カジポン・タイムズNO.76哀愁編

●カジポン版・平成貧窮問答歌


世界巡礼烈風伝の執筆は諸刃の剣だ。
文芸研究家として身を立てることを誓い、地方のタウン誌などにコラムを書いてほそぼそと生きている僕だが、烈風伝は片手間に書けるシロモノではなく、先週のピアソラ編(烈風伝63〜67号)執筆中は他の原稿依頼を全て断り、全身全霊で打ち込んでいた。
もちろん、その間の収入はゼロだ。

ピアソラ編の前はHPの名言集コーナーの制作に2週間もかかりっきりだったので、この間も無収入。だが荒廃した現代を生きる文芸研究家として、あの作業は絶対に今、このタイミングでこそ必要だったと確信している。
そう、確信は、している。
だけど、マジな話、生活費を考えるともう文芸研究をしている場合じゃないんだよね…。カスミを食べるにも体力がいるし。

そこへもってきて家賃の値上げ!
もとから今月の財布は非常事態宣言が出てただけに、これはドラクエでいう即死魔法ザキに等しかった。
そして悩んだあげく、ついに単車(ホンダ“レブル”250cc)を手放すことに。
『貴方のバイクを高く買います』
そんな広告を見て業者に電話を入れた。
僕のレブルは映画『イージー・ライダー』に出てくるようなカマキリ型ハンドルのアメリカン・タイプ。9年前に発売された限定版で、黒と金のイカしたカラーリング。何より、レブル(反抗する)、という名前がいいじゃないか。

様々な思い出のつまったバイクで、かつて、雨の夜にスリップして踏み切りに突っ込み、互いに死線をくぐったこともあったし、黒塗りのベンツにミラーをひっかけて街中でカーチェイスになったこともあった。
また、農家の手伝いをしてた頃は、これで毎朝6年間も田畑にかよった。
…しかし、別れは辛いがもはや背に腹は変えられぬ。あと1ヶ月でバイクの保険も切れるし、それを更新する余裕もない。車両税もある。
これで4、5万ほど手に入れ家賃を払ったら、最近、米をケチる為におかゆばかり食べてるので(水で量が増えるし…)、久々にお肉でも買おうと思った。

と・こ・ろ・が!
やってきた買取業者のマッチョな浅黒い兄さん(30代前半?)が「ギョエ〜ッ」と絶句。
彼としては、良い中古が手に入ると喜び勇んで来たんだけど、

●アメリカン・タイプのバイクは走行距離1万3千キロが買い替えの目安になるところ、なんと3万3千キロまで酷使している。
●タイヤのホイールとチェーンがサビだらけでボロボロ。
●前輪のブレーキ・オイルがグジュグジュ漏れている。
●後方のウインカーが割れている。
●後輪がパンクしてぺっちゃんこ。
●おまけにバッテリーまであがってる。

で、のけぞったわけ。
ウ〜ム、確かにこの1年間、墓巡礼で日本を出たり入ったりしてたので全然乗ってはいなかったけど、まるで“タイムふろしき”に包まれた状態になっていようとは…。

バイクのカバーを取った第一印象は…これはコアなロボット・アニメファンしか解らんたとえで申し訳ないが…ダグラムが第1話と最終回で見せた朽ち果てた姿(錆びた鉄塊)を僕に彷彿させた。

固まっていた兄さんに恐る恐る聞いてみた。
「あの…この単車はいくらになりますか?」
「い、い、いくらと言われても…」
「ぶっちゃけた話、どうですか?」
「本当にぶっちゃけた話していいですか?」
「はい」
「ぶっちゃけた話、持って帰りは、します」
(しばし両者沈黙)
「それって…」
「スンマセン、そういうことです」
「ヌヒョ〜ッ!」
彼は、先に述べた部分以外にも消耗パーツをたくさん交換する必要があるだろうし、要するに、修理に出したら軽く8万以上かかるというのだ。陸運局に運んで廃車手続きをする作業もある。

繰り返すが、僕にはバイクを維持する余裕がない。
結局、“シャレでいいからせめて1円で買ってくれ”と頼み込んだ。
「え、い、1円ですか!?」
この提案が彼にはたいそう気に入ったらしく、
「実は私が経営者なんで裁量権も自分にあるんです…よ〜し、1円ではあまりにこのバイクが可哀相、私も男なので、ドドーンとその10倍出しましょう!」
「やったーっ!10倍だ、10倍!わーい、わーい!」
…で、僕はガッポリと10円を手に入れた。

37万で購入したバイクが10円。もはや何も言うまい。
バイクとの別れが惜しいのですぐに家に帰らず、業者の軽トラへの積み込みを志願して手伝っていると、彼は“面白いお客さんだ”とか言いながら、
「助かりました。お礼に何か車の中にあるもんをひとつ持って帰って下さい」
というので、ミニ懐中電灯をもらった。

別れ際、積み込まれたレブルの哀愁に満ちた写真を撮った。ウルウル。行き先はフィリピンらしいので、いつかマニラで再会出来るかも知れない。
「この仕事を5年してますが、こんな楽しい商談は初めてでした」
彼は白い歯をキラリと見せ、風のように走り去った。

(完)

●おまけ〜ねじりティッシュ事件(NO.64号より)


僕は花粉ハリケーンのせいで、3月中旬から連日鼻水を滝の如く出しまくっており、ひどい日は脱水症状寸前まで鼻をかみ続けることもしばしば。そういう時は、資源保護の名のもとにティッシュを鼻の両穴へ「ねじりティッシュ」にしてシャレ込むわけだが、今日、恐れていた事件が起きた。

現在僕は巡礼烈風伝を本にすべく、ここ残月庵にろう城して原稿を書きまくっているが、3日に1度、やむにやまれず外出する。
一日二食のサバイバル極貧生活の日々とはいえ、体を壊しては元も子もない。その辺はちゃんと意識しているので、一食をチキンラーメンや100円レトルトカレーにして、もう一食は健康の為に、毎日必ずケロッグを食べているのだ!って全然威張れることじゃないんだけど。

ケロッグ(いや正確にいえばそれより安いカルビーのブラウン・シュガーを食べてるのだが)となると、必ず必要なのがMILK。牛乳のないケロッグなど、きな粉の付いてないわらび餅も同然。存在価値ほとんどゼロだ。そういう抜き差しならぬ事情で、3日に1度はスーパーに牛乳を確保する為に残月庵の鉄扉を開ける。

聡明なる読者諸君はもうこの話のオチが分かっているだろう。
僕がスーパーに入ると、っていうより入る前からミョ〜にオバチャンらがジロジロ顔を見るな〜と思ってたら、レジで馴染みのパートさんが
「鼻血ですか?」
とクスクス聞いてくるではないか。
「ぬおっ!」
お約束、ねじりティッシュが咲いたままになっていたのであった。

(おあとがよろしいようで)


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