最新文芸情報


2019.1〜2

●2月28日…〔今日の良かった〕僕は欧州分断に繋がる英国のEU離脱に反対なんだけど、昨日イギリスのメイ首相が、初めて離脱期日の延期を容認する姿勢を示した。国際経済を巻き込む無秩序な離脱を選べば、欧州経済の混乱は必至。社会の不公平感は、移民が悪いんじゃなく、制度として富の再分配がきちんと出来てないから。
●2月27日…〔今日の良かった〕一昨日のアカデミー賞発表は時代の変化を伝える象徴的なものだった!
2015年、16年と2年連続で主演と助演の男女優部門20人が全員白人だった際、“白いアカデミー賞”と批判され、黒人のスパイク・リー監督が授賞式をボイコットする事態になった。あれから3年、今年はそのスパイク・リーが脚色賞(「ブラック・クランズマン」)に輝き、スピーチで来年の大統領選に言及「みんなで一緒に歴史を正しい方向に導こう。愛と憎悪の戦いの中で正しい選択をしよう。ドゥ・ザ・ライト・シング(正しいことをしよう)!」。受賞作は白人至上主義の結社KKKに黒人刑事が潜入捜査するというもの。スパイク・リーは数多くの名作を生んできたのに、今回がオスカー初受賞だ。

作品賞、脚本賞、助演男優賞の3部門を獲得したピーター・ファレリー監督『グリーンブック』も黒人が主人公。天才黒人ピアニストと白人の用心棒がツアーのため米南部を旅し、黒人と白人が互いを理解し合う映画という。対立を描いて問題提議して終わりではなく、その先へ進んでいる。

アメコミ映画で初めて作品賞にノミネートされた『ブラックパンサー』は黒人の王がヒーローとして活躍し、名セリフ「危機に瀕した時、賢者は橋を架け、愚者は壁をつくる」で締めくくる。本作は衣装デザイン賞と美術賞、作曲賞を獲得。
長編アニメ賞の『スパイダーマン:スパイダーバース』の主人公はアフリカ系とプエルトリコ系の両親を持つマイルス少年。助演女優賞の『ビール・ストリートの恋人たち』は黒人青年が無実の罪を着せられる。
2017年はゲイの黒人が主人公の『ムーンライト』、2018年には障がい者と半魚人のロマンス『シェイプ・オブ・ウォーター』と、主人公がマイノリティーの映画が作品賞に選ばれてきて、今回の非白人系の大活躍で完全に“白いアカデミー賞”時代は過去のものとなった。

映画興行面からの大変革は、劇場公開作ではなく動画ストリーミング配信プラットフォーム「Netflix」のオリジナル映画『ROMA/ローマ』が監督賞(メキシコ出身のキュアロン)・撮影賞・外国語映画賞の3部門を獲得したこと。劇場公開を前提としない低予算の映画がオスカーに輝いたことで、これからは客入りの見込めないアート系の映画でも作りやすくなるだろう。
キュアロン監督「1人の現地(メキシコ)の女性を中心にした作品を評価いただき感謝する。労働者の権利を認められていない7000万人の1人だ。これまでの映画では背景に過ぎなかった存在だ」。

主演男優賞は『ボヘミアン・ラプソディ』でフレディ・マーキュリーを演じたエジプト系米国人ラミ・マレック。アラブ系俳優で初の主演男優賞!スピーチがとてもよかったので紹介。
「(少年時代の自分に)いつかこんなことが起きるんだよって伝えたらどう思うだろうと考えている。きっと、くせ毛頭が爆発するほどびっくりしていたことでしょう。彼は自分のアイデンティティに悩んで、自分のことを理解しようとしていましたから。僕たちは、人に媚びることなく自分らしい人生を生きた移民の同性愛者についての映画を作りました。そんな彼と彼の物語を今夜祝福していることこそ、こういった物語がもっと語られるべきであることを示している。僕はエジプトからの移民の息子で、アメリカ人としては一世にあたります。そんな僕のストーリーが今刻まれている。この瞬間にたどり着くことを信じ続けてくれたみなさんには感謝しきれません。僕の一生の宝物になるでしょう」(リンク元

※作品賞ノミネート8作の概要(25日・朝日)
・「ブラック・クランズマン」黒人刑事が白人を装い、白人至上主義団体「KKK」に入団する社会派スリラー
・「ボヘミアン・ラプソディ」人気ロックバンド・クイーンのボーカル、フレディ・マーキュリーを描く
・「ブラックパンサー」アメコミが原作の超大作。黒人ヒーローが活躍する
「女王陛下のお気に入り」18世紀初頭のイングランド、気まぐれなアン女王のお気に入りの座を巡る2人の女性の駆け引きと愛憎劇
・「グリーンブック」1960年代、天才黒人ピアニストとその運転手の白人男性が、人種差別が色濃い米国南部を旅する
・「ROMA/ ローマ」ネットフリックス製作。外国語映画賞にもノミネート
・「アリー/スター誕生」主演は歌手のレディー・ガガとブラッドリー・クーパー(監督も)
・「バイス」ジョージ・W・ブッシュ大統領の下で絶大な権力をふるったチェイニー副大統領が主人公
●2月26日…〔今日の良かった〕NHKラジオから連絡があり、今年1月で最終回のはずだった『ラジオ深夜便』の「世界お墓偉人伝」が、その最終回で大きな反響をいただき、なんと来年度も担当することに!延長です、ありがたいです。これでまた墓巡礼の素晴らしさを伝えることができる!
●2月25日…〔今日の良かった〕先日のEテレ『ららら♪クラシック タンゴの真実』(公式)は永久保存版だった!タンゴの歴史、使用楽器の説明、「ジュンバ」「シンコパ」など独自のリズムの説明、フリオ・デ・カロやオラシオ・サルガンなど巨匠の紹介があり、最後にアストル・ピアソラが作曲した大傑作『ブエノスアイレスの冬』を、バンドネオンの名手小松亮太さんがライブ演奏!港町ブエノスアイレスの場末で生まれ、当初はダンスの伴奏として軽く見られていた音楽が、世界に誇るアルゼンチンの芸術として認められるまでが、30分という短い時間で実にわかりやすく語られていた。完璧な番組であり、構成を考えた人は天才!

//昨日、日本文学研究者で文化勲章受章者のドナルド・キーンさんが96歳で他界。18歳で源氏物語に惚れ込むなど日本の古典から現代文学まで通じ、世界に日本の文化と文学を広めて下さった。
以下、朝日の追悼コラムが良いので抜粋&紹介。
→(キーンさんは)東日本大震災を機に、かねての思いを実行して(日本)国籍を取得した。これを、はやりの日本礼賛の文脈で語るのは間違いだ。対談で「日本人になったからには日本の悪口もどしどし言うつもりです」と語っている。実際、キーンさんは、バブル崩壊後の日本社会のありように辛口だった。内向き志向、他者への配慮を欠いたふるまい。憲法9条が改定の動きにさらされている現状も批判した。本に親しんできた日本人が、テレビやゲームに興じ、古典と向き合う時間をなくしてしまっている風潮も惜しんだ。
そういう「ファストフード」から得られる喜びには限りがあると指摘し、人間性の探求に駆り立てる文学が再び必要とされるかもしれないと書いた。近年は、現代の私たちに通ずる孤独や、自信と不安が背中合わせの矛盾を描いているとして、啄木の作品を勧めていた。

/作家・平野啓一郎氏「近代以降、日本人はゴッホやモネに浮世絵の素晴らしさを再教育され、フェノロサに日本美術の価値を見出されたように、やはり、キーンさんに教えられた日本文学の素晴らしさも多かった」。
●2月24日…〔今日の良かった〕沖縄の辺野古基地建設をめぐる県民投票で、ハッキリと民意が示された。72%の方が辺野古埋め立てに反対。県民の声が、このように具体的に数字として可視化されたことは大きい。日本が民主主義国家を名乗るなら、これだけ明確に示された民意を無視などできない。
●2月23日…〔今日の良かった〕先日、上映中の『アクアマン』を鑑賞!体感システムの4DXで観たんだけど、これが凄まじかった。まさにアトラクション映画の決定版!物語の舞台が海中だけに今までの4DXで一番水がかかり、2月なのに服がしっとり。座席がこれまた揺れに揺れ、途中で隣席の観客の巨大ポップコーンが火山のように噴火し、その直後、箱ごと宙に舞った!マーベル系のヒーロー映画と違って、DCコミックス系は『バットマン』など暗く重い路線できたけど、このアクアマンはユーモアたっぷり。バトルシーンもエンドレスで続くクライマックスを見ているようだった。USJでライド体験した気分。
●2月22日…〔今日の良かった〕博多の講演で一泊したので、大阪に帰る前に、山形県の石屋さんKさん、北九州市の石屋さんIさんと3人で福岡を墓巡礼。太宰府で菅原文太さんと鑑真和上の墓参をした後、中間市で高倉健さんに墓参、最後に小倉で宮本武蔵の養子・宮本伊織の墓参りを敢行!車を運転して下さったIさん、そして健さんのお寺でご住職からいろんな話を聞いて下さったKさん、本当にありがとうございました!また3人で巡りたいです!(^^)/

//発売中の『音楽の友 3月号』に「世界音楽家巡礼記(24)」を寄稿。今号はスペインの作曲家特集で、サラサーテ、タレガ、アルベニス、グラナドス、ファリャ、ロドリーゴの一挙6人の墓参レポート掲載です。
●2月21日…〔今日の良かった〕『笑ってコラえて!』の出演が様々な仕事に繋がってきて本当に嬉しい。日本全国の石材店400社あまりで組織される全優石(全国優良石材店の会)さんから講演依頼を頂き、本日、博多で墓マイラーからみたお墓の魅力を語りました。こんなに大きな組織から声をかけて頂くのは初めてだし、ヒルトンホテルの大広間という巨大空間で語るのも初めて。会場に入った瞬間、
“遠くは北海道、青森、全国から集まっている…大変なことになった”
“全国組織の石屋さんに墓の魅力を語るなんて、釈迦に説法、おこがましいのでは…”
と、正直怖じ気づいた自分がいた。

でも、話し始めて最初の笑い声が出たときに緊張が解けた。皆さん、優しい!一般の人にガチの墓マイラー・トークをすると「アウェイ」な空気を感じることもあるけど、この会場には圧倒的な「ホーム」感があった。そう、ここでは、どれだけエキセントリックにお墓LOVEを叫んでも、ドン引きされない!むしろ、どんなにむき出しの愛をさらけ出してもOK!前列の方にニコニコしながら聞いて下さっている方が何人かおられ、僕は「全優石は“全国の優しい石屋さん”の略だ!」と胸熱に。

閉会後の懇親会ではイメージキャラクターをされているエジプト考古学者・吉村作治先生と同じテーブルに。当然ながら大ファンであり、大阪から色紙を持参。サインをお願いしても許される場なのか、慎重に空気を読んでいるうちに閉会時間が迫ってきて、僕の気持ちを知っているYさんが「いま頼まないと!」と背中を押して下さり、サインをお願いした。吉村先生は「いいですよ」と笑顔で色紙を受け取って下さり、ピラミッド3基とナイル河のイラストを添えて下さった!うおおおおお!!感無量、カジポン家末代までの家宝に!
全優石・吉田剛会長ともお墓トークがたくさんでき、本当に、本当に、あまりにも貴重すぎる体験だった!

墓石には命日が刻まれ、その日は故人を追悼するため墓前に人々が集います。人は死してお墓となって生きる。そして墓参に来た生者を結びつける。僕には墓前で知り合った墓マイラー友達がたくさんいます。
まっこと、墓が石であってこその墓マイラーです。これは石屋さんのために言うのではありません。100カ国2500人の巡礼からの実体験です。墓石の形、建てられた場所、刻まれた言葉、生没年が伝える波乱の人生、周囲にどんな人が眠っているのか、すべてが故人のラストメッセージ。僕にとって墓はその人そのものです。だから感謝の言葉を伝えるために30年以上巡礼し続けています。人と思うから「ありがとう」を直接伝えたくなる。伝えずにはおられない。

発見された最古の墓は6万年前のネアンデルタール人のもの。既にこの段階で花が供えられていた(洞窟内のお墓から、付近には咲いていない8種類の花粉が出てきた)。亡骸を小動物の被害から守りたいという想いで埋葬したのだろう。
お墓は先祖代々から生命を受け継がれてきたことが分かる、「目に見える命のバトン」であり、石の文化を支え続けてきたすべての石屋さんに心から敬意を表します!ビバ・お墓!(^^)/

 
吉村作治先生は前日にエジプトから帰国されたばかり。
現在、ドローンを使った大規模調査が進行中とのこと!
●2月20日…〔今日の良かった〕聴き惚れたヴィヴァルディの楽曲・ラスト、そして初期クラシック史の最終回!
1740年、ヴィヴァルディは自作オペラのウィーン公演のためヴェネツィアを発つ。ところが、大変ことが起きる。芸術のよき理解者だった神聖ローマ皇帝カール6世が崩御したのだ。このため、オーストリアは国家として1年間喪に服し、その間はオペラを含む全ての興業が禁止された。ヴィヴァルディは舞台セットや歌手の契約で既に投資しており大打撃を受ける。そのうえ次期皇帝をめぐって「オーストリア継承戦争」が勃発し、国内は戦争一色となりオペラどころではなくなった。
翌年7月、ヴィヴァルディは帰国することもかなわず、ウィーンの市民向け歌劇場の作曲家宿舎で体調を崩し、そのまま病没する。享年63歳。故郷ヴェネツィアであれば大きな葬儀になったと思われるが、旅先のウィーンであり、しかも真夏であったため、葬儀は簡単に終わり、そのまま病院付属の貧民墓地に埋葬された。

約30年後、この墓地はウィーンの再開発で閉鎖され、ウィーン工科大学が当地に開校する。“ワルツ王”ヨハン・シュトラウス2世や物理学者ドップラーが入学しており、ある意味彼らはヴィヴァルディの墓の上で勉強していたことになる。
工科大学は毎年ウィーン・フィルのニューイヤー・コンサートが催されるクラシック・ファンの殿堂「ウィーン楽友協会ホール」と200mしか離れておらず、公園を挟んで向き合っている。音楽の都ウィーンを象徴する聖地・楽友協会ホールに、全作曲家の中で最も近い場所に眠っているヴィヴァルディ。故郷ヴェネツィアには帰郷できなかったけれど、音楽家として少しでも慰めになっていたらと願ってやまない。

ヴィヴァルディがこの世を去った10年後、ドイツではバッハが他界。その6年後にモーツァルトが生まれ、20年後にベートーヴェンが生まれ、ロマン派(ショパン、チャイコ等)爆誕に向けて音楽を発展させていく。

ヴィヴァルディの没後約200年が経った1939年、イタリア・トリノ国立博物館でヴィヴァルディの楽譜を調査中に、偶然にも声楽曲『グローリア』が発見される。
この『グローリア』の第2曲「地上には善意の人々(Et in terra pax)」がとてつもない名曲!歌の大意は“地上の善意の人に平安あれ”というもの。体の芯まで震えるようなドラマチックかつ美しい旋律。ヴィヴァルディさん、あなたこんな曲も書いてられたんですか!
『グローリア』第2曲「地上には善意の人々」 (5分)

いやはや、この曲が200年ぶりに発見されて本当に良かった!ヴィヴァルディとバッハは今でこそ有名だけど、死後は100年くらい忘れ去られたいた。メンデルスゾーンが「バッハ凄いよ」と騒ぎだし、そのバッハがヴィヴァルディを尊敬していたので、ヴィヴァルディにまで光が当たった。
現代に生きているからこそ『グローリア』第2曲を聴けるわけで、1939年までに没していたら曲の存在を知らなかった。あぶない、あぶない。いや、現代だってYouTubeがなければ、こうしてマイナーな曲を自宅にいながらにしてクリックひとつで聴けたわけじゃなく、僕も曲の存在に気づいたかどうか。こと音楽に関していえば、まったくもって幸運な時代に生きていることよ。
●2月19日…〔今日の良かった〕聴き惚れたヴィヴァルディの楽曲・その3。
この隠れ名曲を読者の皆さんに紹介できることが、本当に嬉しい!

1730年、52歳のヴィヴァルディは『ギター協奏曲』を作曲。他の作曲家はあまり手を出さない分野であり、ここでも孤児院オーケストラの生徒達を楽しませたいという思いが伝わってくる。
『ギター協奏曲』第2楽章(頭出し済)、このマイナー曲の演奏風景を初めて見た!耳を傾けていると、秋の午後に林道の落ち葉の上を散歩しているような気持ちに。
そして古楽器のリュート版。音声のみだけど、こちらもグッド。作曲当時はリュートがポピュラーだった。

同じ頃、全12曲のヴァイオリン協奏曲集『チェートラ』を出版。『チェートラ』の中では第12番(ヴァイオリン協奏曲 ロ短調)が抜群にいい。最後の1分強のヴァイオリン独奏を頭出ししているので、ぜひ試聴を! ヴィヴァルディは本作の手書きの楽譜を神聖ローマ皇帝カール6世(マリア・テレジアの父親)に献呈している。
またこの頃、史上初となる『フルート協奏曲』の楽譜を出版!
『フルート協奏曲第2番 夜』 (11分)夜の雰囲気たっぷりの傑作。

そして作曲年が不明かつ楽器もヴィオラ・ダモーレという古楽器ながら、またわずか8分という短い協奏曲ながら、冒頭から身を乗り出してしまう曲がある。
『ヴィオラ・ダモーレ協奏曲 イ短調』 (8分)ええやん、このギコギコな感じ!ええやん!
(次回ヴィヴァルディ編ラスト)
●2月18日…〔今日の良かった〕聴き惚れたヴィヴァルディの楽曲・その2。
昨日紹介した 『調和の霊感』のヒットを受けて、ヴィヴァルディが翌1712年(34歳)に出版したのが『ヴァイオリン協奏曲:ラ・ストラヴァガンツァ』。全12曲あるうちの最後の第12番の第2楽章(頭出し済)が歌心たっぷりで良いです!

同年、中世(13世紀)の修道士が書いた感動的な詩、『スターバト・マーテル(悲しみの聖母)』に曲を付ける。ヴィヴァルディ初の本格的な宗教曲であり、十字架の下にたたずみ悲しみに沈むマリアの姿を切々と歌う。

Stabat mater dolorosa(悲しみの母は立っていた)
iuxta Crucem lacrimosa,(十字架のかたわらで、涙にくれ)
dum pendebat Filius.(わが子が架けられている間ずっと…)
もう歌の出だしから泣けてくる。目の前で子を失った母親の悲しみを思うと、キリスト教徒じゃなくても胸にくる。
『スターバト・マーテル(悲しみの聖母)』 (22分37秒)
※ヴィヴァルディの他にも、パレストリーナ、ペルゴレージ、ハイドン、ロッシーニ、ドヴォルザークなど多くの作曲家がこの詩に曲を付けている。

1720年頃(42歳)、『ファゴット協奏曲』を作曲。ファゴットは地味な印象の楽器だけど、ヴィヴァルディはドラマチックな曲調で縦横無尽に活躍させている。
『ファゴット協奏曲 ニ短調』(10分35秒)冒頭のツカミが完璧
『ファゴット協奏曲 ホ短調』(11分32秒)第一楽章が特に良い

そして1725年、代表曲「四季」を含む12曲のヴァイオリン協奏曲集『和声と創意の試み』を出版!この協奏曲集の第1番から4番までが『四季』であり、それぞれにヴィヴァルディ自身のソネット(十四行詩)が付いている。以下に要約。
「春」…春の到来だ!小鳥も喜んで歌っている。小川のせせらぎ、そよ風も最高。
「夏」…この猛暑はきつすぎる。カンカン照りで人間も羊もぐったり。そして恐ろしい夏の嵐!雷とヒョウ、勘弁してくれ!
「秋」…収穫が終わって村の秋祭り。狩りもするよ。
「冬」…凍てつく寒風が吹きすさび歯はガチガチ。一方、家の中の暖炉の炎は暖かい。もうすぐ春ですなあ。
イ・ムジチ合奏団の『四季』(43分41秒)この楽団が世界で初めて『四季』を録音、レコードは2500万枚以上を売り上げ、この曲はクラシックファン以外にも知られるようになった。王道の演奏。
革命児ファビオ・ビオンティの『四季』(40分)ビオンティ軍団のライブ動画。独自解釈、あまりのアグレッシブさに当初は仰天したが、気がつけばやみつきに。
※上記の『夏』第3楽章頭出し。チェンバロ完全バトルモード、全員バーサーカー(狂戦士)。
※上記の『冬』第1楽章頭出し。すごい緊張感。なんかもう、切り刻まれる感じ。

(ヴィヴァルディその3に続く)
●2月17日…〔今日の良かった〕中世まで遡り6日にわたって紹介してきた、バッハ登場以前の初期クラシックの世界。いよいよ最後の超大物、ヴィヴァルディの登場!

ヴァイオリン協奏曲やフルート協奏曲といった“ソロ&伴奏楽団”で奏でる独奏協奏曲の形式を確立した巨星アントニオ・ヴィヴァルディ。彼は1678年にヴェネツィアで生まれた。バッハの7歳年長にあたる。音楽家の父に教育を受け、同時に聖職の道にも進み、25歳で「司祭」の資格を得た。その温厚な性格から「赤毛の司祭さま」と親しまれる。
まもなく音楽の才能をかわれ、ヴェネツィアの女子孤児院付属音楽院でヴァイオリンを教え始めた。以降、約40年にわたって、孤児院運営費の捻出のため毎週ひらかれる女子孤児達の学内コンサートの作品を書き、演奏を指導した。

この孤児院はいわゆる“赤ちゃんポスト”のある孤児院。ヴィヴァルディは孤児達が音楽を演奏する喜びを感じられる良い曲を書こうと発奮、また、ひとりでも多くの子に見せ場があるよう、4人のソロが登場する『4台のヴァイオリンのための協奏曲』を書いたり、ファゴット、フルート、マンドリン、トランペット、ギターなど各種楽器の協奏曲も書いた。

我が愛する…我が愛する…『4台のヴァイオリンのための協奏曲』!
この曲の第2楽章の中に、好き過ぎて中毒症状になるくらい、ここ20年ほど繰り返し聴いている「90秒間」の旋律がある。ピンポイントでこの部分→
https://youtu.be/Sdn4DVni3eY ここからの1分半!耳を傾けていると宇宙の果てに連れて行かれる。大曲を聴いたような満足感。そして一度聴いたら、電車の中でも、お風呂の中でも脳内再生。

https://www.youtube.com/watch?v=GWZTyiMXulQ#t=5m47s
同じ部分、9割以上が女性の楽団のライブ動画。ヴィヴァルディは女子孤児院のために作曲していたから、初演の演奏会はこんな光景だったかも。先のリンクに比べて演奏の速度が速いけど、このテンポが主流。僕的には遅ければ遅いほど良い。

https://www.youtube.com/watch?v=86Aqf2GTmCs#t=4m38s
なんじゃこれはというほど超速い演奏。神秘性や情緒は吹き飛んでるけど、これはこれで切れ味バツグン、好きな人も多い。

https://www.youtube.com/watch?v=7OwQOb6bd1M#t=5m09s
20年後にバッハが編曲した「4台のピアノ(チェンバロ)のための協奏曲」のライブ映像。4台のピアノが並んでいる光景はなかなか壮観!ピアノを4台用意するのが大変なため、めったにステージで演奏されることはない。

https://www.youtube.com/watch?v=mHAsO0yqPwQ (4分)
変わり種。ジェームス・ピンダーなる人物が同曲の第1楽章をシンセサイザーに編曲。『時計じかけのオレンジ』のサントラを手がけたウェンディ・カーロスを彷彿。天才か!この人はバッハのブランデンブルク協奏曲第3番とか良い編曲をいろいろアップしている。

『4台のヴァイオリンのための協奏曲』が発表されたのは1711年、ヴィヴァルディ33歳のとき。全12曲の協奏曲集『調和の霊感』のうち第10番が当曲。
続く第11番が『2つのヴァイオリンとチェロのための協奏曲』で、これも名曲。
『2つのヴァイオリンとチェロのための協奏曲』 (9分16秒)冒頭からドラマチックで聴き入る。第3楽章のフーガはバッハそっくり、いやバッハ(当時26歳)が似ているのか。
(ヴィヴァルディその2に続く)
●2月16日…〔今日の良かった〕初めて器楽曲で国際的名声を得たコレッリに続いて、名前が現代に伝わるバロック音楽の作曲家トマゾ・アルビノーニ(1671生)を紹介。23歳のときに作品1となる『12のトリオソナタ』を完成。面白いのは、最初に出版された楽譜には自身の肩書きを“ディレッタント(好事家・物好き)のヴァイオリニスト”としており、職業作曲家ではないことをアピールしている点。父は製紙業者として成功し、裕福な家庭であったため、作曲のノルマもなく肩の力を抜いて音楽を楽しんでいる印象。とはいえデビュー時から良い曲を書いている。
『12のトリオソナタ』(87分)冒頭のオルガンの音色から一気に引き込まれる。

29歳で発表した作品2『五声のシンフォニアと協奏曲集』は海賊版が出るほど人気を得た。この曲集からは「シンフォニア ト短調」 (8分半)をプッシュしたい。個人的に陰のある曲が好きなので、短調の作品は要チェック。
36歳のときに『ヴァイオリン協奏曲イ短調』 (7分22秒)を書いており、アルビノーニは独奏バイオリン協奏曲の創始者のひとりに名を連ねている。
40歳で出版した『12のヴァイオリン・ソナタ』では、肩書きが「ヴァイオリン音楽家」となっている。アルビノーニの中で大きな変化があったのか、公に職業音楽家と名乗っている。
51歳、『12曲の五声の協奏曲集』を発表、第2番となる『オーボエ協奏曲』の第2楽章アダージョ (12分半)が特に素晴らしく、リンクの頭出しをしておいた。
そして第12番にあたる『2つのオーボエのための協奏曲』(7分42秒)は、50代に入った作曲家の円熟味、風格が漂う作品。ちなみに、まだクラリネットはこの世にない。
以降、作品の発表が激減し、まだ存命にもかかわらず、過去の作品が「遺作」として出版される憂き目を見る。1751年にヴェネツィアにて79歳で他界。この5年後にあのモーツァルトが生まれている。時代がかなり現代に近づいて来た感がある。

−−アルビノーニといえば、最も有名な曲は本人の名が冠された『アルビノーニのアダージョ』(11分50秒※カラヤンは小品にも手を抜かず全力の名演)なんだけど、残念ながらこの曲はアルビノーニ本人とは無関係。20世紀イタリアの音楽学者レモ・ジャゾットが1958年に“アルビノーニの楽譜の断片から再現した”と偽ったもの。実際はレモ・ジャゾットの完全オリジナル。ある意味、誰もが騙されるほどの名旋律を書いたレモ・ジャゾットが凄いわ。
バッハは14歳年上の先輩アルビノーニを評価し、弟子達に研究を勧め、自身もアルビノーニの主題を使ったフーガを2曲書いている。(次回ついにヴィヴァルディ編!)

〔2月24日※日記の順番とズレがあるので後日入れ替えます〕
沖縄の辺野古基地建設をめぐる県民投票。野党支持層だけでなく、与党支持層の半数が基地建設に反対票を投じた結果、7割以上が反対という結果に!
反対 42万4273票
賛成 11万4933票
どちらでもない 5万2682票
昨年の県知事選で、反対派の玉城デニー知事が得た過去最多票数をさらに4万票も上回るもの。これでもうハッキリした。沖縄に対して「対案を出せ」とかもういい。沖縄はノーと言っている以上、対案を考えるのは政府だし、本土の人間。戦後74年間、ずっと沖縄に無理強いし、耐えさせてきた。12/29の日記にも書いたけど、「もはや海兵隊を沖縄に置く戦略的な意味はない」と、とっくに結論が出ている。かつては仮想敵国の目の前に戦力を配置することが抑止力になっていたが、ミサイルが高性能化した現在、前線への戦力配置は初戦で壊滅するリスクが高く「悪手」と認識されている。本土の人間がどうしても基地が必要というなら、本土で国民投票をして、最も「米軍基地必要」とする票が多かった県に移設すればいい。
●2月15日…〔今日の良かった〕4日前から書いている西洋古典音楽の旅、昨日のアレグリまで声楽曲ばかりだったけど、ここにきてついに歌のない器楽曲が登場。時代はルネサンスが終わりバロック時代へ突入。

ときは1653年。オペラや教会音楽などの声楽曲ではなく、ベートーヴェンやショパンなど楽器メインの器楽曲ワールドの開拓者、アルカンジェロ・コレッリがイタリア東部に生まれる。コレッリは合奏協奏曲の創始者。同時代の他の作曲家と異なり声楽曲は書かず、器楽曲だけで国際的名声を獲得した最初の作曲家だ。10代前半からイタリアの器楽音楽の拠点ボローニャでバイオリンを学び、28歳で作品1となる全12曲の『トリオ・ソナタ』を作曲&出版する。全曲で約70分とたっぷりだ。
※『トリオ・ソナタ』は日曜日の昼間にのんびりと聴きたい感じの素朴な温かみがある。
ちなみにコレッリ35歳のときにドイツでバッハとヘンデルが生まれ、バッハはコレッリの作品を研究した。

中年になったコレッリは当時のどの作曲家よりも恵まれた創作環境にあった。芸術に理解のあるオットボーニ枢機卿(ローマ教皇)が生活を保証してくれたのだ。おかげで他の作曲家のように毎週新作を書くという無理な創作活動をせずに済み、じっくりと納得できるまで内容を練ることができた。
1700年(47歳)、『ヴァイオリン・ソナタ』(全12曲)をローマで出版。最後を飾る「ラ・フォリア」が人気を得る。
『ラ・フォリア』 (11分)この作品は曲調に陰影がありファンが多い。231年後にロシアの作曲家ラフマニノフが変奏曲の題材に選んでいる。

他界の前年となる1712年、渾身の遺作『合奏協奏曲集』(全12曲)を完成させる。翌年、ローマにて他界。享年59歳。
『合奏協奏曲集第3番』 (12分)短調ならでは、随所に渋い旋律が登場。 葬儀の際にコレッリの弟子達が厳粛な趣のあるこの曲を演奏した。
『合奏協奏曲集第4番』 (9分35秒)この動画は楽器ごとの役割が分かりやすい。9人で豊かに響く。
『合奏協奏曲集第8番クリスマス協奏曲』 (14分)クリスマスの真夜中のミサのために書かれた曲。
美しい音色を尊重して技巧的な表現を避け、緻密な構成、優雅な気品を重んじる作風を貫いたコレッリ。バッハやヴィヴァルディは死後その名が一時的に忘れられたが、コレッリはパトロンの熱心な庇護もあって、音楽教育の現場で作品が使われ続けた。長調や短調という調性を使用した初期の人物でもある。(アルビノーニ編に続く)
●2月14日…〔今日の良かった〕イタリアにて人まちがいで墓参した人物が音楽史の重要な聖人であったことが判明。
昨夏、ローマで作曲家グレゴリオ・アレグリに墓参した。ルネサンス末期1582年生まれという、バッハよりさらに100年前の人。ヴァチカン宮殿のシスティーナ礼拝堂聖歌隊のカストラート歌手でもあった。アレグリは一昨日の日記で紹介したパレストリーナの孫弟子にあたり、非常に慈悲深い人物との評伝が残る。1652年にローマにて70歳で他界。
アレグリの墓はコロッセオとヴァチカンの中間にあるナヴォーナ広場(ベルニーニ「四大河の噴水」が有名)に近い「ヌオーヴァ教会」にある。海外の墓マイラーサイトには「この教会のフィリッポ・ネリ礼拝堂に眠る」とあり礼拝堂へ。祭壇の下部がガラスになってミイラ(汗)が見え、僕はそれがアレグリと思って「アレグリさん、聖歌ミゼレーレ(※後述)最高です!」と感謝。だけど、今日、海外サイトを調べてて、あのミイラが別人のフィリッポ・ネリ司祭と判明!やってしまった!

−−フィリッポ・ネリ(1515-1595)は教会組織の上下関係の厳しさに違和感を感じ、1564年に司祭と信徒が平等の立場というキリスト教共同体「オラトリオ(祈祷所)修道会」を創立した。彼は孤児に音楽を教えるなど民衆に慕われ、ユーモアもあったため「喜びの聖人」と呼ばれた。ネリ司祭はオラトリオ修道会で歌う聖歌を作曲家パレストリーナに依頼し、ここから宗教的音楽劇「オラトリオ」(演技のない宗教オペラ)が生まれた。ハレルヤ・コーラスで有名なヘンデルの『メサイア』も「オラトリオ」だけど、このジャンルはネリ司祭が源流だった!
アレグリは音楽を心から愛していた聖ネリの墓の側で永眠することを希望した。僕はミイラのインパクトで周囲を見ていなかったけど、アレグリの墓は床下か、或いは側面の壁にあったのだろう。もう一度教会を訪れて確認しないと…。聖ネリは陽気な性格から「神の道化師」とも呼ばれていたので、人まちがいも笑って許してくれるだろう。

ときに、アレグリの代表曲『ミゼレーレ』には特筆したい秘話がある。1630年代、アレグリは旧約聖書をもとに自身の最高傑作、9声部の『ミゼレーレ』(ミゼレーレ・メイ、デウス/神よ、我を憐れみたまえ)を作曲した。5声の第1合唱と、4声の第2合唱に分かれて交互に歌い継ぐ二重合唱曲。その神秘的な美しさから、教皇庁はこの曲の“神性”を保つため、楽譜持ち出し禁止、写譜禁止、楽譜を書くことも禁止、システィーナ礼拝堂以外での演奏を許さず、禁を破れば“破門”とした。

作曲から約140年が経った1770年、当時14歳のモーツァルトは父親に連れられてローマを訪れ、システィーナ礼拝堂で秘曲中の秘曲『ミゼレーレ』を聴いた。9声部(9つのパート)が10分以上も重なり絡みあう極めて複雑なものだが、モーツァルトはこの門外不出の秘曲を一発で記憶し、宿に帰って楽譜に書き起こす。そして確認のため2日後に再びシスティーナに足を運んで細かな校正を行い、これを完璧に仕上げた。この譜面は旅の途中で出会った英国人音楽学者の手に渡り、翌年にロンドンで出版される。『ミゼレーレ』の楽譜は世界に広まり人々を驚嘆させ、少年モーツァルトはローマ教皇クレメンス14世に呼び出された。教皇はモーツァルトを破門するかと思いきや、逆にその驚異的な才能を褒め称え、ヴァチカンは『ミゼレーレ』(12分22秒)を解禁したのであった。
(コレッリ編に続く)
●2月13日…〔今日の良かった〕“オペラの父”モンテヴェルディの曲に浸る。彼は1567年生まれ、時代はルネサンスからバロックへの過渡期。モンテヴェルディは15歳で教会音楽(歌曲)の楽譜を出版して以降、音楽による詩の表現を追求していく。20歳の時に日常生活で歌うラブソングなどを収めたマドリガーレ(マドリガル)集を出版。彼は生涯に約250曲もの世俗曲を残している。
1607年、40歳でオペラ第一作『オルフェオ』を初演(亡くなった妻を黄泉の国から連れ戻す途中、オルフェオが妻に振り返ってしまい再び引き裂かれる有名な物語)。古代ギリシャからセリフを歌う劇はあったけど、モンテヴェルディはただセリフを歌わせるのではなく、歌に巧みな抑揚をあたえ、情熱的で真に迫った感情表現を実現、さらにオーケストラはただの歌の伴奏ではなく、14曲もの管弦楽曲が用意され、ときに単独で舞台を盛り上げた。音楽と演劇が融合した『オルフェオ』は観客から熱狂的な支持を受け、近代オペラの出発点となった。
翌年オペラ第2作『アリアンナ』も大成功を収め、オペラ作曲家としての名声を不動のものにする。怪物ミノタウロスを退治したアテナイの英雄テセウスと恋に落ちたクレタ王ミノスの娘アリアドネ(アリアンナ)が、テセウスの心変わりでナクソス島に置き去りにされ、オペラのクライマックスで「アリアンナの嘆き」を歌う。“われを見捨てよ、死なしめたまえ、この苦しみ、悲しみに望みも絶え果て、ただ死あるのみ”と絶望から死を願うこの歌は、聴衆の女性の涙をしぼり取り、爆発的に流行した。
「アリアンナの嘆き」は後にマドリガーレになっている。冒頭の“Lasciatemi morire(われを見捨てよ)”は胸に迫るものがある。
1610年(43歳)、約30年ぶりの宗教音楽となる『聖母マリアの夕べの祈り』を作曲しローマ教皇に献呈。バッハ以前の教会音楽では最大の曲で、壮大なスケールの作品となった。
※『聖母マリアの夕べの祈り』からマニフィカトの超美しい後半部分を頭出し
1614年、歌曲『愛する女の墓に流す恋人の涙』(16分)出版。冒頭の“Incenerite spoglie(灰となった亡骸よ)”が悲しい。
1643年、ヴェネツィアで他界。享年76歳。バッハ生誕まであと42年。(グレゴリオ・アレグリ編に続く)
●2月12日…〔今日の良かった〕約30年前、大学の下宿にクラシックファンの先輩が遊びに来た。その先輩は音楽史の超初期の作品ばかり聴いている人で、「ベートーヴェン?あんな新しい音楽は苦痛だ」と吐き捨てた。僕は仰天して「じゃあ、バッハとかヘンデルはどうですか」と聞くと「あいつらも前衛音楽だけど…我慢したら、まだ聴ける。でもほんとギリギリ」。
この言葉がそれからずっと心の奥に残っていた。僕はベートーヴェン以降のロマン派のドラマチックな作品にカタルシスを感じて、それらを中心に聴いてきた。だけど「いつかはあの先輩をそこまでドハマリさせた初期クラシックを、バッハ以前の音楽を徹底的に聴き込まなきゃ」、そう思い続けていた。その“いつか”がこの3週間だった。中世グレゴリオ聖歌から始まるバロックに至る旅。
「これは“神曲”!」と感じた作品がいくつも見つかったので、第一弾を報告します。歴史的に音楽は教会の中で進化してきた。楽器ではなく人間の声を通して。

1350年頃(日本の南北朝時代)、フランスの作曲家ギヨーム・ド・マショー(1300-1377)が、史上初めてひとりの作曲家が全曲を書いた多声ミサ曲『ノートル・ダム・ミサ曲』(28分37秒)を完成。それまで歌い手の人数に関係なく同じひとつの旋律を歌っていた“単旋律”=グレゴリオ聖歌の時代が終わり、4声(多声)のパートが絡み合い、響き合うものになった!マショーのミサ曲は670年前のもので、ベートーヴェンが生まれるより420年も昔の曲。でも楽曲として充分鑑賞に堪えうるし、寝る前に聴いてると落ち着く。

1430年頃、マショーの約100年後にイギリスで生まれた“中世最後の作曲家”ジョン・ダンスタブル(1390-1453)。彼は透明感のある美しいモテット(多声教会音楽)を複数書いており、中でも『来たれ精霊よ 来たれ創造主なる精霊』 (5分44秒)に聴き入った。

時代はルネサンス音楽へ。フランスの作曲家ギヨーム・デュファイ(1397-1474)は対位法に優れ、新しい和声を研究し、各楽章の冒頭で同じモチーフを使って統一性を持たせるなど、ルネサンス時代の音楽の先駆者となった。デュファイがやった「モチーフの再利用」を400年後にワーグナーが楽劇で極めることになる。
デュファイの『アヴェ・レジナ・チェロルム』から、彼が自分の葬儀用に心を込めて書いた旋律「アニュス・デイ(神の子羊)」(5分25秒)を紹介。

1440年、ルネサンス最大の作曲家ジョスカン・デ・プレが生まれる。生地は不明だがベルギーで没している。ジョスカンは当時の全ての作曲技法を意のままに操り、構築美にあふれた簡潔で明快な作品を多数書いた。ポリフォニー(多声)技法を完成。名曲を三つ紹介。
『オケゲムの死を悼む挽歌(森のニンフ)』(5分12秒)5声になり広がりを感じる。師匠オケゲム追悼のため作曲。
『祝されたり、天の女王(聖母マリア)』(6分24秒)最後の余韻が良い
『アヴェ・マリア』(7分)ぬくもりのある旋律

1525年、宗教曲を多く残した「教会音楽の父」、ルネサンス最後の大音楽家ジョヴァンニ・ダ・パレストリーナが生まれる。当時イタリアでは、演奏される宗教音楽が外国人の手によるものばかりだった。パレストリーナが19歳で出した『ミサ曲集』は、イタリア半島出身者の最初の出版された教会ミサとなった。伝染病ペストで、妻、弟、2人の息子を亡くすなか、数々の名歌を書き残しローマにて68歳で他界。

『インプロペリア』(4分10秒)パレストリーナの唯一の自筆楽譜!冒頭の歌詞は“世の救い主のかかりたまいし十字架を見よ”。この美しさよ!ヘッドフォンお薦め!
『谷川慕いて』(2分20秒)鹿が谷川を求めるように魂が神を慕い焦がれるという歌。めっさ響きが柔らかい。2分20秒の至福。パレストリーナは神秘的で流れるように優美な旋律のカーブを描く裏技として、各声部のリズムの強拍が一致しないよう別々の強弱パターンを書き、拍節(はくせつ)感を消して連続性を出す工夫をしている。静穏で透明感のある作品は後世の作曲家たちの素晴らしい手本となった。
『アスンプタ・エスト・マリア』 (35分)パレストリーナのミサで最も美しい曲のひとつ。晩年の傑作。

時代は宗教音楽の時代から、人文主義が隆盛したルネサンスを経て「人間」を感じさせる表現に移っていく。オペラ誕生まですぐそこ。(明日に続く)
●2月11日…〔今日の良かった〕アメリカ音楽界最高の栄誉であり世界最大の音楽の祭典「グラミー賞」で、日本人の映像ディレクター、ヒロ・ムライさんが監督を務めたチャイルディッシュ・ガンビーノのミュージックビデオ『This Is America』が最優秀ミュージックビデオ賞を受賞!この歌は社会派の問題作であり、最優秀レコード賞、最優秀楽曲賞など今回最多となる4部門に輝いている。ちなみにヒロ・ムライさんの父親は『翼をください』を作曲した音楽プロデューサーの村井邦彦さん。

それにしても、再生回数4億8千万回以上に達している『This Is America』(4分)、戦慄の暴力描写にブッ飛ぶ。冒頭、頭に袋を被せられた男が後頭部を撃ち抜かれ、直後にそのピストルがハンカチで丁寧に包まれて大切にされる一方、地面に転がった男の遺体は無造作に引きずられ、アメリカでは人間の命が銃よりも軽いことを象徴。
中盤の黒人聖歌隊が自動ライフルの乱射で皆殺しにされるシーンは、2015年にサウスカロライナ州の黒人の通う教会で人種差別主義者の白人男性が銃を乱射し9人が犠牲となった事件を象徴。4分間でアメリカ社会が抱える問題をえぐり出している。
本作にグラミーを与えるところに、米国民が感じている社会の危機感が出ている。ほんま、アドバイスしたい。銃を規制しろと。市民生活に銃なんかいらんて!
※NHK「ニュース9」は『This Is America』をお茶の間に流したけど、いきなり見せたら駄目。子どもはまだギリ起きてる時間。事前に一言、アナウンサーは警告すべき内容っす。
●2月10日…〔今日の良かった〕祝!フィギュアスケート四大陸選手権、男女共に日本人選手が初優勝!男子シングルの宇野昌磨選手(21)はショートプログラム4位からの逆転優勝。宇野選手は怪我からの復帰にもかかわらず今シーズンの世界最高得点を更新。宇野選手は2015年にジュニアの世界選手権を制しながら、シニアでは主要国際大会で勝てなかった。平昌五輪で銀、世界選手権でも2度の銀。大舞台では6大会連続で2位となり“シルバーコレクター”と呼ばれていたけど、ついにその名を返上した。
女子の紀平梨花選手(16)もショートプログラム5位と出遅れたものの、フリー演技でトリプルアクセルを含む7つのジャンプをすべて成功させ、2位に14点以上の大差をつけて逆転優勝。来月に開催される世界選手権がまっこと楽しみ。
※フジテレビ公式が宇野昌磨選手・男子フリーの演技をノーカット配信!これは素晴らしい試み。良い演技を著作権の心配なく共有できるのはホント嬉しい。今回、宇野選手はベートーヴェンのピアノソナタ「月光」を演技で使っている。このピアノ演奏が非常に良い。グルダのようにたっぷり情感がこもった演奏だ。誰が弾いているんだろう?紀平梨花選手の全ジャンプ成功も配信中
●2月9日…〔今日の良かった〕先日の大河『いだてん』第5話「雨ニモマケズ」、最高だった!ストックホルム五輪の選考マラソン、順位を伝える実況中継で盛り上げながら、明治日本の風物を随所に織り交ぜ、非常に楽しいものになっていた。毎回そうなんだけど、45分間、まったく無駄がない。ゴールシーンで金栗四三が“柔道の父”嘉納治五郎に抱きしめられるシーンは、第1話の伏線(子ども時代に嘉納治五郎に抱きしめられそこなった)の感動的な回収。金栗君の夢が叶った!

報道によると『いだてん』は視聴率が伸び悩んでいるという。あまりにもったいない話だ。俳優さんの生き生きとした演技、活気あふれる明治の街、青春を謳歌するバンカラ学生たち、時折挿入される寄席の光景、音楽も明るく喜劇調でテンポもいい。基本、真面目路線の大河でこの楽しさは新鮮!

ただ、このコメディ路線も戦争の時代に入っていくにつれ、シリアスな場面も増えていくだろうし、実はそこをけっこう期待してる自分がいる。大河ドラマは基本的に戦国時代と幕末維新ばかり。平成が終わろうとしている今、そろそろタブーを恐れず大河で昭和の戦争を描いてほしいし、むしろこのタイミングを逃したら、次はいつチャンスがあるか分からない(来年は明智光秀)。

現在ドラマの舞台は1911年、この後、嘉納治五郎(役所広司)は五輪を通して世界の人々と出会っていく。やがて第一次世界大戦が起き、続いて世界恐慌に。その中で日本は急速に軍国主義化していく。
1931年、満州事変が勃発。IOC委員の治五郎は、オリンピックを国際交流の平和運動と捉えていたが、政府は国威発揚の場と考えギャップが生まれていく。
1932年、五・一五事件が発生し犬養毅首相が海軍青年将校らに暗殺される。史実によると、治五郎が開いた講道館の若い柔道家たちは、国家改造を画策する青年将校の過激な思想に共鳴し、治五郎に対して「6万人の柔道家を抱える講道館が武道報国の行動を起こさないのは、館長嘉納治五郎の忠君愛国の精神が不足しているからだ」と批判、引退を迫ったという。その際、治五郎は彼らをこう諭した「我らの説く道は中正道(ちゅうせいどう)である。右に偏ったり、左に傾いてはいけない」。世界を知っている治五郎だからこそのバランス感。
そして治五郎の悲願である東京五輪(1940)の開催が決定すると、翌年に北京郊外の盧溝橋で軍事衝突が起き、日中戦争が勃発してしまう。“戦線不拡大”という政府、天皇の意向を無視して暴走する陸軍は南京に向かって突き進む。IOCからは「戦争中の国で“平和の祭典”五輪はできない」、陸軍からは「五輪を中止しろ、戦争に集中せよ」と大きな圧力が加わる…。

日独伊軍事同盟に反対し、日米開戦にも反対した3人の海軍首脳、山本五十六、米内光政、井上成美を主人公にした昭和の戦争をいつか大河で、そう願っているけど、現在の右傾化した日本社会では、侵略という負の部分を直視した大河など無理だろう。でも、嘉納治五郎を通してなら、オリンピックに絡めてというのであれば、大河で昭和の戦争を描けるはず。宮藤官九郎さんは日本の黒歴史をどう脚本に反映させるか。様々なデマがネットに満ちる今、この大河が正しい歴史認識を促すものになって欲しいと切に願ってる。
●2月8日…〔今日の良かった〕昨夜のBSプレミアム『ザ・プロファイラー ニール・アームストロング』が素晴らしかった。アームストロングがアポロ11号の船長として月面に人類で初めて立ったとき「1人の人間にとっては小さな1歩だが、人類にとっては大きな飛躍である」と語ったのは有名だけど、その後の言葉はさらに感動的だった。
打ち上げ当時は東西冷戦の真っ只中。米ソが熾烈な宇宙開発競争を繰り広げるなか、ソ連ガガーリンが人類初の宇宙飛行を成し遂げ、米国は出遅れてしまう。そこで国家の威信をかけ、最初に月へ人類を送ろうとした。
月面に降り立ったアームストロング船長とバズ・オルドリン操縦士が、石の採取などミッションに取り掛かると、ホワイトハウスから第37代ニクソン大統領が衛星電話をかけてきた(本来、この電話をかけるべきケネディは6年前に暗殺されていた)。
ニクソン「やあ、ニールとバズ。私はホワイトハウスの執務室からかけているんだ。すべてのアメリカ人にとって今日は人生で最も誇れる日になうだろう。そして世界中の人々がこの偉業を認めてくれるはずだ。君たちのおかげで宇宙は我々の世界の一部となったのだ」。
ニクソンは着陸成功をアメリカの偉業として讃えようとした。この大統領の言葉に対し、アームストロング船長は少しの間、沈黙する。そしてこう答えた。
「ありがとうございます、大統領。私たちは合衆国だけの代表ではありません。すべての国家の平和を愛する人好奇心を持ち未来を目指す人々、彼らを代表してこの場所に立てるのは、とても光栄なことです」

アームストロングら2人が月面に滞在したのは2時間半。地震計や太陽風測定装置など複数の機器を設置した後、月を離れる直前に小さな包みを月面に置いてきた。中身はここに来られず事故死した宇宙飛行士たちを称えたメダル。アポロ1号の飛行テストで死亡した3人の乗組員と、前年に航空事故死したガガーリンを追悼する4枚のメダルだ。ガガーリンは“敵国”ソ連の人間。だが、同じ宇宙に憧れてきた仲間としてアームストロングは敬意を表した。国家間のくだらない争いとは違う次元に宇宙飛行士たちはいた。
「小さな1歩だが大きな飛躍」の言葉だけが有名になってるけど、「私たちは合衆国だけの代表ではありません」も同じか、それ以上に胸を打つ言葉であり、ぜひ教科書に載せて欲しいっす。

このエピソードを知って、地球外に出た最初のイスラム教徒で、衛星軌道からコーランを読み上げたサウジアラビアのアルサウド飛行士の言葉を思い出した。
「最初の一日か二日は、みんなが自分の国を指していた。三日目、四日目は、それぞれ自分の大陸を指さした。五日目にはみんな黙ってしまった。そこにはたった一つの地球しかなかった」
●2月7日…〔今日の良かった〕キタキタ、劇場版実写ジョジョの地上波初放送がキタ!放送は2月10日深夜1時20分からTBSにて。日曜の夜だけど翌日は祝日だし、オンタイムで観る人も多いのでは。山ア賢人君の仗助はイメージ通り、CGのスタンドも良いし、オリジナルの脚本部分もキャラに厚みを持たせた成功例。良い映画なのに、宣伝の仕方がまずかったり、作品を観ずに叩く人がいたり(漫画実写化の宿命)で、興行収入が伸び悩んだ可哀想な作品。今回の地上波オンエアがきっかけで、「この続きが観たい!」という人が増えて、映画会社を動かすウェーブが出来ると良いなぁ。
っていうか、リンク先にある「決してエンドロールまで見逃すこと無くご覧下さい!!」が気になる。なんか重大発表があるのか?期待しちゃって良い感じなのかコレ!?期待するよ!?ええ、全力でしますとも!!
※だがしかし!関西の毎日放送で予約しようと思ったら、全然違う番組がそこに!ギョエー、大阪ではオンエアされないのか!毎日放送ふざけんな…ひどい…。そもそもアニメの放送時間も超遅いし…。あんまりだぁあああ!会社幹部に猛省を求む!
●2月6日…〔今日の良かった〕ここ数週、朝ドラ『まんぷく』がとても面白い。いや、『まんぷく』は初回からずっと面白いんだけど、クライマックスのインスタントラーメン誕生に向け、まずは美味しいと感じるスープの開発で苦労しまくり、次の麺作りでさらに壁にぶち当たり、今週はどうすれば麺を常温で長期保存できるか悪戦苦闘している。今まで、“コレ美味しいな”くらいの印象でインスタントラーメンを食べてたけど、そこに至るまでの挫折の繰り返しを知り、感動と共に口に運んでいる次第です。
主人公の萬平さんが、ラーメン開発にあたって壁に貼った“5つの誓い”がいい。全部ものすごく重要!→
【新ラーメンの5箇条】
一、美味しいこと
一、安く買えること
一、便利であること
一、常温で保存できること
一、安全であること
●2月5日…〔今日の良かった〕少しずつインスタグラムの使い方がわかってきた!(1)ツイッターと違って文字数制限がない(2)写真を同時アップ可能(3)シャープ記号でタグをつけられる(4)説明文に誤字脱字があると編集で訂正できる(コレ重要!ツイッターは直せない、涙)
インスタをやる前、既に文ジャンに載せた墓写真を再度インスタにアップするのは意味がないって思ってたけど、32年間の墓巡礼フォルダから、陽射しが綺麗だったり、献花や周囲の緑が美しかったものを1日に1枚ずつアップしていると、パソコン画面で一覧を表示したときに、なんかもう写真集みたくなっている!
撮影技術は素人だし、そもそも機材がスマホのカメラと5万のデジカメのみ。だけど、単品では「そこそこ」の写真が、複数並ぶことでシンフォニーのように響き合い、「これが100枚になったら良い感じになるかも!?」とちょっとワクワクしてきた。画像のストックは10万枚ある。溜まりに溜まっている。自費の写真集を出す資金はないから、インスタでそれっぽいもの作って遊んでみよ。(*^_^*)

//そしてフェイスブック。救援要請を出した、ロシア皇帝ニコライ2世の墓調査(墓碑の文字の解読等)が無事終了したことに、読者の方から次のお便りを頂いたので許可を得て転載。
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ニコライ2世のお墓のロシア語の件について思ったこと。
僕は「みんなが力を出し合って、1人ではできないことを成し遂げた成功例」だと感じました。
・あの石がお墓だという写真を見つけた人。
・ロシア語がわかる人に呼びかけた人。
・古いロシア語を訳した人。
・Google先生。
・詩篇(旧約聖書)の該当箇所を探した人。
誰もが、1人だけの力では真相にたどり着かなかったけど、それぞれ自分の得意分野で少しずつ力を発揮して、次の人にバトンを託していく、というマンガ的な展開に、実は少し感動してました。
解決という最終的な結果も素晴らしいけど、そこに至る過程にドラマを感じました。
いわゆる「集合知」ってこういうことなのかな、とも思います。
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いやほんと、僕がスピルバーグなら映画化してます。協力して頂いたすべての方に感謝です。

//個人サイト、フェイスブック、ツイッター、インスタでユーザー(住民)の年齢層&性別割合が異なるとよく聞くけど、それ、本当だと思う。想像以上に棲み分けができてる。書き込みの内容・文面から体感でそう思う。
●2月4日…〔今日の良かった〕先日、WOWOWで昨年のマイベストワン映画『リメンバー・ミー』を再見して、あらためてエンドクレジットの言葉「時を越えて私たちを支え、力を与えてくれた人々を決して忘れない」でアートサンダーをくらった。墓マイラー的にどストライク、感電して頭のヒューズがとんだ。子どもは本編が終わると遊び始めたけど、僕は顔を見られないようエグ泣き。今まで観た映画の中で最高のエンドクレジット。ほんと、この言葉を故人に伝えるために墓巡礼をやってる。売れないまま早逝した芸術家とか、権力と戦って獄死した人とか…胸に来る。ずっと語り継いでいく!
「時を越えて
私たちを支え、
力を与えて
くれた人々を
決して忘れない」

//2018年度鑑賞映画のベスト10です。よろしければレンタルの参考に。
(1)リメンバー・ミー…故人に想いを馳せる気持ちはどこの国も同じ。人類普遍の共通点を感じ脱水症状になるまで滝泣き。
(2)グレイテスト・ショーマン…「私はなるべくして今の自分になった、これが私」、名曲「THIS IS ME」に激感動。
(3)万引き家族…血縁にこだわらず家族になろうとする人、産んでないけど親になろうとする人の物語、カンヌで世界の胸を打つ。
(4)シェイプ・オブ・ウォーター…声を出せない女性と言葉を話せない半魚人との珠玉のラブストーリー。本当のモンスターは差別主義者の人間と語り、モンスター・ムービー初のアカデミー作品賞。
(5)カメラを止めるな!…何度も大笑い、最初にやったもん勝ち!
以下順に「湯を沸かすほどの熱い愛」「アベンジャーズ/インフィニティ・ウォー」「ミッション:インポッシブル/フォールアウト」「犬ヶ島」「レディ・プレイヤー1」
〔番外・どうしてこうなった〕ハン・ソロ
●2月3日…〔今日の良かった〕ヨーロッパの鉄道乗り放題パス「ユーレイルパス」が60周年を迎えてパワーアップ!その昔、旅費が乏しいながらも、初めて欧州全土の墓巡礼が実現したのは、欧州“以外”の居住者だけが購入できる周遊券「ユーレイルパス」があるお陰だった。

最初に利用したのは1989年だからちょうど30年前。その頃は17カ国でしか使えず(それでも当時は「銀河鉄道999」のパス級価値)、イギリスは別にブリットレイルパスが、東欧圏はヨーロピアンイーストパスなどが必要だった。ちなみに初の英国旅行では4日間有効のブリットレイルパスを購入したにもかかわらず、たった1日使っただけで翌日からストライキで止まってしまう惨劇を味わった(お金は戻って来ない)。
かつて利用可能国が17カ国のみだったユーレイルパスに、今年から“最後の大物”大英帝国が参加、これでもうブリットレイルパスとはオサラバだ!っていうか、東欧圏の参加国がハンパない数になっており、もうユーレイルパスだけで東欧も行ける時代になった!

【最新版ユーレイルパス加盟国】
(西欧)フランス、トイツ、イギリス(NEW)、スペイン、スイス、イタリア、オーストリア、オランダ、ベルギー、ポルトガル、ギリシャ、アイルランド、ルクセンブルク
(北欧)デンマーク、フィンランド、ノルウェー、スウェーデン
(東欧)ハンガリー、チェコ、ポーランド、ルーマニア、ブルガリア、リトアニア(NEW※バルト三国初!)、スロバキア、セルビア、ボスニア・ヘルツェゴビナ、クロアチア、モンテネグロ、マケドニア(NEW)、スロベニア
(イスラム圏)トルコ

実に31ヵ国!ユーレイルパスはパックツアーを楽しむ人には馴染みがないと思うけれど、個人旅行者にとっては水戸黄門の印籠並みの重要アイテム。その長所を8つにまとめる。
(1)切符を買わなくていい!長蛇の列に並ぶ必要なし、時間を取られない!出発時間ギリギリまで滞在地を見聞可能!
※JRの「みどりの窓口」の行列を思い出してほしい。外国であれに並ぶ必要がないのはプライスレス!
※ただし、全席指定・予約必須の列車は予約料金が必要(20年前は500円くらいだった)。
※日本のJRと違って車内で切符を買えないため、ユーレイルパスがないと飛び乗れない。
(2)JRの「青春18きっぷ」は各停と快速しか使えないけど、ユーレイルパスは「急行」どころか「特急」にも乗車可能!また、新幹線に該当するTGVは割引料金で乗れる!
(3)鉄道だけじゃあない、鉄道会社系のフェリーは無料だし、「スウェーデン〜フィンランド」や「イタリア〜ギリシャ」などの国際フェリーに半額で乗船可能!他にもいろんな船やバスで割引がきく。
(4)値段が高いけど安い!大阪と東京を往復するだけで3万円近くかかることを考えたうえで以下の金額を見て欲しい。
★ユーレイルパスの2等車料金…1カ月毎日乗り放題9万2800円、3カ月12万4900円
(昨年まで25歳以下しか2等用は買えなかった。26歳になると貧乏でも1等車を買うしかなく客室で“浮く”。僕の身なりを見た紳士から「ゴホン。君、失礼だがここは1等車だよ」と指摘され、おずおずとパスを見せるのが“ユーレイルパスあるある”だった)
★ユーレイルパスの1等車料金…1カ月毎日乗り放題12万3600円、3カ月16万6400 円(ちなみに30年前は3カ月11万9千円)
わかりますか!東京・大阪を3、4回移動するくらいの料金でフィンランド北部の北極圏から南欧ギリシャ、果てはトルコのイスタンブールまで好きなだけ移動できる!どの時間の列車に乗っても良い!
(5)夜行も可!欧州の客車は、一室に3人掛けの座席が向き合う小部屋が並ぶ。昼間は座席だけど、夜になって3人以下なら水平に倒して簡易ベッドになる。つまり、ユーレイルパスを持っていれば、ホテルに宿泊しなくても8時間ほど往復できる距離の夜行に乗れば宿代が浮く!僕が「ユーレイルパスは高いが安い」というのは、宿代が含まれていることも大。
(6)60歳以上は10%のシニア割引適用。ちなみに欧州の鉄道は11歳まで子ども料金無料!なんで日本は小学生から運賃をとるのか!
(7)ヨーロッパのシティカードや博物館、ホテルなどの割引や無料特典がついている。
(8)パスの期限は15日、21日の短めのものあり、そっちはもっと安い。

たった1枚のパスで、アルバニア以外の欧州全土の鉄道が乗り放題になる夢のチケット、ユーレイルパス。1959年のパス発行初年度は利用者5千人、60年後の現在は年間30万人が利用。日本から往復7万円の格安航空券で欧州に飛び、3カ月の2等車パスを使い、食事をスーパーで売ってる一袋6個入り1ユーロのマドレーヌと噴水の水で済ませれば、理論上はフライト代込み約20万円で3カ月分の宿代・交通費・食事代をすべてまかなえ、かつ、全ヨーロッパをくまなく見て歩ける!墓地は入場無料だから上乗せなし!スイスで雄大なアルプスに泣ける!お小遣いがちょっとあればサグラダ・ファミリアもルーブルもシスティーナ礼拝堂も見学できる!ユーレイルパスを使って良き旅を!

(注)英仏トンネルを使ってロンドン〜パリを結ぶユーロスターは別途料金が必要。僕の場合、ドーバー海峡は船賃が安いから船を使ったり、格安の夜行バスでロンドンからパリに入った。
(注2)旅費に余裕があるなら、置き引きの被害に遭わないためにも、治安を考慮して1等車のパスをお薦め。2等車の方が地元民と交流できて楽しいけど、夜行の場合は客車が独立している1等車が安心できる。車掌さんもよく訪れるし、乗客が少ないため高確率でリクライニングできる。3カ月もの長旅になると、安心と安眠が手に入りやすい1等車が断然GOOD(1等車でも睡眠時は荷物をチェーンで荷台と結んでおくこと)。
●2月2日…〔今日の良かった〕デビューして半月が経ったフェイスブック。まっこと素晴らしすぎる!これまで文ジャンの日記やツイッターで情報提供を求めていた、海外のお墓についての次の3つの疑問が、外国の方の協力などで、投稿からたった2日で解決した!
(1)チェコに眠る作曲家ヤナーチェクの墓石に刻まれた楽譜(歌曲)の曲名。そもそもヤナーチェク自身がマイナーな作曲家であり、歌曲を大量に作っているため僕は14年間も曲名を分からずにいた。日本ヤナーチェク協会に問い合わせても返事がなかった。
ヤナーチェクはオペラに名作が多いため、僕はオペラの歌と信じ込んでいたけど、米国在住の日本の方が英文サイトを調査、その結果、男性合唱曲「さまよえる狂人」と判明、アジア初のノーベル文学賞に輝いたタゴールの詩集に基づいたものだった!
(2)帝政ロシア最後の皇帝ニコライ2世の墓には2つの謎があった。ペテルブルクの墓所には壁面の石板に皇帝一家の名前が刻まれており、少し離れた場所に何かロシア語が彫られた白い石がある(こっちはニコライの名がない)。果たして石板付近が墓なのか、白い石が墓石なのか?
結果、皇帝の子孫が白い石に墓参している姿を撮影した海外の報道写真が発掘され、白い石が墓と判明。次の疑問は、白い石に彫られている文字の意味だった。古いロシア語であり、現代のものと微妙に違う。ガチのロシア人でないと分からない。米国在住の方が、フェイスブックを通して知人のロシア人に解読を依頼、そのロシアの方は直接フレンドではないのに親切にロシア古文を英語に翻訳して下さり、聖書の一節であることがわかった。「旧約聖書の詩篇っぽい」ということになり、最終的に膨大な詩篇の言葉の中から、「詩篇106篇の4」であることが突き止められた!奇跡!
(3)パリのドビュッシーの墓石には、フランス語で書かれた詩の石板がある。詩の翻訳には訳者のセンスが必要で、グーグル翻訳ソフトの機械訳だと、めちゃくちゃな日本語訳になってしまう。仏人男性と結婚して現地に住む人にフレンドさんがアクセスし、全文を翻訳して下さった!1カ所のみ日本語訳が難しい単語(demesure)があり、そこだけ僕からも訳案を提案、検討の上、最後のピースが埋まった。

ただただ感無量。フェイスブックのこの拡散力!墓巡礼を通して知り合った旅行会社の人や、旅先で交流した海外在住の方など、墓マイラー32年の間に、知らぬ間に築いていたネットワークがあったことを、フェイスブックを始めてみて気づいた。
あと、『笑コラ』のおかげで、高校時代の吹奏楽部仲間と33年ぶりに繋がったのも感動。こちらも、フェイスブックを通してのもの。「おさむ君」という呼び方で呼ばれたのは高校以来だ。
そして、石材業界の方と繋がったのも大きい!これまで講演したことのない土地の方と繋がったり、メッセージで「番組を見ました」「石屋として嬉しかった」と感想を下さることがあり、僕はモチベーション爆上げです。もっと墓巡礼の素晴らしさを訴えていこうと改めて決意。
世間から10年遅れて始めたフェイスブックだけど、ほんと役に立ってる。なるほど、通りで世界中にユーザーがいるはずだ。

※「いいね」パワーは意外にあなどれない!文ジャンはどんな長文を書いても基本的に一方通行だし、こちらも20年それが普通と思って更新していますが、フェイスブックだとリアルタイムで「いいね」通知が入ってくる上、アイコンで相手の顔も見えるので、執筆推進エンジンの燃料になると判明!なんだか分からんが、体の芯から元気が湧いてくるぞ!

※フェイスブックで困っているのは業者のスパムメール。数日前から急に海外の美女の申請(完全に罠)が増えており「こんなオッサンがモテるはずないのに」とビビって半泣きで震えています。
フレンド申請された方で、アイコン写真なし、プロフィールなし、投稿履歴なし、フレンドなし、何から何までなしの方は、情報業者・スパム系と見分けがつかないなため、申し訳ありませんがご遠慮頂いています。アイコンとプロフィール登録後に再度申請頂けると助かります(汗)

//自室の本棚を語る友人I君の言葉に、なんかしびれる。「本は一点一点は書籍だが、集まると『蔵書』になる。星座になる。人生の痕跡になる。稀少種を遺す《ノアの方舟》になる。」
●2月1日…〔今日の良かった〕旧友が勧めてくれた、作家ウンベルト・エーコ(1932-2016)とジャン=クロード・カリエール(1931-)が“紙の本”への愛を語り合った対話集、『もうすぐ絶滅するという紙の書物について』の以下のくだりに笑ったり唸ったり。ちなみにエーコの墓の場所は不明で3年間探してる。

〔ウンベルト・エーコ〕
初めて家に来た人が、大きな書棚に気づいて、よりによってこう訊いてくるとしましょう。「ここにある本、全部お読みになったんですか」こういう質問への答え方はいろいろありますが、ある友人はこう答えました。「ここにある本だけじゃありませんよ、もっとです、もっと読んでいます」。
私はというと二通りの答え方を知っています。一つは「いえ、ここにあるのは、来週読まなくちゃならない本です。もう読んだ本は、大学に置いてあります」というもの。
もう一つの答え方は「ここにある本は一冊も読んでません。でなきゃ、どうしてここに置いておく必要があるでしょう」。
〔ジャン=クロード・カリエール〕
書棚にあるのに読んでいないし、この先も決して読まないであろう本に関しては、おそらく誰にでも、ずっと先に、もしかしたら来世になるかもしれないが、いつか必ず読むと決めている本をどこか、身近に置いておきたいという気持ちがあるんじゃないでしょうか。最期の時が来て、まだプルーストを読んでいないということに気づいて死んでゆく人々の嘆きは、じつに悲痛なものです。(注:マルセル・プルースト「失われた時を求めて」は難解・長編の代名詞)
〔エーコ〕
これこれこういう本を読んだことがあるかと尋ねられた場合、私は用心して、いつもこう答えます。「いいですか、私は読むのじゃなくて、書くのが仕事なんですよ」。こう言えば、みんな黙って引きさがります。
〔カリエール〕
本棚は、必ずしも読んだ本やいつか読むつもりの本を入れておくものではありません。その点をはっきりさせておくのは素晴らしいことですね。本棚にいれておくのは、読んでもいい本です。
〔エーコ〕
知識の保証みたいなもんですよ。
(カリエール)
ワインセラーにも似ていますね。全部飲んでしまったら困りますね。
書物の場合も同じようにするべきではないでしょうか。セラーに入れる必要はないとしても、いったん脇によけておいて、熟成させる、といいますか。
そうすれば、とにかく、あの忌まわしい「新刊強迫症」に対抗することはできますね。新刊だから読まなきゃならないという例のあれです。「話題の」本をとっておいて、三年後に読んだっていいじゃありませんか。

/別の旧友がくれた『笑ってコラえて!』の感想が胸の奥まで染み渡り、番組関係者への感謝を込めて貼っておきます。
「笑ってコラえてを見ました。今まで梶本さんが紹介された番組や雑誌は変わり者やキワモノ扱いが多かったのですが、この番組は普通の人が芸術に打たれてのめり込んでいく様がわかりやすく描かれて良かったです。ポーズや知ったかぶりでなく、ただ何かに打たれた人間の当然の反応として墓参りがあることを世の中に示してくれたと思います」

/週末、近所のダイエーで初めて初対面の人から声をかけられた。マダム2人組から「テレビを見ました」と。そして「写メをインスタにあげてもいいですか」と。めっちゃ恥ずかしかったし、心の準備ができてなかったのでアガってしまった。これがゴールデンタイムの力なのか。これからは、スーパーで値引きシールを貼ってまわる店員さんの後ろを、コバンザメみたいについていく姿を見られないようにせんと…やっべ(汗)
●1月29日…〔今日の良かった〕NHKラジオ第一放送『ラジオ深夜便 世界お墓偉人伝』4回シリーズの最終回を無事に終了!生放送なのでとにかく緊張。普通4回目となれば慣れそうなものだけど、『笑コラ』以降、SNSのフォロワーが増えたこともあり、“初対面”の人の前でうまく喋らなきゃと、今までで一番緊張した。

さて、さっそくですが、番組の補足です。墓巡礼の魅力について以下に追記します。
どの国を訪れても「墓参りで来ました」「有難うの一言をお墓に捧げたい」と伝えれば、誰かが巡礼を手助けしてくれます。特別な美談とかじゃなく、ほんとそうなんです。だからこそ、ロクに英語も喋られず、旅費も少ない僕が19歳から30年以上も墓参を続けて来られました。
“外国で簡単に手助けなんてしてもらえるのかな”と疑問をもたれた方。たとえば手塚治虫先生の墓所の近くに住んでいる人が、外国からきた人から、たどたどしい日本語で「ワタシ、テヅカセンセイノ、オハカヲサガシテマス、センセイハ、サイコウデス…」って涙目で言われたら、「そんじゃそこまで一緒に行きましょう」ってなると思うんです。僕のはまさにその外国版です。

確かに旅先には悪党もいて、強盗にあったり、盗難にあったりするけれど、その度にたくさんの人が助けてくれます。世界は良い人だらけです。
墓巡礼をしてきた僕は、戦争があろうとテロがあろうと、人間について断固「性善説」の立場をとります。人間の本性は善とします。もし「性悪説」で人間の本性が悪ならば、墓巡礼など続けてこられなかった。おっちょこちょいでトンマな僕が、多くの“初対面の人”の手助けで墓巡礼を続けてこられたという、この圧倒的な事実!「性悪説」なわけがないし、あまり不吉なことは書きたくないのですが、この先、仮に外国で巡礼中に犯罪の犠牲になり帰国できなかったとしても、その少数の悪党の存在で、他のすべての人の善意が無価値になどはならず、プラスマイナスではぶっちぎりで「性善説」のプラスです。
いつもこのマハトマの言葉を思います→
「人間性への信頼を失ってはならない。人間性とは大海のようなものである。ほんの少し汚れても海全体が汚れることはない」(ガンジー)
●1月28日…〔今日の良かった〕先週末、大学時代の文芸サークル仲間と年に一度の新年会。もう30年も経ち、20歳の学生は50歳のオッサン&オバチャンに。
昭和63年(1988年)、僕が通っていた当時の近畿大学には、文学クラブはおろか、芸術全体を対象にした研究会さえないという悲劇的状況だった。“マンモス校なのに文学を読んでも感想を語り合える友人がいない”。今ならSNSで同じ趣味の人と繋がれるけど、携帯電話さえない時代。しかも『笑コラ』再現VTRにあった、あの失恋3連発の直後。孤独地獄の中にあって、僕は真剣に友達を探していた。そして「きっと向こうもこっちを探しているはず、良い本を読んだ後は誰かと語りたいはず」、そう思って文芸研究会(文芸研)を旗揚げした。
芥川龍之介の肖像写真に「この顔にピンときたら文芸研」の言葉を入れ、8円コピーでチラシにして、大学通りの商店街に頼み込んで店頭に貼らせてもらった。
最初の年は入部3人。その後、少しずつ増えていき、やがて20名を超え、時を同じくして大学には本物の「文芸学部」が誕生した。メンバーの詩や小説をまとめた同人誌「ベアトリーチェ」は、僕の卒業後も18号まで出て、文芸研は約10年で主な活動を終えた。

新年会に参加したメンバーは11人。それぞれ、百貨店や製造メーカー、デザイナーなど社会と接点を持ち頑張っている。中にはツアーコンダクターでガラパゴスに何度も足を運んだ人や劇団四季の関係者も。だけど、トレンディ・ドラマのようなキラキラのリア充ライフとかじゃなく、そこは文芸研、50歳になっても心に陰の部分を持っており、それを排除せず、大切にしている。この陰が文学や映画を味わい深いものにする。悩みを抱えながらも、それぞれの持ち場で踏ん張ってる。

飲み会の後、寒風吹きすさぶなか、店の外で恒例の『最近、何がよかった?』コーナー。これは各自がお薦めの1冊を持ち寄り、1人3分以内でプレゼンするというもの。このコーナーが始まるまで、「酒はやっぱり○○の酒がうまい」だの、「腰と膝がつらすぎる」だの、そういう話ばかりしてたのに、突然、30年前に時間が巻き戻されて、カバンの中からゴソゴソと本を取り出し、「これがね、なかなか良かったんですよ!」と目からビームが出る。「アホな話をしていても、ちゃんと読んどるやんけワレ!」ってなる。
みんながカバンから出してきた本はこんな感じ→

ウンベルト・エーコ
『もうすぐ絶滅するという
紙の書物について』
カズオ・イシグロ
『忘れられた巨人』
ヨシタケシンスケ
『おしっこちょっぴり
もれたろう』

葉山嘉樹
『海に生くる人々』
惟任將彦
『灰色の図書館』
ロマン・ロラン『ジャン・クリス
トフ』とシャトーブリアン『アタラ』
他に心理分析の面からオウム死刑囚の告白録等々。最後のジャンクリとシャトーブリアンは自分。こないだの『笑コラ』をみんな見ており、彼らはこの30年間、僕があちこちで墓地を転げ回ってることを知っているので、「やっと活動に光が当たりましたね」と祝ってくれた。旧友からの祝福ほど嬉しいものはない。もしネットが発明されなければ、墓巡礼していることを知る人は、家族と文芸研のメンバーくらいで、そのまま生を終えていた。かつては文芸研の仲間だけが、僕の話をドン引きしないで聞いてくれ、そして笑ってくれた。
むろん、人に知られようと知られまいと、墓巡礼は恩人に御礼を伝えるのが目的だから、我がライフワークとして黙々と続けているのだろうけど、メディアで紹介されることで、故人のことをより多くの人に知ってもらえたり、他の墓マイラーの人と繋がれるのはホント嬉しい。50まで生きてきたからこそ、少しずつ形になってきたわけで、身体のあちこちにガタが来始めてはいますが、ここまで持ってくれた生命と、応援してくれた周囲の人に感謝です。
●1月27日…〔今日の良かった〕27日は国連の定める「国際ホロコースト・デー」。この日に合わせ、イスラエルで元外交官の杉原千畝(ちうね)さんを称える式典が開催された。第2次世界大戦中、リトアニアに駐在していた杉原さんは、ナチスの迫害から逃れるユダヤ人のために、人道的な立場から日本政府・外務省の指示に背いて日本の通過ビザを発給し、6000人の命を救った。日本と外務省はヒトラーの気嫌を損なうことを恐れ、杉原さんに「ユダヤ人を見捨てろ」と命じたのに、杉原さんは独断で大勢のユダヤ人を助けた。この式典は、杉原さんの勇気を広く知ってもらう目的で、複数のユダヤ人団体が協力して開いたとのこと。ホロコースト犠牲者を追悼する施設の外壁に杉原さんの名を刻んだ石板が設置され、主催者は「人生のリスクを冒してまで私たちを助けてくれた、杉原の勇気ある行動を決して忘れない」と称えた。「命のビザ」で生き延びた人々の子孫は「既に他界した父は20歳のときに杉原さんのお陰で命を繋ぐことができました。今や孫も入れると60人の大家族です。杉原さんには感謝の気持ちで一杯です」。
リトアニアの首都ヴィリニュスを4年前に訪れた際、街を流れるネリス川のほとりの“SAKURA公園”に杉原さんの顕彰碑があり、複製された命のビザがパネルになっていた。杉原さんの行動はリトアニアでも知られている。
日本の学校の授業で杉原さんについて伝えることはとても大事。だけど「杉原さんスゴイ=日本人スゴイ」で完結することには異議がある。僕は次の3点も重視している。

・敗戦後、2年間の捕虜収容所を経て帰国した杉原さんに、外務省は労をねぎらうどころか退職通告書を送付、事実上の懲罰解雇にした。夫人は後の岡崎外相から免官理由として「ビザ発給の責任」を告げられた。解雇を進言したのは終戦連絡中央事務局連絡官兼管理局二部一課。外務省ソ連課長いわく「杉原は本省の命令を聞かなかったから、クビで当たり前なんだ。クビにしたのは私です」「日本国を代表もしていない一役人が、こんな重大な決断をするなど、もっての外であり、絶対、組織として許せない」。

・外務省関係者の間には「杉原はユダヤ人に金をもらってやったのだから、金には困らないだろう」という冷淡な中傷が流れ、これを聞いた杉原は旧外務省関係者と絶縁した。戦後も長く外務省では悪くいわれ、夫人は杉原さんのお墓の場所すら伏せざるをえなかった。

・政府は白人によるアジア人差別を批判しながら、人種差別集団の極致であるナチスと同盟を結び、そればかりか杉原さんの行動に対して、ヒトラーの顔色をうかがうような態度をとっている。
−−歴史から学ぶべきことはたくさんある。

1981年、ドイツ人ジャーナリストが著作『孤立する大国ニッポン』で「戦後日本の外務省が、なぜ杉原のような外交官を表彰せずに追放してしまったのか、なぜ彼の物語は学校の教科書の中で手本にならないのか、なぜ劇作家は彼の運命をドラマにしないのか、なぜ新聞もテレビも、彼の人生をとりあげないのか理解しがたい」と抗議した。その後、次第にメディアが取り上げ始める。
生誕百周年となる2000年、没後14年目にして、ようやく日本政府による公式の名誉回復が河野洋平外務大臣によって行われたが、この時ですら当時の外務省幹部は反対しており、名誉回復は押し切ってなされた。
「これまでに外務省と故杉原氏の御家族の皆様との間で、色々御無礼があったこと、御名誉にかかわる意思の疎通が欠けていた点を、外務大臣として、この機会に心からお詫び申しあげたいと存じます」(河野洋平外相)
現在、杉原さんの“命のビザ”で生き残った難民たちの子孫は25万人に達するという。

「政府の命令に背き、良心に従った杉原さんがいなかったら、私たちの誰も存在しなかった。私たちが歩み続けた暗い道の中で、杉原さんの星だけが輝いていた」(ビザ受領者アンナ・ミロー)
「自分についてはまったく話さなかった。誰にでも温かく接する人柄だし、決して、上から見下ろしたり、差別したりしなかった」(モスクワ駐在員時代の部下・川村秀)

〔杉原千畝さんいわく--〕
「私のしたことは外交官としては間違っていたかもしれない。しかし、私には頼ってきた何千もの人を見殺しにすることはできなかった」
「大したことをしたわけではない。当然の事をしただけです」
「彼らは国を出たいという、だから私はビザを出す。ただそれだけのことだ」

//大相撲は関脇玉鷲が初優勝。初土俵から15年、休場は一度もなく「1151回連続出場」は現役1位。34歳2カ月での初優勝は半世紀で2番目の年長記録。モンゴルから来た努力の人に春、おめでとう。“変化”を使わない、玉鷲のガチンコ突き押し相撲は見ていて気持ちがいい。ちなみに趣味は小物、お菓子作り。可愛い。
●1月26日…〔今日の良かった〕今月11日の日記で紹介したヴァイオリニスト、アンネ=ゾフィー・ムター演奏の『ツィゴイネルワイゼン』の御礼として、旧友が同じムターが演奏したヴィヴァルディ『四季』の熱狂的名演の動画を教えてくれた!『四季』では「春」が一番人気でCMにもよく使われているけど、ムターのライブ演奏は「冬」の緊張感がハンパない!このヒタヒタと厳冬が迫ってくる感じ、ナマで聞いたら脈拍がおかしくなりそう。冬の第2曲はうってかわって暖炉の炎に当たってるような柔らかな世界。ド感服。そして最大の圧巻はアンコールで演奏された「夏」の嵐(頭出し済み)!これ15人で出してる音じゃないだろ!?100人のオーケストラに聴こえる。演奏後はスタンディングオベーションも起きた(クラシックでは珍しい)。旧友が愛を込めて呼んでいる“ムター親分と手下たち”の演奏、是非お楽しみあれ!!
※クラシックのコンサートでは、曲が全部終わるまで拍手をしないという暗黙のルールがある。ところがこのライブでは聴衆が感動のあまり、「冬」の第1曲で拍手してしまっている。それがマナー違反に思えないほどの名演!

//大坂なおみ選手(21)が四大大会の全豪オープンテニスで優勝!世界ランキングが1位に。推移を見ると2012年は1016位、16年は95位、18年4位、圧巻の成長度A!
●1月25日…〔今日の良かった〕2012年にジョジョアニメの第一部がオンエアされた時から、“何年先になってもいいから、このシーンをアニメで見たい”、そう思っていたエピソードがいくつかある。第5部屈指の名バトル、ブチャラティVSプロシュート兄貴&ペッシ戦がまさにそれ。14話〜16話まで3話にわたった当エピソード、14話はプロシュートがえらく垂れ目で、鋭い切れ目のイメージを持っていた僕は「こ、これは兄貴なのか?」と戸惑った。時々ロングカットで人体比に違和感が…。だけど、15話と16話は「神作画」の領域だった!超重要な回を美麗作画で見られる幸せ!声優さんの名演、夕暮れの美しい風景、ドラマチックな音楽、ホント最高だった。2012年から7年間、ずっと待っていた甲斐があった。ブチャラティもプロシュートも最高。はうう…。

 
「アリーヴェデルチ(さよならだ)」昔の外国映画の字幕風フォントがまた良い!
●1月24日…〔今日の良かった〕昨日のファリャに続いて音楽との良い出会いがあった。スペインの作曲家アルベニス(1860-1909)は心臓病のため48歳で他界している。世代的にはマーラーと同い年で、ドビュッシーの2歳年上。「スペイン人の手で世界に通用するスペイン音楽を! 」と、音楽でスペイン各地を描きあげた。それらは主にピアノ単体の独奏曲で、小品を集めたものが多い。長生きしていれば、オーケストラと共演するピアノ協奏曲も生まれていたかも、そう残念に思っていたら、20世紀後半に行方不明になっていた『ピアノ協奏曲イ短調“幻想的協奏曲”』の楽譜が発見されていた!しかもYouTubeに演奏がアップされていた。
緊張と共に再生ボタンをクリック。第一楽章は壮大な始まり方をした後、5分ほどしてめっさ美しいピアノ・ソロが流れ始めた(頭出し済み)。キターー!!旋律からロマン砲炸裂、超好みのメロディーライン、至福のひとときでござった。アルベニスという作曲家自体がクラシック・ファン以外は馴染みが薄いため、この曲が世に普及するにはまだ時間がかかるだろうけど、100年後には「アルベニスのピアコン(ピアノコンチェルト)ええよなぁ」と愛聴する人が増えているだろう。

//アルベニスの後継でスペイン音楽を発展させたグラナドス。彼も作曲活動に脂が乗り始めた48歳で他界している。しかも病気で没したのではなく、第一次世界大戦の混乱の中、乗船した汽船がドイツ軍潜水艦(Uボート)の魚雷攻撃を受け、英仏海峡の波間に消えるという悲劇的な最期。グラナドスはいったん救命ボートに助けられかけたが、溺れる妻を見て海に戻ったという。
グラナドスの最高傑作は晩年のピアノ曲集『ゴエスカス(ゴヤ風)』。この中の「愛と死」の後半に、2分間ほど素晴らしい旋律が登場する。その部分にリンクを貼ったのでよろしければ是非!ドイツ軍は取り返しのつかぬ事をした。
●1月30日…〔今日の良かった〕昨夜の『ラジオ深夜便 世界お墓偉人伝』(最終回)がNHK公式サイトにアップされました!2月6日午後6時まで期間限定の聴き逃しサービスで、開始3分半から登場。今回はラストということで、墓マイラー・デビューされる方のために、国内外の偉人が多く眠る墓地(ウィーン中央墓地、仏ペール・ラシェーズ墓地、英ウェストミンスター寺院、NYウッドローン墓地、LAウエストウッド・メモリアルパーク、雑司ヶ谷霊園、青山霊園、谷中霊園、多磨霊園)も紹介しています。よろしければ是非!
以下、ラジオで紹介したエピソードの実際の写真です。200%無実の罪でアメリカの留置場も体験しました。
カリフォルニアの優しい警官ケインさん
一緒にスヌーピーの生みの親の墓へ
留置場1号室の
囚人カジポン
エジソン博物館前(工事閉館中)の号泣 石灯籠で挟まれたエジソンの墓




●1月23日…〔今日の良かった〕クラシック・ファンとして、YouTubeがある時代に生きているこの幸運を感謝せずにいられない(クラシックは既に著作権フリーの音源も多い)。それまでCDショップになければ諦めていたマイナーな曲でも、根気よく探していれば、海外で誰か1人だけアップしていたりする。今日、僕はスペインの作曲家マヌエル・デ・ファリャ(1876-1946)の若い頃の作品を探していて、20歳の時のピアノ曲『夜想曲』(5分)という傑作と出会った!なんちゅう美しさ。切なくもある。1896年の作品だ。
こんな曲、これまで存在すら知らなかった。そもそもファリャといえばバレエ音楽しか聴いたことなかったし(汗)。名演奏なのに誰が弾いているのかデータがなく、コメ欄を見ると、「いや、これはデ・ラローチャじゃあない」とかみんなで推測しあってますね。ほんとこれ、何度聴いても飽きないな。終わった瞬間にまた再生したくなる。ファリャさん、ムーチャス、ムーチャス、ムーチャス・グラシアス!
※ファリャは独裁者フランコがスペインの政権を握ったことで、反ファシズムの立場からアルゼンチンに亡命した。フランコ政権は何度も帰国を要請したが、彼は拒否し続けた。
※24歳のときのピアノ曲『アンダルシアのセレナータ』(5分49秒)もなかなか良い。
※一般的にファリャでイメージされる曲は、フラメンコとオーケストラが融合したバレエ『三角帽子』の陽気なフィナーレ(すごい迫力)。

//全豪大坂なおみ選手決勝に進んで欲しいですね!→決勝進出!おめでとう!

/ /昨日の『音楽の友』の記事に画像を追加。インスタの方もだんだん写真が増えてきました。
●1月22日…〔今日の良かった〕木曜の22時45分からEテレでオンエアされている5分間のショートアニメ『ざんねんないきもの事典』が面白い。夏休みに一度放送されたらしいけど、墓巡礼で気がつかなかった。第1回のコアラ編では、主食のユーカリの葉は毒があるから他の生き物と奪い合いにならないメリットがある一方、毒の消化で猛烈に体力を消耗するため、コアラは1日の大半を寝て過ごさないといけないんだとか。第2回のサバクノツノトカゲは、敵に襲われたときに身を守るため体内の血液をビームのように発射(ジョジョのディオに同じ技が。笑)。このとき、血を出しすぎて、それが理由で死んでしまうトカゲいるとのこと。防御になってない(汗)。24日の第3話も楽しみ。

//発売中の『音楽の友 2月号』に「世界音楽家巡礼記(23)」を寄稿。今回は「北欧の巨匠たち」と題して、グリーグ(ノルウェー)、シベリウス(フィンランド)、ニールセン(デンマーク)を紹介。北欧の作曲家の音楽は、霧に包まれた森や湖が絵画のように目に浮かぶ。濃霧が生み出したモノクロの世界は、水墨画を愛してきた日本人の感性とよく合う。
これまでスウェーデンには墓巡礼したくなる作曲家がいなかったけど、前々回のオフ会でクット・アッテルベリの存在を知ったので、早く墓参したいな。アッテルベリが眠る墓地には、ノーベル、イングリッド・バーグマン、ストリンドベリ、サルコーのお墓もあるし。




岩壁の真ん中にグリーグの墓!
(ノルウェー・ベルゲン)
夜11時、オスロ行き夜行にベルゲンから乗車。
まだ空が明るい。北上すると白夜になる
自邸の裏庭に眠るシベリウス
(フィンランド・ヘルシンキ)
ニールセンは彫刻家の妻が彫った
レリーフ付き(デンマーク・コペンハーゲン)
●1月21日…〔今日の良かった〕ギターを伴奏楽器から独奏楽器に昇華させた“ギターの父”、スペインの作曲家フランシスコ・タレガ。彼の作品を片っ端から聴いている。最も有名な曲は『アルハンブラ宮殿の思い出』(5分24秒/演奏は孫弟子のセゴビア!)なんだけど、僕は異国での望郷の想いとも、亡くなった幼い娘さんへの追悼曲といわれている『ラグリマ(涙)』(2分)が胸に来た。一音、一音にタレガの想いが込められている。2分間の短い曲だけどホント心に残った。そして『ゆりかご』(2分45秒)も良い。とても穏やかで温もりに満ちた曲。このタレガさんは、親しい人の名前を曲名にすることも多く、まっこと優しい人だなぁ。

//先日の『笑ってコラえて!』の墓マイラー企画を見逃された方、途中から見たという方、YouTubeにはありませんが、某動画サイトに…ゴホン、ゴホン(リンクA)(リンクB※41分あたり、フェロモン広告注意)。見つけましたが、削除は時間の問題と思います。解像度が低いから少し若く見えて個人的には嬉しかったり…いや、何でもないです、忘れて下さい。

 

//漫画原作者・小池一夫さん(フォロワー86万人!)のツイッターがいい。→

小池一夫@koikekazuo
好きな人がいっぱいいる人は、好きなことがいっぱいある人は、人生が深刻化しません。深刻になって行き詰っているときは、とても視野が狭くなって「好き」が無い状態です。「真剣になれ、深刻になるな」。

…『笑ってコラえて!』の失恋エピソード3連発なんかまさにこれです。好きな芸術家や作家がいっぱい増え、絵画・音楽・文学、両手で抱えきれぬほど好きなことが増えたおかげで、ダメージが深刻化しなかった。
ちなみに、過去の小池一夫さんのツイートで超メモったのはコレ→

小池一夫@koikekazuo
「ネットでは、無責任に好き勝手なことが書かれている。前にも強く言ったのだが、表現者は絶対に匿名掲示板などを見るな。悪意の深淵を自ら覗くな。」
●1月20日…〔今日の良かった〕なんと、明晩21日の9時からBSプレミアムで映画『それでも夜は明ける』オンエアされる!19世紀アメリカで黒人音楽家ソロモン・ノーサップが12年間の奴隷生活を強いられた実話を描き、アカデミー作品賞に輝いた傑作。差別と虐待を受けながらも、人間としての尊厳を守り続けた男。原題は『12 Years a Slave』だけど、この邦題は良い。特に“それでも”という部分が!必見です。
※黒人のマックィーン監督がニューヨーク映画批評協会賞で監督賞を受賞した際、スピーチ中に「お前なんか、しがないドアマンか清掃作業員だ!」とヤジを飛ばされるなど、改めてレイシズムが浮き彫りに。同監督は動じず最後までスピーチを続け、ヤジった男は協会を除名に。(予告編

//う〜む、これは厳しい!昨年から募集をかけていた『偉人墓巡礼ツアー フランス・パリ6日間』(3/25-3/30)、申込み期限は1月末になっていますが明日21日14時までにあと8名の申込みがないと催行中止とのこと。
実質4日間でショパン、ナポレオン、ドラクロワ、ユゴー、モジリアニ、スタンダール、ジム・モリソン、エディット・ピアフ、アントワネット、トリュフォー監督など約60名の墓所をめぐり、さらにルーブル美術館とセーヌ川下りまで盛り込んだ「全部載せ」企画だったのですが、やはり旅費38万はハードルが高いですよね…。
ただ、この価格はほんとギリギリです。春休み時期の往復フライト代、4つ星ホテル4泊、貸し切りバス、通訳ガイドさん、各所入場料その他を合算すると、15名以下では赤字になる価格。ほとんど利益がなくても、旅行会社さんは「文化事業」と位置づけ企画して下さいました。僕もノーギャラ覚悟です。もし迷われている方がおられましたら、明日14時までにお申し込み頂けると幸いです!
●1月19日…〔今日の良かった〕Eテレ『ららら♪クラシック』が良かった!後ほど更新します。
●1月18日…〔今日の良かった〕16日放送の『歴史秘話ヒストリア ぼくはアニメの虫/手塚治虫がやりたかったこと』、手塚先生のアニメ事業に的を絞った見応えのある内容だった。初めて見た1984年の作品『ジャンピング』(6分21秒)に思わず見入った!ジャンプするたびに、野原、街中、海、戦地と視点が移動していく様子が臨場感たっぷりに描かれ、これを現代の4DX劇場で上映したら大きな話題になるだろう。後半、ある雲の中に落ちたときに地面がないという…。短い6分間にこのメッセージ性。嗚呼、手塚先生!
『ジャンピング』ってウィキの項目にもなってない作品だけど、世界4大アニメーションフェスティバルのひとつ、ザグレブ国際アニメーション映画祭グランプリを受賞している。ユネスコ賞も獲得。この作品の存在を知ったことは大きな収穫だった。

//『笑ってコラえて!』の余波が続いている。2005年に出した僕の著書『お墓お散歩ブック』は定価が約1700円なのに、アマゾンで中古本に約10倍の16800円がつき、しかもそれが売れていた。業者はえげつない値段をつける。保存状態だって“可”なのに異常な価格。僕はいま新しい本を書いており、年内には形になると思うので、この値段で買うのはNGです。数日経てば価格も下がっていきます。名案がひらめいた!増刷すれば問題解決しますよ、大和書房さん!

  恐ろしい値段になっている…う〜む
●1月17日…〔今日の良かった〕昨日の今日なので私事ネタです。『笑コラ』、勇気を出して出演し本当によかったです!撮影当初、「やっぱ、厳しくないですか?ゴールデンタイムのバラエティでお墓をやると視聴者はドン引きしますよ」などと懸念していたのですが、ネット上のまとめページ(全5ページ)を拝見した限りでは、「感謝している恩人に“ありがとう”を言いに行く」というシンプルな理由は受け入れられた気がします。ゴッホやショパンの話の反応など、視聴者の感想を読んでこちらが泣きそうに。失恋のお馬鹿なエピソードは、我が身の事ながら爆笑しました。“そりゃあ、フラれるよカジポン!”と。テレビ画面のカジポン役に僕が突っ込むカオスな状態でした。

オンエア中からツイッターのフォロワー登録を知らせる着信音が鳴り続け、1時間で約1500人フォロワーさんが増えました。放送終了後は、親戚から電話がかかってきたり、何年も連絡をとってなかった旧友からフェイスブックやツイッターにコメントがきたり、カジポン役の俳優・島林瑞樹君からも連絡がありました。
ツイッターの「おすすめトレンド」に、おそらく我が人生では最初で最後であろう「墓マイラー」と「カジポンさん」がダブルで入って驚倒。「カジポン」ではなく「さん」がついているのが、なんか嬉しかった(『AKIRA』の金田もニッコリ)。“さん”付けは、おそらく51歳という年齢もあるだろう。

改めてロケを見て、奇跡のようなタイミングと思ったのが、龍馬の墓前で涙ぐんでいた女性の方、そしてシャトーブリアンの墓前で詩を朗読にきたパスカルさんと出会えたこと。多くの人には「墓マイラー」は初めて聞く言葉だろうし、「変わった趣味」「どちらかというと変人」という印象を持たれるかも知れない。ところが、ロケに行くと僕以外の墓マイラーがそこにいる。日本でも、世界でも。視聴者の方に、墓マイラーがたくさんいることを伝えたかったので、この偶然に感謝しまくり。ちなみにパスカルさんが自身を「ブルターニュ人」と名乗っていたのは、フランス北部ブルターニュ地方が、ケルト文化の影響を受けた特別な土地という郷土愛からきています。




友人が送ってくれた
おすすめトレンドの写メ
シャトーブリアンの墓前で
優しくこう言って下さったパスカルさん

ゲストが菅田将暉さん、坂口健太郎さんという豪華さもあって、視聴率はありがたいことに20時台で首位、21時台は裏番組の『相棒』と同率首位とわかり、墓トークで視聴率が急降下することは避けられたよう。胸を撫で下ろした。
番組後、複数の石屋さんから温かい感想メールをもらえたのも嬉しかった。最近は「墓じまい」という墓マイラーが気絶しそうな言葉が出てきて、お墓業界はあまり元気がない。こういう時だからこそ、お墓LOVEを全身全霊で叫び、石屋さんにエールを送りたかった。思いが伝わってよかった。

僕が通う空手道場は、僕以外、全員が黒帯(小学生も!)で、運動神経絶無の僕だけが10年間も茶帯。普段は「茶帯の下手なオッサン」と距離を置かれてるのに、今日は道場の扉を開けた瞬間にワラワラと子どもたちが集まって来て「オス!」「オス!」「オス!」とみんな挨拶してくれるじゃないですか!「すごい、これがゴールデンの力か!」と感嘆しました。
今まで近所の人やPTAの人に「何をやってる人だろう」「時々大きなリュックを担いでる怪しい人」と思われていたのが、いや、怪しいのは正しいんだけど、少なくとも「安全なお馬鹿」と分かってもらえたら、ほんと嬉しいです。(*^_^*)

ところで!番組で紹介されたフランスの墓は3人のみでしたが、実は11人に墓参しています!放送時間の関係で泣く泣くカットされたのは、ゴッホ兄弟、ナポレオン、マリー・アントワネット、ロダン、サティ、ラヴェル、アンリ・ルソー、ロマン・ロラン。それぞれの墓地に良いエピソードがあり、深夜でもいいので、お蔵入りになっている巡礼映像に陽の光を当ててあげてほしいなぁ…ねぇ、日テレさん(チラ見)。

//フェイスブックのフレンド登録、順番に行っていますので、申請された方、いましばらくお待ちください(汗)。10年以上前からの読者の方から申請を頂くと、なんかこう、胸がいっぱいになります。既に会ったことがあるような感覚に。よくぞ足を運び続けて下さったと…!
●1月16日…〔今日の良かった〕ついにこの日が。朝刊のテレビ欄、本日出演『笑ってコラえて!新春SP』の中に“墓マイラー”の文字を発見!もう緊張しすぎて、2日前から足の小指をテーブルの脚、椅子の脚、いろんなものにぶつけまくり。
先日も書きましたが、今回の放送は、このホームページやツイッターなど、ネットでのみ繋がっている初対面の方に、番組を通して「はじめまして」のご挨拶というか、心の握手ができたら、そんなふうに願っています。そして旧知の方には「お久しぶり!」のハイタッチです! (^^)/
※今朝のディレクターさんからの情報では、20:45頃から登場とのこと。

【追記】放送終了!皆さんも失恋した時に、恋の炎の灰からダイヤを拾える人を好きになって下さいね。ビバ失恋です(本末転倒)。恋愛というものは、成就しないことの方が圧倒的に多いんです。学校では失恋からの立ち直り方を教えてくれませんが、これは必修科目にすべきです。将来、ストーカー化しないためにも。
失恋しても自分が成長して恋が終われば、悲しみを胸に抱きながらも、相手に感謝しこそすれストーカーになるのはあり得ません。そして芸術には失恋して繊細な心理状態にある方が、感動できる作品が多いんです。幸せルンルンなときには見えてなかった、心に響く芸術作品が次々と見つかります。墓マイラーの話については明日の日記で。

今回、取材して下さった日テレ・石原ディレクターほか製作陣の皆さん、再現VTRの俳優の皆さんに心から感謝。青年時代役を演じた島林瑞樹さん、見事な再現度でした。何もかもあのままです!そしてシャトーブリアンの墓前で偶然出会ったパスカルさんに画面を通してまたお会いできて胸熱でした…涙。

//8年前に連載を開始した『月刊石材』の「墓を訪ねて三千里」がもうすぐ第100回。それを記念してバックナンバーがWEB化されました!まずは第1弾として25名をピックアップ。誌面ではモノクロ写真ですが、WEBではフルカラー。やっぱカラーは美しい。連載は約1400字という制限があり、その中に巡礼エピソードと伝記を入れる必要があるんだけど、逆にいえばコンパクトになって読みやすい。サイトだと文字数に制限がないため、つい長文になるから(汗)。是非、移動中にでもこのWEB版をお楽しみ下さい。

//開設したばかりのフェイスブック。このサイトを見てフレンド申請される方(既にされた方も)は、メッセージに「文芸ジャンキー読者です」の一言を添えて頂けると助かります。
●1月15日…〔今日の良かった〕先日のNHK『サグラダ・ファミリア 天才ガウディの謎に挑む』がとてつもなく素晴らしい内容だったので、数日中に紹介します。

//『笑ってコラえて!新春SP』オンエアまで、あと1日!番組放送後、撮影時の現地の方との交流や、放送時間の関係でカットされた巡礼エピソードなどアップしますね。
●1月14日…〔今日の良かった〕大河ドラマ『いだてん』第二話も実に丁寧な作り。熊本で生まれた主人公・金栗四三は体の弱い子どもだったが、長い山道を走って通学するうちに、マラソンでは呼吸法が大切と悟り、「スッスッ、ハーハー」の呼吸で誰よりも速く長距離を走れるようになっていく。若き日の古今亭志ん生も落語の師匠に入門、物語が動き出した。大声で歌いながら自転車に乗る綾瀬はるかさんに癒された。
※ただし、37歳の勘九郎が15歳の中学生役は無茶ぶりすぎます!(笑)

/週末のNHK『さし旅 仏像マニアと巡る新春!御利益ツアー』。番組登場の仏像マニアが持っていた仏像フィギュアコレクションの中に、なんと「法然上人」のフィギュアが混じっていた!制作はあの海洋堂。これは欲しい。ネットで検索したら「親鸞上人」のフィギュアまであった。既に販売終了、ヤフオクは落札1万円超え。さすがに手が届かない。

//ネットに詳しい友人に勧められ、初めてフェイスブックを開設。いやあ、これは面白い。試しに好きなゴッホ絵『最初の一歩』と、没後もファンに愛されているのがわかるモジリアニの墓画像をアップしたんだけど、サイトだと容量が重くなるから縮小している画像が、クリックひとつで大きいまま見られる!
フェイスブックは2004年に設立され、2017年に全世界のユーザー数が18億人を突破。日本語化されたのは2008年で、日本の利用者は2700万人を超えているとのこと。日本人の4人に1人ってすごいな。僕は11年も遅れてこのムーブメントに参加。

僕は文ジャンという個人サイトを持っているし、ツイッターもやっているので、正直、これまでフェイスブックを開設する必要性を感じていなかった。だけど、友人から「フェイスブック、ツイッター、ブログ、個人サイトは、メインのユーザー層がそれぞれ異なっているから、アクセスできるツールを増やした方がいい」とアドバイスされ、明後日の『笑コラ』オンエアを控え、タイミング的に良いかもと開設しました。
ただし、あくまでも「主戦場」はこの文芸ジャンキー・パラダイスであり、フェスブックは墓マイラーに特化していこうと考えている。というのも、ラインで『世界墓マイラー同盟』を運営しているけど、メンバーは総勢3人オンリーだし、全国各地にいるであろう孤独な墓マイラーを、幅広く結びつける情報交換の場が必要と痛感していたから。
原則、完全オープンにするので、「フレンドまで公開」とかはやらないつもり。テレビを見た墓マイラーの人から連絡が来るといいな。

※フェイスブックの『知り合いかも』欄に、自動的にいろんな人が表示されるんだけど、10年ぶりとか、20年ぶりに見る名前があって、「おお〜、この人は全然変わってない!昔のままだ」とか、めっちゃ懐かしく、思わず見入ってしまう。

※若者に人気の「インスタグラム」は1600万人のユーザーがいる。僕もローラさんの辺野古基地反対メッセージのその後の報告を追いたくて、彼女をフォローするため登録を済ませた。さすがに5ツールの更新は手が回らないので、こちらはボチボチに。

//訃報が続いている。1月4日に英国の絵本作家ジョン・バーニンガムさん(82歳)、5日旅行ジャーナリストの兼高かおるさん(90歳)、6日「出前一丁」「アート引越センター」「積水ハウス」などCMソングの女王・天地総子さん(78歳)、12日に哲学者の梅原猛さん(93歳)と女優の市原悦子さん(82歳)。哀悼の意を表します。
●1月13日…〔今日の良かった〕第122回にして、ついに海外へ進出した昨夜のNHK『ブラタモリ』。地形から見るローマ発展の歴史はとても面白く、最後に登場したイギリスからインドまでの古代の道路地図(7メートル!)は圧巻だった。次回は、トレビの泉など水から見るローマ。

//昨日の『絶望名言』に触発され、自分でも過去に映画や小説からメモったものを見直してみた。すると、名言の内容はマイナスにもかかわらず、共感したり、噴き出したりで、不思議と元気に。以下、いくつかチョイスしたく!これらは、今までトップページ上部にある「人生の名言(救命ロープ)」に一度も登場したことがないものばかり。

・人間のこの巨大な渦(うず)の中にいる時くらい、深く孤独地獄を味わったことはない(ファーブル)昆虫学者
・人間のみがこの世で苦しんでいるので、笑いを発明せざるを得なかったのだ(ニーチェ)哲学者
・「明日は、明日こそは」と人は人生を慰める。この「明日」が彼を墓場に送り込むその日まで(ツルゲーネフ作家
・欲するものがすべて手に入りつつある時は警戒せよ。肥えていく豚は幸運なのではない(ジョーエル・チャンドラー・ハリス)作家
・立派な信念と公平さと誠実さを持つ人物を口を極めて賛美することは、人間一般に対する不信を表明しているのと全く同じだ(ラ・ブリュイエール)思想家
・死んだらとりあえず部屋代を払わんでいい(モーム)作家
・自分を哀れむという贅沢がなければ、人生なんていうものは耐えられない場合がかなりあると私は思う(ギッシング)作家
・愚かな女は見かけほど愚かではない。愚かな男は実際その通りであるが(マルセル・アシャール)劇作家
・美的にも、知的にも、そして論理的にも自分ほど進んでいない世の中を忌む(夏目漱石)
・この世に人間ほど凶悪な動物はいない。狼は共食いをしないが、人間は人間を生きながらにして丸飲みにする(ガルシン)作家
・何という世の中だ。狂人が恥を知れと叫ばねばならんとは!(A・タルコフスキー)映画監督
・女に忘れられたら男だって意地になる。そういう女を忘れる為に出来るだけの手は打ってみせる。それでもうまく行かなければ、せめて忘れた“ふり”をする(モリエール)劇作家
・40歳を過ぎると男は自分の習慣と結婚してしまう(メレディス)作家
・あきらめを十分に用意することこそ、人生の旅支度をする際には何よりも重要だ(ショーペンハウエル)哲学者
・何事も期待せぬ事。それが肝心(吉田兼好)歌人
・この世から未来永劫消えないものは二つだけ--『宇宙』と『人間の愚行』だ。ただ、宇宙のほうは断言できない(アインシュタイン)科学者

最後のアインシュタインが強烈すぎる。だが、そこが良かったりもする。

//たぶん今、日本中の個人サイト管理者が、ヤフーニュースの表示ボックス不具合で途方に暮れていると思う。お正月までこのトップページ上方のヤフーヘッドライン枠は普通に表示されていた。でも、1月3日にYQLというニュース表示ツールが提供終了となり、白い枠しか表示されなくなった!パソコンに詳しい人は、自分でプログラムを書き換えて再表示させているらしいけど、ネット原始人の僕には何がなんだかサッパリ…。
業界の知人によると、時代はブログやインスタであり、ヤフーは絶滅しつつある個人サイトに力点を置いておらず、新たな表示ツールを配布することはなかろうとの悲観的予測。あのトップニュース8本のリアルタイム・ヘッドライン、めっちゃ便利だったのにな…。もし読者の方で「これが使えるよ」というニュース表示ツールがあれば、メールで連絡をいただけると助かります。
【追記】問題解決しました!スーパーハッカーみたいな知人が、魔法のようにプログラムを書き換えて、再び利用できるように!むしろ以前よりスッキリと見やすくなってる!感動!
●1月12日…〔今日の良かった〕頭木弘樹氏の新刊『絶望名言』を読了。NHKラジオ深夜便を書籍化したもの。コンセプトに共感した。

「将来に向かって歩くことは、ぼくにはできません。将来に向かってつまずくこと、これはできます。一番うまくできるのは、倒れたままでいることです。」(カフカの手紙から)

失恋したときはハッピーなラブラブソングは傷に塩を塗り込むようなものだし、『耳をすませば』を見た日には卒倒するかも知れない。失恋を癒してくれるのは失恋ソングであり、ゲーテ『若きウェルテルの悩み』のような失恋小説だ。ゲーテは「この小説を若いときに読んで、これは自分のために書かれたのだと感じたことがないような人は不幸だ」と言い切っている。
辛いときは同じ境遇にいる者同士で支え合わなきゃならない。同じ痛みの中にある人の存在を知るだけで、孤独感が薄れるもの。この時空を超えた“助け合い”は、数百年前の画家や作曲家との間に築かれることもあり、それが芸術の醍醐味でもある。
以下、『絶望名言』を読んで個人的にメモったものを一部紹介。

「僕には誰もいません。ここには誰もいないのです、不安のほかには。不安とぼくは互いにしがみついて、夜通し転げ回っているのです。」(カフカの手紙)
「絶え間のない悲しみ、ただもう悲しみの連続。」(ドストエフスキーの手紙)
「75年の生涯で、本当に幸福だったときは、一ヶ月もなかったと言っていい。石を上に押し上げようと、繰り返し永遠に転がしているようなものだった」(ゲーテ)
「私の病気がなかなか良くならなかったとき、父は短気を起こした。優しくいたわってくれるどころか、残酷な言葉をあびせかけた。私にはどうしようもないことなのに、まるで意思の力でどうにでもなるかのように言った。そのことを思うと、どうしても父を許すことができなかった」(ゲーテ)
「不幸は、ひとりではやってこない。群れをなしてやってくる。」(シェイクスピア「ハムレット」)
「“どん底まで落ちた”と言えるうちは、まだ本当にどん底ではない」(シェイクスピア「リア王」)
「あらゆる神の属性中、最も神のために同情するのは神には自殺の出来ないことである。」(芥川龍之介(「侏儒の言葉」)
「駄目な男というものは、幸福を受け取るに当たってさえ、下手くそを極めるものである」(太宰治「貧の意地」)
「弱虫は、幸福をさえおそれるものです。綿で怪我をするんです。」(太宰治「人間失格」)
「いままで、生きて来たのも、これでも、精一ぱいだったのです。」(太宰治「斜陽」)
「生きている事、生きている事。ああ、それは、何というやりきれない息もたえだえの大事業であろうか。」(同上)

−−このように、絶品の絶望名言がチョイスされており、それらが生まれた時代や作家の境遇など背景が解説されている。僕はサイト上部で名言コーナーを設けているけど、あそこに載せるのは背景を語らなくても伝わりやすい希望名言が多い。希望名言では救われなかった人が、絶望名言で悲しみをしのぎ、生を繋いだケースもあるだろう。これからは絶望名言も取り上げていこうかな。

/同書で頭木弘樹氏は絶望音楽も紹介されていた。特に印象に残ったのは、400年も昔のイングランドの作曲家ジョン・ダウランド(1563-1626)が生んだ歌曲「我が涙よ、あふれよ」(4分)。

「♪夜の闇は濃いほどいい。光というのは、絶望した者にとっては、辱(はずかし)めでしかない。私の悲しみは、決して癒されない」。最後の方は「先に地獄に行った人が羨ましい」的なことまで歌っている。押しも押されぬ絶望名曲だ。
●1月11日…〔今日の良かった〕極めつけの『ツィゴイネルワイゼン』発見!スペインの天才ヴァイオリニストであり作曲家のサラサーテ。彼が34歳のときに書きあげた『ツィゴイネルワイゼン』の決定版を探して、いろいろ聴き比べた結果、ドイツのヴァイオリニスト、アンネ=ゾフィー・ムターのものが、名演の中の名演に!定番のハイフェッツもモチロン良いけれど、ムターの明らかに聴き手を“殺しにかかってる”演奏、あの尋常じゃない緊張感は、一度聴いたら病みつきになってしまう。この演奏(8分41秒)と出会えて良かった!
●1月10日…〔今日の良かった〕本年夏、NY郊外にて50年ぶりにロックの祭典『ウッドストック』開催!1969年に開催された伝説的な音楽フェス「ウッドストック・フェスティバル」は、ジミ・ヘンドリックス、ジャニス・ジョプリン、ザ・フー、サンタナなど30を超えるミュージシャンが登場し、3日間で40万人もの音楽ファンが集まった。当時の共同主催者マイケル・ラングは、この夏50周年を記念して「ウッドストック50」(8月16日-18日)を開催すると発表!1000エーカー(東京ドーム約86個分)の敷地に3つのメイン・ステージが用意され、60ものアーティストが出演予定。この半世紀ぶりの超ビッグイベントは、現地に来られない人の為にリアルタイムでネット配信されるという。第1弾アーティストは2月発表され、既に50年前のイベントに出たミュージシャンが内定しているとのこと。

//年末年始は総集編で事実上放送がなかったジョジョ5部アニメ。その間、ジョジョ成分を維持してくれたのはスケート「メダリスト・オン・アイス2018」で東方仗助になりきってグレートな演技を披露してくれた田中刑事選手と、元旦の『獄門島』再放送で金田一耕助の無駄無駄ラッシュを聞かせてくれた長谷川博己さん!
キレキレの動きだった! まさか氷上の仗助が見られるとは
長谷川博己さん怒濤の無駄無駄 血管が切れそうな咆哮
●1月9日…〔今日の良かった〕所ジョージさん(63)が、YouTubeに沖縄への想いを込めた歌を投稿。お正月に沖縄の辺野古を訪れ、自らビデオをまわし「これ、辺野古の基地建設の前なんですけれど、意外に静かでしたね。お正月はみんな休むんだね」。そして沖縄の伝統楽器・三線(さんしん)で、米軍機は日本の沖縄ではなく米国に着陸してという弾き語りをした。

「♪アメリカの飛行機、アメリカに降りてョ/周辺諸国の防衛、沖縄の人の感情、両者正義で何年も揉めて/その間、諸国は攻めるの休んでくれているの か〜な〜」(動画

歌の最後は「か〜な〜」と、ひょうひょうとしつつ内容は踏み込んでる。軍拡派が周辺諸国の軍事脅威論を煽っているけど、基地をめぐって何年も揉めているから日本に攻め込むチャンスなのに、全然攻めて来ないよね、休んでいるのかな?という軍拡派への皮肉になっている。
元旦に辺野古の海で「アメリカの飛行機、アメリカに降りてョ」と歌う、それはなかなか出来るものじゃない。しかも、歌詞の字幕まで付けていることから、軽い気持ちでアップロードしたのではないことが分かる。
所さんはこれまで政治的発言をあまりしてこなかった印象があるから、ほんと感動してしまった。僕はウィキを見るまで、所さんがリベラルな作家・大江健三郎氏と文通をしていることを知らなかった。
所さんは沖縄に大きな別荘を持っていて、北野武監督『アウトレイジ』のクライマックスのロケで使用されている。長期オフの間は沖縄で過ごしているからこそ、現地の視点で状勢を見ることが出来るのだろう。
所さんクラスの大御所が動くことで、勇気を得て自分の思いを発信できるタレントさん、表現者が増えればいいな。

『笑ってコラえて!新春SP』放送まであと1週間。番組の顔は所ジョージさん。墓マイラーにどんな反応をされるのか、すごく緊張すると共に楽しみでもあり。
●1月8日…〔今日の良かった〕マーベル新作映画、3月、4月連続公開!昨年、ヒーローチームが敗北するという、あまりに衝撃的な結末を迎えた『アベンジャーズ:インフィニティ・ウォー』。究極の新戦力になってくれるであろう『キャプテン・マーベル』(予告編)のファースト・エピソードは3月15日に公開。そしてインフィニティ・ウォーの正統続編『アベンジャーズ:エンドゲーム』(予告編)は4月26日公開!これまで大作の公開は半年ほど間隔があいていたので、2カ月連続はめっさ嬉しい。冬に『アントマン&ワスプ』をやったばかりなのを考えると、えらいハイペースで撮影してる印象。
一方、マーベルのライバル、DCヒーローズ(バットマン、スーパーマン、ワンダーウーマン系)では『アクアマン』が2月8日に公開。スーパーマンなどの空中戦に比べ、アクアマンの水中戦は地味な感じがして、あまり観に行く気がしなかった。ところが、アメリカ本国の評価がかなり高いことを知り、断然楽しみに。予告編の冒頭、迫力ある海の描写に「うおおお!」となったけど、「これは予備知識なしで観た方がいいかも」と慌てて再生をストップ。未知の映像体験をうたっているから、劇場まで興奮はとっておこう。
『アクアマン』を入れると2月から3カ月ぶっ続けのヒーロー映画祭り。夏休みでもないのに!下半期にはスター・ウォーズの完結編が控えており熱い年になりそうだ。

//ツイッターで流れてきた『風の谷のナウシカ』主要キャラの年齢設定、ナウシカ16歳、クシャナ25歳、クロトワ27歳、ここまでわかる。「ユパ様45歳」にビックリ。まさか、あのユパ様が僕より年下だったとは!ガンダムのランバ・ラル35歳以来の衝撃。
●1月7日…〔今日の良かった〕出版社の宝島社が今朝の朝日新聞と読売新聞に出したカラー2面を使った全面広告が凄すぎる。

読売「敵は、嘘」
※画像はローマの“真実の口”。
嘘つきが手を入れると
手を咬みきられるという
朝日「嘘つきは、戦争の始まり」
※湾岸戦争で参戦を促す宣伝に利用された
油まみれの鳥。米広告会社の
やらせ写真という説が有力

読売の文面
『敵は、嘘。』
いろんな人がいろいろな嘘をついている。
子供の頃から「嘘をつくな」と言われてきたのに嘘をついている。
陰謀も隠蔽も改ざんも粉飾も、つまりは嘘
世界中にこれほど嘘が蔓延した時代があっただろうか。
いい年した大人が嘘をつき、謝罪して、居直って恥ずかしくないのか
この負の連鎖はきっと私たちをとんでもない場所へ連れてゆく。
嘘に慣れるな、嘘を止めろ、今年、嘘をやっつけろ

朝日の文面
『嘘つきは、戦争の始まり。』
「イラクが油田の油を海に流した」
その証拠とされ、湾岸戦争本格化のきっかけとなった一枚の写真。しかしその真偽はいまだ定かではない。
ポーランド侵攻もトンキン湾事件も、嘘から始まったと言われている。
陰謀も隠蔽も暗殺も、つまりは、嘘
そして今、多くの指導者たちが平然と嘘をついている。
この負の連鎖はきっと私たちをとんでもない場所へ連れてゆく
今、人類が戦うべき相手は、原発よりウィルスより温暖化より、嘘である。
嘘に慣れるな、嘘を止めろ、今年、嘘をやっつけろ

/双方とも嘘を批判しているが、リベラル寄りの朝日には「戦争の始まり」と反戦色を出してるあたり、保守系の読売と少し内容を変えてきている。
勇気ある素晴らしい広告である一方、広告主がヘイトに加担する宝島社であることに戸惑いを覚えたのも事実。宝島社が出している別冊宝島は、かつては反主流サブカル、カウンターカルチャー的なものが多かった。だが、残念ながら今世紀に入って歴史修正主義・差別扇動のヘイト本を出す、いわゆるヘイト出版社に転落。 2017年の別冊宝島は『韓国の不都合な真実』『韓国大狂乱(慰安婦ヘイト)』『日中歴史戦(南京否定)』などがズラリ。
今回の広告でも「ポーランド侵攻(※第二次世界大戦)もトンキン湾事件(※ベトナム戦争)も、嘘から始まったと言われている」の部分に、それを言うなら日本が自作自演テロをやって戦争の引き金を引いた「満州事変」(柳条湖事件)を入れるべきだし、「人類が戦うべき相手は、原発よりウィルスより温暖化より、嘘である」の部分に、なぜかシレッと「原発」が入っているのも引っ掛かる。猛毒の使用済み核燃料を10万年も保管する場所が、地震の多い日本列島には存在しないのに、小さな問題であるかのように扱うのは腑に落ちない。
−−とはいえ、今回の広告の「隠ぺいも改ざんも粉飾も、つまりは嘘」「居直って恥ずかしくないのか」「今年、嘘をやっつけろ」という直球の言葉は、覚悟がなければ書けないもの。今日の広告をヘイト路線との訣別宣言と信じて、同社の今後に期待したい。
●1月6日…〔今日の良かった〕司法が日常生活における個人間のヘイトスピーチで被害者保護を鮮明に。大阪のローカルニュースだからあまり報道されてないと思い、ここでピックアップ。
大阪地裁で先日重要な判決が出た。大阪市内のスイミングクラブで、日本国籍を取得した台湾出身の63歳の女性が、連れてきていた高校生のおいが60代の男性利用客の貸しタオルを間違って使ったことをめぐり、怒った男性から「ここは日本ですよ。お国に帰られたらどうですか」と言われた。“国に帰れ”は世界各地で問題になっている差別発言だ。大阪地裁は男性に慰謝料15万円の支払いを命じる判決を言い渡した。
慰謝料は高いとは言えないが、それ以上に重要なのは、日常生活における個人間の「ヘイトスピーチ」で賠償が認められる貴重な判例になったこと。街宣活動での発言を人種差別と認めたり、外国人であることを理由に入居や入店を断った言動を差別と認定した判例はあるが、日常生活のトラブルにおける発言を差別と認定したのは珍しい。
藪田貴史裁判官は、原告が発音などから海外出身だとうかがわれる状況だったと指摘し、「排外的で不当な差別的発言」と認定した。男性側は「マナー違反を注意した。適切ではない部分があったが、賠償しなければならないほどの違法性はない」と反論していたが、判決は「注意する趣旨であっても通常用いてはならない表現だ」と退けた。
日本のネット界では、残念ながら、在日の人だけでなく、帰化した人にまで、凄まじいヘイト言葉が叩きつけられることが少なくない。この判決は同じような暴言に晒されている人に勇気を与えるものだし、日本人同士でも「その言葉は裁判でアウトだよ」と指摘することができる。判決が広く認知されることを願う。外国人を差別するのではなく、みんなで幸せに。

//今年の大河ドラマ『いだてん』には戦国武将も幕末の偉人も登場しないため、“今年の大河はパスして来年の明智光秀まで休憩するか〜”と思ってた。だが、今夜の第一話を見て、来週以降も見続けることに決定!1964年の東京オリンピックをテーマにした物語というから、てっきり戦後の日本が舞台のドラマかと思った。ところが、蓋を開けてみると、過去と現代の二つの世界が交互に描かれ、過去パートには柔道創始者かつアジア人初のIOC委員・嘉納治五郎(役所広司)が出ており、1908年(明治41年)から始まってるじゃないか!1908年スタートということは、大河ドラマの中で第一次世界大戦、日中戦争、太平洋戦争も描かれるということ。
第一話で嘉納治五郎は「スポーツで国際的に交わることは、世界平和の実現に役立つでしょう!」と言っている。現実は6年後に第一次世界大戦、1936年のベルリン五輪はヒトラー観覧の中で日本人選手が出場、1940年に予定されていた東京オリンピックは、日中戦争の泥沼化で開催を返上し幻に終わっている。大正デモクラシーの平和な時代から、なぜ戦争の時代に突入してしまったのか、その過程が大河ドラマでどう描かれるのか、クドカンの脚本に興味津々。これは見逃せない。
●1月5日…〔今日の良かった〕りそな銀行が「核製造企業への融資禁止」を宣言!これは国内大手銀行初の快挙。被爆国の企業として筋が通っているし、りそなに対する企業イメージが爆上げっす。
核兵器製造を使途とする融資を禁止する例はあるけれど、それ以外の目的であっても該当企業には一切の融資を行わないと宣言したもので、こうした取り組みは国内の大手銀行ではもちろん初めて。一昨年、国連で「核兵器禁止条約」が採択され、欧州を中心に投融資を禁止する銀行や機関投資家が広がっている。国内でも同様の動きが出てくるか注目されていたところ、りそなが真っ先に行動を起こした。ぜひ他の銀行も後に続き、この流れを加速してほしい。

//経団連・中西宏明会長の年頭会見にも驚いた。原発メーカーである日立製作所の会長も務めている人物の発言としては前代未聞だ。
中西氏「お客さまが利益を上げられない商売でベンダー(提供企業)が利益を上げるのは難しい。どうするか真剣に一般公開の討論をするべきだと思う。全員が反対するものをエネルギー業者やベンダーが無理やりつくるということは、民主国家ではない
今後の原発政策について踏み込んだ発言であり、脱原発とも取れる内容。これまで原子力村は、石にかじりついても利権を手放さないという態度を示してきた。だが、日立が英国で進めてきた原発建設計画も、三菱重工が進めてきたトルコの原発建設も暗礁に乗り上げ、安倍氏が売り込んでいた原発輸出はことごとく頓挫した。世界的に見ても、もはや原発ビジネスは採算が取れない。
東電は国内最大級の洋上風力発電の建設を計画。1兆円規模の事業費を投じ、千葉県銚子沖などに風車を約200基設置し、原発1基分の年間電力を賄う計画だ。
既得の原発利権にしがみついてきた経団連が、「無理やり作るのは民主国家ではない」と会見する時代になった。
●1月4日…〔今日の良かった〕元ビートルズのポール・マッカートニーとクイーンのギタリスト、ブライアン・メイが沖縄辺野古への新基地建設に向けた工事の停止を求める署名活動に共感を表明!海外で始まった米政府への「埋め立て停止請願」について、ポールはホワイトハウスの辺野古署名サイトへのリンクに「いいね!」を押し、ブライアンはツイッターに「緊急!緊急!この請願書にサインをして、アメリカ軍の基地拡張によって脅かされている美しいサンゴ礁とかけがえのない生態系を救おう」。署名は18万筆を突破。署名サイトの期限が日本時間の8日午後2時までということもあり、続けて「請願書へ署名する最後のチャンスだ」と投稿。

/ブライアン・メイといえば、サイト読者の方から年末にNHKが行った独占インタビューの存在を教えていただきました。音楽の話題だけでなく、訪日の印象、国際情勢に対する懸念など、充実したインタビューであり、一部を紹介します。

「(1975年の初来日の思い出)月に行くような感じだったよ。日本の写真は見たことがあったけど、日本人に会ったことがあるかどうかすらわからない、とにかくイメージができないくらいだったんだ。
何が起きるか予想もしていなかった。別の惑星みたいなものだったんだ。考えてみると、あの頃は国によって全然違ったよね。インターネットと国際化で、「異なる」すばらしさをいくぶんか失ってしまったと思う。恥ずべきことだと思うよ。
日本に行ったとき、全てが違った。全ての色が異なり、全ての通りが異なり、街には英語表記なんてなく、ほとんどの人は英語なんて話せなかった。だから東京を歩いていて道に迷うということは、本当の迷子になるということだったんだ。あの頃は街に出るとき、ホテルの住所を書いた紙切れを持って行かなければならなかったよね。
文化の違いにも驚いたよ。空港に着いたら何千人もの女の子が叫んでいたんだ。「ビートルズでもないのに、なんでこうなるの?何が起きてるんだ?」って思ったよ。そして初めて武道館で演奏したとき、突然巻き起こったような興奮とエネルギーのうねりにやられてしまって、僕らは全く新しい舞台に立たされた感じだった。その環境で僕らはこれまでとは違う人間になった。
ファンたちは美しい木や紙でできた玩具や人形、日本刀をくれて、僕らはあっという間にこの素晴らしい異文化に魅せられてしまった。そしてみんな優しかったよ。イギリス人はよそよそしくて冷たい傾向があるんだけど、日本の人たちは初対面でもあたたかく優しく、僕らに会って喜んでくれた。忘れることのない、信じられないような体験だった。」
親の世代は日本と戦争で敵対関係にあったわけだよね。初めて日本に行ったとき、父親は「日本に行ったんだって?大丈夫なのか?」って言ってたのを覚えてるよ。父親にとっては人生の大半がそういう争いに関わっていたわけで、複雑な気分だったに違いない。それで僕が日本でもらったプレゼントを見せたり、観客の声を聴かせたりしたら、彼の意見が変わってきて、日本がどれだけすばらしかったのかを理解してくれたんだ。
僕らの世代にとって、それは日本との新しい関係を作っていくことで、大切なことだった。僕は国際主義者で、今世界で起きていること−ナショナリズムが再び生まれていることや、その影響を心底嫌悪している。イギリスがヨーロッパから出て行くという考えも大嫌いだ。後戻りだと思っている。
僕は壁ではなく橋を作りたい。だからアメリカで起きていることも嫌いだ。だから僕はこれが世界にとって一過性のものに過ぎないことを願っているし、これを乗り切れば、世界を一つの惑星にする作業に戻ることができると思っているよ。世界のあちこちのコミュニティーが人類として一緒になる。それがすべてさ。」(全文

/辺野古基地といえば、落語家・立川談四楼(だんしろう)さんが、“ナイツ”の漫才をツイートで讃えていた。
→『ナイツがソフトにキツいシャレをかました。「沖縄の神社でおみくじを引くと凶しか出ないってね」「そんなことはないでしょう」「いや凶しか出ないの」「どうしてよ」「これ以上吉(基地)は要らないってね」偉いなあ、直球より変化球の効果を狙ったんだ。こういう形で安倍政権をシャレのめすといいよね。』
この、ブチのめすのではなく“シャレのめす”という言葉がツボった。弱者の側に立つナイツに敬意。
●1月3日…〔今日の良かった〕年末にNHKで再放送された『世紀を刻む歌2』でクイーンの名歌「ボヘミアン・ラプソディー」の歌詞を徹底検証していて見応えがあった!
1999年、イギリスで「過去1000年のベストソング(ミュージック・オブ・ザ・ミレニアム)」が60万人の投票で行われ、第2位がジョン・レノンの「イマジン」、第1位が「ボヘミアン・ラプソディ」に決定した。つい先月には、伝記映画のヒットをうけ「ボヘミアン・ラプソディ」のミュージック・ビデオ再生回数が「16億回」を超え、20世紀の楽曲で最も再生された楽曲に輝いた。
この曲を書いたフレディ・マーキュリーの本名はファルーク・バルサラ。1946年9月5日、人類発祥の地、アフリカ・タンザニア連合共和国のザンジバル(旧英国領)にてペルシャ系ゾロアスター(ツァラトゥストラ)教徒の家に生まれた。8歳でインド・ボンベイの寄宿学校に入学、学校の仲間とバンドを結成しオリジナル曲などを作り始める。16歳で故郷に戻るが、1963年に独立運動が起き、翌年一家は混乱を避けてロンドンに移住、フレディは17歳でイギリスの土を踏んだ。その後、美術学校に進み、絵画や服飾デザインで才能を発揮する。
1970年(24歳)、クイーンの前身バンド「スマイル」のヴォーカルでフレディの友人だったティム・スタッフェルがバンドを脱退。その後釜でフレディがスマイルに加入し、フレディの提案でバンド名が「クイーン」になった。フレディ自身も名字をバルサラからマーキュリーに改名。

「ボヘミアン・ラプソディ」がヒットした1975年は英国が最も暗い時代だった。60年代から続いたインフレと失業率上昇は「イギリス病」と呼ばれ、電力会社のストで週3日は停電、オイルショックで灯油は配給制となった。さらに爆弾テロや暴動も起き、イギリス全体が不況で出口のない暗闇に包まれていた。音楽シーンも小さなバンドがあるだけで殆ど死んでいた。音楽は明るいだけのつまらないものが多かった。
演出家デビッド・クリリィ「当時の音楽が退屈でつまらなかったのは、イギリス社会がそうだったからです。そうした社会への暴力的な反発から、暴動・デモ・ストライキが起こりました。だが、一番の問題は、人々の無気力と無関心。様々な価値が崩壊しました。“ボヘミアン・ラプソディ”はそうした状況を打ち破る革命的音楽だったのです」。※自分の国を「大英帝国」と威張っていたのに経済が破綻し、暗い時代だから明るい曲がいいとみんな思い、単純で退屈な曲が多かった。
この状況は、経済で世界を征服したがバブルは崩壊、終身雇用など信じていた価値観は崩壊し、再生の糸口が掴めない現代日本とそっくり。“明るいだけのつまらないものが多い”という音楽シーンも重なる。

クイーンの曲の大半は、曲名がそのまま歌詞に出てくるが、「ボヘミアン・ラプソディ」は6分もあるのに「ボヘミアン」が一度も登場しない。チェコ西部のボヘミア地方には古くから流浪の民族ロマ(ジプシー)が暮らし、習慣や規則に囚われない自由な生き方をしていた。それに憧れる芸術家たちは自らを“ボヘミアン”と名乗った。ボヘミアンは社会の主流から外れた人々。
フレディはアフリカで生まれインドで育ちイギリスに渡った男。当時はゲイに対する差別が強く家族にさえカミングアウトできず、宗教も英国では少数派のゾロアスター教。歌の中で「ママ、たった今人を殺してしまった」「ママ、泣かせるつもりはなかった」と懺悔しているのは、親からもらった名前を改名し、ゲイであることを受け入れるなど、本当の自分になるために過去の自分を殺したという説に僕は一票を投じたい。歌には「みんなと別れて真実と向き合うしかない」という決意表明も出てくる。

ティム・スタッフェルは「ボヘミアン・ラプソディ」をフレディの個人的な問題を歌ったものと解釈。曲中には“僕に石をぶつけて目にツバを吐くつもりだな”とある。「彼はこの歌で母親に告白したのかもしれない。自分がゲイであることへの宗教的偏見を」「“僕はこういう人間だ、気に入らなきゃ勝手にしろ”、これ以上自分を偽ることはしないと言ったのだと思う」。
デーモン小暮「移民ゆえのイジメがあったはず。(ボヘミアン・ラプソディからは)自分はみんなから仲間外れにされているけど、“今に見てろよ”“何とかなってみせるぜ”という強いメッセージを感じる」。
ペルシャ文化研究家ファルーク・ヴァジブダー「ゾロアスター教は選択の自由を認めた宗教。ゾロアスターは自分の教えの中から良いものを選べといっている(そしてフレディは改名)」「(歌に登場する)“スカラムーシュ”はイタリア喜劇の登場人物で人間の“葛藤”を表し、“ファンダンゴ”はスペインの踊りで抑圧された感情の“解放”です」「“ボヘミアン”は慣習にとらわれない人々、“ラプソディ”は感情的で自由な音楽の形式。2つをあわせることでフレディ自身の自伝的作品となった」

『ボヘミアン・ラプソディ』(6分)
(アカペラ・パート)これは現実か/それとも妄想か/地滑りにのまれたように現実から逃げられない/目を開けて空を見上げたらわかる/僕は貧しい少年、でも同情なんかいらない/いつだって気ままなもの、良いこともあれば悪いこともある/風がどちらに吹こうとも僕は気にしないのさ
(バラード・パート)ママ、たった今人を殺してしまった/銃を頭に突きつけ引き金を引くと彼は死んだ/ママ、人生は始まったばかりなのに、すべて駄目にして捨ててしまった/ママ、泣かせるつもりはなかった/明日僕が戻らなくても、どうかそのまま生きて、何ごともなかったように/もう遅い、その時が来た/背骨を震えが走り、ずっと体が痛い/さようならみんな、僕はもう行かなきゃ/みんなと別れて真実と向き合うしかない/ママ、死にたくないよ/いっそ生まれてこなきゃよかった
(オペラ・パート)1人の男の小さなシルエットが見える/スカラムーシュ、ファンタンゴを踊ってくれ/雷鳴と稲妻が僕を怖がらせる/ガリレオ、フィガロ、偉大だ!/僕は貧しい少年、誰も僕を愛さない/そう彼は貧しい少年、貧しい家庭の生まれ/彼をおぞましい運命から救ってやれ/気分次第で僕を助けてくれますか/神(ビスミラ=イスラム神)に誓ってお前は助けない−−助けてやれ!/お前は助けない!−−助けて!/ダメだ、ダメだ、ダメだ、ダメだ、ダメだ、ダメだ、ダメだ/ママ、お願い助けて/魔王ベルゼブブは悪魔を僕に用意している、僕に、僕に!
(ハードロック・パート開始)僕に石をぶつけて目にツバを吐くつもりだな/愛する振りをして野垂れ死にさせるつもりだな/オーベイビー、そんなことはできないぜ/出て行け、今すぐここから出て行け
(バラード・パート再開)でも、どうでもいい/みんな知っている/たいしたことではない/たいしたことではないんだ、僕にとっては/風がどちらに吹こうとも

ここには、シェイクスピアの「ハムレット」的な内面の衝突があり、同時に“風がどちらに吹こうとも”に「マクベス」的な達観もある。1985年5月に6度目の訪日ライブ。7月13日にライブエイドで伝説のステージ・パフォーマンスを行うが、1986年を最後にコンサートをしなくなった。翌年、エイズ感染を自覚したからだ(映画ではエイズ→ライブエイドの時系列になっている)。1991年11月23日、エイズと闘病していることを世界に発表し、翌24日午後7時に他界した。享年45歳。

「ボヘミアン・ラプソディ」が書かれた1975年当時、曲の長さは「3分以内」が基本だった。だがこの曲は倍の約6分という大曲。180ものトラックを駆使した多重録音の力作。リリース時、当たるわけないと思われていたが、結果は空前の大ヒットとなり、全英レコード史上初、ビートルズさえ成し得なかった9週連続第1位の記録を樹立した。様々な意味でマイノリティの流浪の民ボヘミアンであった彼は、ボヘミアンという逆境を力に変えて、音楽や文学のジャンルや形式を超えた革命的な歌を作った。
社会の主流から外れた人が、これ以上自分を偽ることはしないと誓う、そんな力強いメッセージを含んでいるからこそ、イギリス国民が千年のベストソングに選んだのだろう。

(おまけ)映画『ウェインズ・ワールド』で主人公たちがカーステレオでボヘミアン・ラプソディを聴くシーンがほんと楽しい!
●1月2日…〔今日の良かった〕オバマ元大統領が発表した2018年のお気に入り映画リストに、是枝監督のカンヌ映画祭パルムドール受賞作『万引き家族』の名前が!オバマ氏はお薦めの映画15本、音楽23曲、書籍29冊を紹介。その文章が良い。「自分の大好きな恒例行事として、今年のお気に入りリストを紹介します。リストを作っていると、自分を深く考えさせたり、インスパイアしたり、あるいは単にすごく大好きになったりした書籍、映画、音楽を通して、今年はどんな年だったのかを一呼吸おいてじっくり考えることができます。皆さんがすでにお馴染みの人もいるだろうし、中には全然聞いたこともない人もいるかもしれません。さて、これが私の2018年のベスト作品リストです。ぜひ、楽しんで読んだり、観たり、聞いたりしてほしい」。知的好奇心を刺激する、オフ会のような語り口。リンク先(rockinon)によるとラインナップは以下の通り。ライターさんが「さすがの趣味の良さ+レベルの高さ」と感嘆。

『万引き家族』(是枝裕和監督)
『アナイアレイションー全滅領域ー』(アレックス・ガーランド監督)
『ブラックパンサー』(ライアン・クーグラー監督)
『ブラック・クランズマン』(スパイク・リー監督)
『バーニング 劇場版』(イ・チャンドン監督)
『スターリンの葬送狂騒曲』(アーマンド・イヌアッチ監督)
『エイス・グレード』(ボー・バーナム監督)
『ビール・ストリートの恋人たち』(バリー・ジェンキンス監督)
『リーヴ・ノー・トレース』(デブラ・グラニック監督)
『ROMA/ローマ』(アルフォンソ・キュアロン監督)
『サポート・ザ・ガールズ』(アンドリュー・ブジャルスキー監督)
『Blindspotting』(Carlos Lopez Estrada監督)
『Minding the Gap』(Bing Liu監督)
『The Rider』(Chloe Zhao監督)
『Won't You Be My Neighbors?』(Morgan Neville監督)

今後の鑑賞作品の参考になるし、『万引き家族』を選んだオバマ氏が、他にどんな作品に胸を打たれたのか純粋に知りたい。マーベルのSFアクション『ブラックパンサー』が入っているのもナイス(最後の国連演説シーンが良い)。上記のリンク先には音楽と書籍のリストも掲載されています。
※こういうことがあると、是枝監督のカンヌ栄冠を徹底して無視して、一言も祝辞を贈らなかった安倍氏との差が際立つ。是枝監督が反安倍であっても、他国の大統領まで感動させる作品を生んだ是枝氏の映画人としての才能を讃える、そんな器の大きさを見せてほしい。国のトップなんだから。
今年のアカデミー賞は今月22日にノミネートが発表され、2月25日(日本時間)に授賞式が開催される。『万引き家族』が『おくりびと』に続くアカデミー外国語映画賞の受賞作品になるといいな。
●1月1日…新年明けましておめでとうございます!今年、当サイトは5月で20周年になります。そこで、数年前に一度チャレンジして数週間で頓挫した「今日の良かったニュース」を日記の冒頭に再び書くことにします!日記の出だしが良いニュースであれば、後に振り返って流し読みしたときに、「何だかんだいっても、世界は良い方向に向かってるじゃないか」と楽観的になれると思うんです。

〔今日の良かった〕
“世界は良い方向に”などと大風呂敷を広げておいて、いきなり私事のニュースになって恥ずかしいのですが、日本テレビの番組ホームページに告知が出たので「良かった」と言わせて下さい!1月16日(水)19時56分『1億人の大質問!?笑ってコラえて!』に“墓マイラー・カジポン”として出演します!新年1回目の2時間特番で、ゲストは菅田将暉さん、坂口健太郎さん、劇団ひとりさん。既に収録は終わっていますが、果たして“墓マイラー”がゴールデンタイムのお茶の間に受け入れられるのか、日テレの上層部で「バラエティー番組だぞ?新年早々、お墓巡礼は地味すぎるだろ。ボツ!」と裁定が下り、お蔵入りになりやしないかと正式な告知が出るまでドキハラしていました。下記の番組予告が出たので、たぶんもう放送中止の心配はないと思います。


愛あるおせっかい・お墓参りの真骨頂」という最後の一文が個人的にツボり、ディレクターさんは本質を捉えているなぁと。番組では、若い俳優さんが僕の半生を再現ドラマで演じるコーナーがあります。普通に生きていれば両親が芸術家や作家でない限り、なかなか文芸ジャンキーにはならんと思うのです。僕がどうしてこうなってしまったのか、いくつか「事件」があり、それらが赤裸々に再現VTRで描かれる模様…。僕はもう51歳ですし、失うものもたいしてないので、「カジポンはアホやなぁ」と大いに笑って頂ければ幸いです。
※番組前半は菅田将暉さんが「ダーツの旅」に初挑戦。アンタッチャブル山崎弘也さんのコーナー他があり、僕は番組後半で日本やフランスのお墓を案内します。

年に一度サイトのオフ会をしていますが、遠方の方はなかなか大阪まで来られないと思います。そういう方に、この番組を通して心の握手ができたらいいなと、「こんな人が文ジャンを作っているのか」と親しみを感じて頂けたら、そんなふうに願っています。

//それでは、本年もよろしくお願いします!!





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