優しき反骨者、偉大なる文豪
【 あの人の人生を知ろう〜ドストエフスキー編 】

Fyodor Mikhailovich Dostoevsky 1821.11.11-1881.2.9 享年59


  
我が大恩人ドストエフスキー!愛してます!どこまでも付いていきますッ!



ペテルブルク市内のドストエフスキー像は待ち合わせ場所としても有名 道を教えてくれたお父さん

●ドストエフスキー博物館(ペテルブルク)

ドストエフスキーが最後に住んだ家は彼の博物館に。
ペテルブルクに28年暮らし、20回も引っ越しをした。
彼の部屋は2階の10号室で6部屋からなる
入口は不思議な作り。
半分地下になっている
(クズネーチヌイ横町)
博物館外壁のレリーフ。
レーピンが描いたドスト
エフスキーの姿がもと
玄関にあったドスト
エフスキーの帽子!



ドストエフスキーが愛用したルーレット。
小説のネタになるほどハマッてしまった
彼の煙草もきちんと保存&公開

巨匠自筆の手紙。ロシア語が読めれば
これがなんの手紙か分かるのだが…

ドストエフスキー家の食卓!ここで
彼は家族とテーブルを囲んでいた
ロシアの青年が書斎の入口にたたずんでいる!
机に向かう作家の姿を想像しているのだろう!





ぐおお!ここがッ!あのッ!ドストエフスキー大先生
の書斎ッ!この机で“カラマーゾフ”が書かれたッ!
※完全に“夜型”で2本のロウソクで執筆したとのこと
書斎の時計は逝去した
時刻で停止(ユリウス暦
1881年1月28日20:38
書斎の奥にある赤いソファーで絶命した。壁の絵は
『システィナのマドンナ』(ラファエロ)を拡大した複製画






アンナ夫人の仕事部屋。夫人は長年に
わたって夫の原稿を清書してきた
博物館の売店にあった絵葉書。この建物が
『罪と罰』のラスコーリニコフの家のモデル
文豪のデスマスク。
合掌!!

●ロシア文学博物館(ペテルブル


  
ペテルブルクのロシア文学博物館は文学ファンの聖地。文豪達の遺品がたくさんあり、ドストエフスキーも眼鏡や財布が展示されていた


作家であり人道主義者。人間の繊細な精神を徹底して洞察し、人類の本質を捉え、“世界文学上でもっとも偉大な心理学者”と呼ばれる。人々が内面に抱えた様々な矛盾を、愛を土台に文字で描き尽くし、“写実主義的ヒューマニズム”の金字塔を打ち立てた。

1821年11月11日、モスクワ生まれ。父は慈善病院の医師。17歳の時にサンクトペテルブルクの工兵士官学校へ入学。卒業後に勤務した工兵局が肌に合わず約1年で退職し作家を目指す。1846年(25歳)、虐げられた無力な民衆に共感を込めてペンを握り、貧乏な下級役人の悲恋を描いた処女小説『貧しき人々』によって批評家から「第二のゴーゴリ現る!」と絶賛された(詩人ネクラーソフは感動のあまり朝4時にドストエフスキーの家を訪ね、祝福するため叩き起こした)。

●帝都ペテルブルグからシベリア流刑地へ

華々しく作家デビューを果たしたドストエフスキーであったが、ロマノフ王朝による帝政に反発し、次第に政治運動に目覚めていく。1849年(28歳)4月、農奴制廃止を訴え、社会主義理論を探究する青年知識人の地下サークル(秘密結社)に加わっていたドストエフスキーは、当局側の潜入スパイの密告によって“危険分子”として仲間と共に逮捕・投獄された。ペトロパヴロフスク要塞に収監された彼を待ち受けていた判決は死刑
同年12月22日、処刑当日。ドストエフスキーを含む同志21名は、処刑場のセミョーノフスキー練兵場に移された。銃殺刑であり、3本の柱が立てられる。死刑囚はヨコ3列、タテ7列に並ばされた。ドストエフスキーは第2列であり、死は目前に迫っていた。
そして、今まさに銃殺刑にされるというその直前に急ぎの使者が現れ、“皇帝陛下の寛大な慈悲によって”死刑執行は中止となった。刑罰は4年間のシベリア流刑に減刑された。
実は逮捕から処刑中止もすべて皇帝の寛大さを示す仕組まれたパフォーマンスだったが、「数分後に殺害される」という境遇に置かれたことは決定的な体験となった。

思想犯として拘禁されていたペトロパヴロ
フスク要塞。ここからシベリアに移送された
夕陽で真っ赤に染まったペテルブルク市街。
8月に訪れると午後10時が日没だった

その後、西シベリアのオムスクで4年間の過酷な強制労働に従事し、鞭で打たれ一切のプライバシーを奪われた環境で精神がズタズタになっていく。ドストエフスキーは心の救済を求め、その拠り所となったキリスト教に開眼。無神論的社会主義者からキリスト教的人道主義者へと変化した。流刑地の犯罪者たちは、同じ人物がときに卑劣であったり英雄的な行動を取る二面性を持っていたことから、ドストエフスキーの人間観察の眼が養われていった。

1854年(33歳)に服役を終えると、続けてモンゴル国境付近の兵卒勤務を命じられた。35歳、同地で知り合った若い未亡人と結婚。1859年(38歳)、10年ぶりにサンクトペテルブルクへの帰還を許される。
再びペンをとったドストエフスキーは1861年(40歳)に兄ミハイルと月刊の文学政治雑誌「時代」を創刊。シベリアの囚人生活を克明に描写した『死の家の記録』を連載し文壇に復帰。同年、苦悩と救済をテーマにした『虐げられた人たち』連載開始。翌年、初めての外国旅行。
1864年(43歳)、「時代」が当局から発禁処分にされると評論誌「世紀」を刊行。ここに代表的中編小説となる『地下室の手記』を掲載した。同作では近代文学史上初めて、社会への反逆心を持つ自虐的な“アンチヒーロー”が描かれた。同年、肺病で妻が他界。兄も逝去し、残された債務を背負ったドストエフスキーは極度の貧困に苦しむ。

●名作、続々!

1865年(44歳)から『罪と罰』の連載を雑誌でスタート。翌年、ドストエフスキーは借金の代償として「短期で別の新作を完成させよ」「さもないと全作品の著作権を譲渡してもらう」と悪徳出版社に迫られ、実体験のルーレット地獄を題材に『賭博者』を口述筆記により26日間で完成させた。
その際知り合った速記者アンナ・スニートキナと再婚。同年、『罪と罰』を脱稿。債権者の追撃は止まず、ドストエフスキー夫妻はジュネーブやフィレンツェに脱出。この外国での4年間の逃避行の中で、1868年(47歳)に『白痴』が、1872年(51歳)に『悪霊』が完成した。
同時期にロシアへ帰国し、ようやく文豪として収入が増し生活が安定する。1880年(59歳)に作家人生の集大成となる最後の小説『カラマーゾフの兄弟』第1部を完成。翌1881年2月9日、サンクトペテルブルクで家族に看取られながら60年の生涯を閉じた。『罪と罰』、『白痴』、『悪霊』、『カラマーゾフの兄弟』の4大長編が書かれた約15年間は“傑作の森”といえよう。
ロシアが誇る大作家でありながら、人道主義の立場から反権力であった為、スターリンの独裁支配にあった1924年から1953年まで『貧しき人々』以外の多くの作品が発禁処分にされた。

・『罪と罰』…貧しい大学生ラスコーリニコフは、高利貸しの老婆を殺害。奪った金を社会のために役立てようとするが、合理的に説明できない罪の意識に襲われ苦悩する。そんな彼に“聖なる娼婦”ソーニャが救済の道を指し示す。人間回復の書。
・『白痴』…無欲でどこまでも他人に優しく、無垢・純粋さゆえに人々から“白痴”呼ばわりされるムイシュキン公爵。彼が不遇な女性ナスターシャを救おうとして悲劇が起き、無思慮な人々に翻弄され本当の精神的危機に陥る。
・『悪霊』…魂を悪霊に支配されたように暴走していくテロリストの青年たち。悪魔的主人公の代名詞スタブローギンの不気味な存在感がヤバすぎる。恐ろしい野郎!
・『カラマーゾフの兄弟』…強欲の権化である父親、粗野だが男気のある長男、クールな無神論者の次男、善良で美しい魂を持つ三男、遺産を狙う私生児が織りなすカラマーゾフ家の人間模様。やがて父親殺しの事件が起き、人間の業や矛盾が露わになっていく。作者は三男のアリョーシャにロシアの未来を託した。

『白痴』には処刑直前の人間の心理が次のように書かれている。「処刑前の5分間について彼は時間の割り振りをした。まず友達との別れに2分間ばかりあて、さらに2分間をもう一度自分自身の人生を振り返る為にあて、最後の1分間はこの世の名残りに、周囲の自然風景を静かに眺める為にあてたのです」。これは間違いなくドストエフスキーが28歳の時に直面した銃殺刑の恐怖が書かれたものだろう。こんな体験をして、4年間もシベリアで強制労働をさせられたのに、出所後に創刊した月刊誌でまた体制批判を展開して当局から発禁処分を受けている…この筋金入りの反骨心!

人間の残酷さや弱さを全面に出しながら、それでもなお人類を信じていたいという彼の切実な叫びは、マジで読む者の胸を締め付ける。どの作品も他の作家の追随を許さぬ緊迫した心理描写が見事。同時にシニカルなユーモアも随所に炸裂し、読み手をニヤリとさせるのがメチャメチャうまい。深刻な内容でも退屈さとは無縁だ。
僕は彼が作中に描くお人好しなアンチ・ヒーローたちを愛してやまない。人の悲しみを知りすぎる優しさがドストエフスキーにはある!

●筆者初めての墓巡礼〜1987年、墓マイラー開眼

・「死んでやるわ」「でも、可哀想だな」「誰が?」「生命がさ」(『地下室の手記』)

処刑場や流刑地で文字通り生と死の狭間を垣間見た彼が書いた作品は、どれも血文字で書かれているようだ。
1987年8月9日、ロシアのサンクトペテルブルク(当時はソビエトのレニングラード)に眠るフョードル・ミハイロビッチ・ドストエフスキーの墓前に僕は立った。我が怒涛の墓巡礼ライフはこの地から始まった。ときに19歳。10代最後の思い出に、青春時代の命の恩人であるドストエフスキーに、どうしても直接感謝の気持ちを伝えたかったんだ。彼の小説を通して、青春期は怒りを感じていた人間の弱さや負の面を、それらも含めての人間であり、愛すべきものと思えるようになった。

  19歳の夏。墓巡礼の日々はここから始まった(1987)

この墓参体験がとにかく強烈だったッ!それまでドストエフスキーの作品に強く影響されながらも、作者本人は架空の人物のようでリアリティがなかった。だけど、実際に目の前の墓と正面から向き合ってみると、「嗚呼、本当に彼は実在したんだ!」と全細胞が打ち震えた!芸術の雷、アートサンダーが直撃!その瞬間、これまで小説で感銘を受けてきた様々なセリフに、いっきに熱い血が流れ込んだ。それは驚天動地のエキサイティングな体験で、結局この感激が忘れられず、シェイクスピア、ゲーテ、ゴッホ、ベートーヴェン、手塚先生、黒澤監督…と巡礼の虜になってしまった。

第1部が完成しただけで遺作となった『カラマーゾフの兄弟』は、未完とはいえ2年を費やした大作。非常に読み応えのある傑作だ。彼が構想を練っていた第2、3部も非常に気になる。僕は死んだらあの世で真っ先に彼に続きを聞きに行くつもり。これは死後の最大の楽しみッス!(笑)

※「ドストエフスキーは、どんな思想家が与えてくれるものよりも多くのものを私に与えてくれる。ガウスよりも多くのものを与えてくれる」(アルベルト・アインシュタイン)
※黒澤明監督「あんな優しい好ましいものを持っている人はいないと思うのです。それは何というのか、普通の人間の限度を越えておると思うのです。それはどういうことかというと、僕らが優しいといっても、例えば大変悲惨なものを見た時、目をそむけるようなそういう優しさですね。あの人は、その場合、目をそむけないで見ちゃう。一緒に苦しんじゃう、そういう点、人間じゃなくて神様みたいな素質を持っていると僕は思うんです」
※村上春樹が愛する3大小説…『カラマーゾフの兄弟』、『グレート・ギャツビー』(フィッツジェラルド)、『ロング・グッドバイ』(レイモンド・チャンドラー)。


・「人間というものは、不幸の方だけを並べ立てて幸福の方は数えようとしないものなんだ。ちゃんと数えてさえすれば、誰にだって幸福が授かっていることが、すぐ分かるはずなのにね」(『地下室の手記』)

・「僕は君に対してひざまずいたんじゃない、人類全体の苦痛の前にひざまずいたんだ」(『罪と罰』)

・「青年は笑っていましたけれど、やはり泣いていたのです…なぜならロシア人は泣くべきところで、笑うことが非常に多いからです」(『カラマーゾフの兄弟』)

※生涯の年表(他サイトへのリンクです。素晴らしい出来!)


●2005年、18年ぶりにドストエフスキーに再巡礼

  
ペテルブルク中心部を4.5kmにわたり西東に貫くネフスキー大通り。エルミタージュ美術館からドストエフスキーの眠るアレクサンドル・ネフスキー大修道院へと続く

アレクサンドル・ネフスキー大修道院の入口 正門をくぐると左右に墓地がある。向かって右が目的地 墓地内の標識。チャイコフスキーの名前もある













花に囲まれたドストエフスキー。手前の
鉄柵が開くことを知らない人が多い
ドーン!! 「どひー!」涙の墓タッチ。あのヒーロー
にここまで接近することが出来る!

●2009年、再々巡礼

3度目の巡礼。この時はたくさんの人だかり!次々と
団体さんが来て、なかなか1対1になれず(2009)
胸像の真下にも花がいっぱい。
スパシーバ・フョードル!(2009)


参考文献…『世界人物事典』(旺文社)、『エンカルタ百科事典』(マイクロソフト)、『世界文学小辞典』(新潮社)、
『世界大百科事典』(平凡社)、『ブリタニカ国際大百科事典』(ブリタニカ)、ウィキペディアほか



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※番外編〜歴史ロマン/徹底検証!卑弥呼と邪馬台国の謎(宮内庁に訴える!)




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