き、人体(湿気)に触れた途端に発火する。粉を吸い込んだ場合は、口・喉・気管・肺・目・鼻・耳で発火し、肉が骨まで焼け人体を内部から溶かしていく。燃焼温度は実に5000度にも達し、その範囲に存在する全ての人、動物を焼き尽くす(服や靴は焼けずに残る)。水を掛けても燃え続ける化学兵器。(不必要な苦痛) ●クラスター爆弾…空中から広範囲に大量の爆弾を浴びせ、不発弾は地雷となって長く危険が残る。米英軍が人口密集地で使用したことで多くの子どもが巻き込まれ、ユニセフの報告ではフセイン政権崩壊後に、1000人以上の子どもが同兵器の不発弾で死亡しているとのこと。(無差別的効果) ※劣化ウラン弾、白リン弾、クラスター爆弾は、国際的に使用禁止されている武器ではなく、劣化ウラン弾以外は自衛隊も装備している。しかし国際法のハーグ陸戦法規23、25条の主旨から考えると、これらの兵器の使用は禁止されてしかるべきだし、その意味において国際法違反だと僕は思う。 ●無差別軍事攻撃…'03年4月のイラク・ファルージャ市への攻撃は、病院などの民間施設まで無差別に標的にし、600〜千人という多数の市民の命を奪った。帰還米兵やジャーナリストの告発で、多くの女性や子どもが殺されたこと、白旗を握り締めていた老婆が背中から腹部を撃ち抜かれたり、救急車ですら銃撃されるという想像を絶する米軍の蛮行が判明した。民間施設への攻撃はもちろん、民間人への攻撃は国際法の重大違反。※ファルージャの虐殺は地域住民の反米感情を爆発させた。外国人を人質にとって殺害するという暴走はこれをきっかけに広まった。日本人3人が拉致されたのはファルージャ侵攻の翌日だった。 他地域では結婚式が空爆されて40名以上が死亡した悲惨な事件や、モスク内部で無抵抗の人間を射殺した事件もあった。また、米軍が放送局アルジャジーラを攻撃したのも、軍事目標だけを狙うことを定めた国際法の違反だ。 ●捕虜虐待…アブ・グレイブ捕虜収容所における拷問と虐待はジュネーブ条約違反。しかもアブ・グレイブの“囚人”らは、民家や検問所から無差別に選ばれた人間が約6割。米軍が情報収集の為に連行したもので、テロ事件とは無関係の市民だった。 イラク戦争の開戦以降、犠牲になった市民の数は最低で4万人、最大で10万人といわれている。本来ならブッシュは戦犯。“イラク国民を解放しに来た”と言っておきながら、最前線は新兵器の実験大会さながら。誤爆につぐ誤爆で1万人近い一般市民の命を奪っても、遺族への補償は「戦争に誤爆は付き物、請求はフセイン旧政権に」(ラムズフェルド元国防長官)とビタ一文出していない。 ※もっと詳しくイラク戦争の実情を知りたい方には、海外ドキュメンタリー『ファルージャ・隠された大虐殺』(27分)をお薦めします。ただしナレーションが英語なので、まずコチラの訳文を。あまりに凄惨な映像なので訳文を読んでから見るかどうかを判断して下さい。 ※'06年下半期のイラク市民や警察官の死者は1万7310人。上半期の5640人に比べて3倍以上に増えている。 |
『情報保全隊―自衛隊は国民を監視するのか』(07.6.7朝日) 自衛隊は国民を守るためにあるのか、それとも国民を監視するためにあるのか。そんな疑問すら抱きたくなるような文書の存在が明らかになった。 「イラク自衛隊派遣に対する国内勢力の反対動向」と「情報資料」というタイトルに、それぞれ「情報保全隊」「東北方面情報保全隊長」と印刷されている。文書は全部で166ページに及ぶ。共産党が「自衛隊関係者」から入手したとして発表した。 久間防衛相は文書が本物であるか確認することを拒んだが、この隊がそうした調査をしたことは認めた。文書の形式やその詳細な内容から見て、自衛隊の内部文書である可能性は極めて高い。 ■何のための調査か 明らかになった文書の調査対象は03年から04年にかけてで、自衛隊のイラク派遣への反対活動ばかりでなく、医療費の負担増や年金改革をテーマとする団体も含まれている。対象は41都道府県の290以上の団体や個人に及んでいる。 文書には映画監督の山田洋次氏ら著名人、国会議員、地方議員、仏教やキリスト教などの宗教団体も登場する。報道機関や高校生の反戦グループ、日本国内のイスラム教徒も対象となっていた。 自衛隊のイラク派遣は国論を二分する大きな出来事だった。自衛隊が世論の動向に敏感なのは当然のことで、情報収集そのものを否定する理由はない。 しかし、文書に記されているのは、個々の活動や集会の参加人数から、時刻、スピーチの内容まで克明だ。団体や集会ごとに政党色で分類し、「反自衛隊活動」という項目もある。 これは単なる情報収集とはいえない。自衛隊のイラク派遣を批判する人を頭から危険な存在とみなし、活動を監視しているかのようである。 ■「反自衛隊」のレッテル 文書によると、調査をしたのは陸上自衛隊の情報保全隊だ。保全隊は03年にそれまでの「調査隊」を再編・強化してつくられた。陸海空の3自衛隊に置かれ、総員は約900人にのぼる。 情報保全隊の任務は「自衛隊の機密情報の保護と漏洩(ろうえい)の防止」と説明されてきた。ところが、その組織が国民を幅広く調査の対象にしていたのだ。明らかに任務の逸脱である。 防衛庁時代の02年、自衛隊について情報公開を請求した人々のリストをひそかに作り、内部で閲覧していたことが発覚した。官房長を更迭するなど関係者を処分したが、その教訓は無視された。 調査の対象には共産党だけでなく、民主党や社民党も含まれている。野党全体を対象にしていたわけだ。 04年1月に福島県郡山市で行われた自衛隊員OBの新年会で、来賓として招かれた民主党の増子輝彦衆院議員が「自衛隊のイラク派遣は憲法違反であり、派遣に反対」と述べた。保全隊はこれを取り上げ、「反自衛隊」としたうえで、「イラク派遣を誹謗(ひぼう)」と批判している。 イラク派遣の是非は政治が判断すべき問題だ。どういう結果にせよ、自衛隊はそれに従うまでで、政治的に中立であるはずだ。自衛隊にまつわる政策に反対する議員らをそのように扱うことは、あってはならないことだ。 イラク派遣については、自衛隊のことを思えばこそ反対した人たちも少なくなかった。イラク派遣に反対することが「反自衛隊」だとはあまりにも短絡的な考え方である。自衛隊がそんな態度をとっていけば、せっかく築いた国民の支持を失っていくだろう。 報道機関を調査の対象にしていたことも見逃せない。 たとえば、岩手県で開かれた報道各社幹部との懇親会での質問内容が、個人名を挙げて掲載されていた。自衛隊が厳しい報道管制を敷いていたイラクでの活動については、「東京新聞現地特派員」の記事や取材予定をチェックしていた。 イラク派遣について自衛隊員や地元の人々の声を伝えた朝日新聞青森県版の取材と報道について、「反自衛隊」と記録していた。「県内も賛否様々」と題して両論を公平に伝えたこの記事が、なぜ反自衛隊なのか。 ■文民統制が揺らぐ 自衛隊は国を守る組織だが、それは自由な言論や報道ができる民主主義の国だからこそ真に守るに値する。そうした基本認識がうかがえないのは残念だ。 防衛省はこうした情報収集について、イラク派遣への反対運動から自衛隊員と家族を守るためにしたことで、業務の範囲内という立場だ。しかし、それはとても通用する理屈ではない。 忘れてはならないのは、武力を持つ実力組織は、国内に向かっては治安機関に転化しやすいという歴史的教訓である。戦前、軍隊内の警察だった憲兵隊がやがて国民を監視し、自由を抑圧する組織に変わっていった。 よもや戦前と同じことがいま起きるとは思わないが、よくよく気を付けなければならないことだ。自衛隊を「軍」にするという憲法改正案を政権党の自民党が掲げている現状を考えれば、なおさらである。 今回明らかになったのは全体の活動の一部にすぎまい。政府はこうした活動について、詳細を明らかにすべきだ。 守屋武昌防衛事務次官は「手の内をさらすことになるので、コメントするのは適切ではない」という。開き直りとしかいえず、とても納得できるものではない。無責任の極みである。 こうした事実を政府がうやむやにするようでは、文民統制を信じることはできない。国会も役割を問われている。 |
「もともと普通の人々は戦争したいと思っていない。だが、国の政策を決めるのは、結局その国のリーダーたちだ。民主主義であろうと、ファシズムの独裁であろうと、共産主義であろうとそれは同じだ。『我々の国が攻撃されている。愛国心のない反戦・平和主義者が国を危険にさらそうとしている』と訴えさえすればいい。この方法はすべての国で同じように効果的だ」 (ヘルマン・ゲーリング)元ナチス・ドイツ最高幹部/秘密国家警察(ゲシュタポ)創設者 |