〔 この寺へ行け!京都・奈良 お薦め古寺15選 〕


【京都編】 ※奈良編


1.六波羅蜜寺と永観堂

六波羅蜜寺の寺宝と言えば何と言っても『空也上人立像』(重文)!空也は実在した平安期の僧で踊念仏の開祖。この立像を初めて見た時、度肝を抜かれた。何と、口から6体の小さな阿弥陀仏がマンガの吹き出しの様に出ているではないか!?これは「南無阿弥陀仏」と発した6つの言葉が、一文字ずつ仏になっている様子だという。首から鐘を掛け、右手にはそれを叩くための撞木(しゅもく)を持ち、左手には心の友として鳴声を愛した鹿の角(猟師に撃たれてしまった)を冠した杖を持っている。いやはや、制作者の仏師康勝(運慶の4男)の発想力に脱帽だ。同寺には運慶の肖像彫像があり墓もあったらしいが、応仁の乱の戦災で行方不明になったという。珍しいお姿の仏像といえば、紅葉で有名な永観堂禅林寺の御本尊“みかえり阿弥陀”も忘れてはいけない。正式には『阿弥陀如来像』なんだけど、世界唯一(?)のお顔が横を向いていらっしゃる阿弥陀様だ。後に続く者が遅れていないか心配して、振り向きつつ進んで下さっているとっても優しい阿弥陀様のお姿なんだ。

  六波羅蜜寺の空也上人


2.三十三間堂(蓮華王院)

圧巻!国内最強の仏像空間といえば、この三十三間堂だろう。1001体の千手観音は、単体でもタメ息が出るほど美しいのに、それが10段50列、118mにわたって、びっしりと埋め尽くすように並んでいるんだ!しかも、素晴らしい仏像は千手観音だけじゃない。観音たちの前には金剛力士、帝釈天、阿修羅など28部衆立像と風神雷神像がズラリと勢揃いしている!興奮で鼻血が出そうになるほど国宝のオンパレード。お堂の中央には、台座を含めて高さ5mを超える巨大な御本尊・千手観音座像が安置されている。これは当時82歳の湛慶(運慶の長男)が制作したもの。そして、左右に500体ずつある膨大な観音は、日本を代表する仏師三派(慶派、円派、院派)の競作によるものだ。仏師達は「絶対に他派には負けん」と発奮し、見事な観音を彫り上げた。お堂の創建は1164年。後白河法皇が平清盛に造営させ、観音菩薩が33の姿に変化して人々を救済するという教えから、内陣(仏像エリア)の柱間を33間とした。千手観音の手は40本。1本の手が25本分の役割を果たすとされ、40の25倍で「千手」としている。千体すべてのお顔が異なるので、「この方こそ自分の菩薩」という究極の一体を探されてみては。

  千体おられます!


3.千本釈迦堂(大報恩寺)

兼好法師の徒然草にも登場するこの古寺は、鎌倉初期(1227年)に創建されてから780年もの間、応仁の乱の兵火も、天明の大火も、奇跡的にくぐり抜けた京都最古の寺だ。当然ながら本堂は国宝に指定されている。そして特筆したいのは境内の霊宝館!聖観音、千手観音、十一面観音、如意輪観音、准胝観音、馬頭観音という「六観音」すべてが揃っている!6つの形態の観音が全部並んでいるのは日本でココだけ。しかも作者は定慶で、優美なことこの上なし。身体を覆う衣はいかにもフンワリと柔らかそうで、硬い木で出来ているとは思えない。特に准胝観音は前部のリボン結びがオシャレ。一体だけ坐している如意輪観音は、6本ある腕が違和感なく調和しており、リラックスした様子は見てるだけで落ち着く。館内には晩年の快慶が彫り上げた釈迦十大弟子尊像もあり、こちらも本人がいるかのような迫真の描写だ。本堂は応仁の乱で西軍の拠点だった為に、内部の柱には当時の刀や槍の傷跡が多数残っている。境内には本堂建立を指揮した大工棟梁の妻・阿亀(おかめ)の墓があり、彼女を慕って奉納された阿亀人形が堂内に多数陳列されている。

  千本釈迦堂の美しい菩薩


4.大徳寺

一休が復興した巨大禅寺・大徳寺。広い境内には塔頭(たっちゅう)(小寺)が24院もあり、各々が国宝、重文クラスの貴重な文化財を持っている。常時拝観可能な寺は、龍源院・瑞峯院・大仙院・高桐院の4院のみだけど、他の塔頭も春と秋に一部公開される事がある。最も有名な塔頭は特別名勝に指定されている大仙院。この院の枯山水(石庭)は、巨石で表した山々から水流が滝となって流れ落ち、鶴島と亀島を通って大河となり、最後は静寂の白砂の大海に注ぐという、壮大なスケールの立体山水画になっている。僕のイチオシは大徳寺最古の龍源院!小さな敷地だけど、4種類の名庭を見られる。「竜吟庭」は杉苔の大海原の中に石組の須弥山(世界の中心の山)がそびえる渋い庭。「一枝坦(いっしだん)」は、白砂の海に蓬莱山、鶴島、亀島が浮かぶ雄大な庭。「こ沱底(こだてい)」は2個の石が阿吽の呼吸を表し、全てが循環している宇宙の真理を語っている。そして何より好きなのが「東滴壺(とうてきこ)」!日本一小さな壷庭なのに、一滴の波紋が大海原となって広がっていく光景を見事に描いた奇跡の庭だ。ここを見て、庭は広ければ良いってもんじゃないと強烈に実感した!
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  大徳寺の修行僧


5.東寺

東寺の講堂にはすべての女性を虜にする超イケメン仏像、国宝「帝釈天半跏像」がおられるッ!京都だけでなく日本全体、否、世界全体を見渡しても、この帝釈天よりハンサムな仏像は存在しないだろう。金縛りにあったように動けなくなった女性を僕は何度も目撃している。帝釈天は魔物から仏界を守る戦闘部隊の隊長。スッキリしたお顔立ちで眼は伏目がち(これが超クール)。この講堂内は空海が21体の仏像を配置し、自らの世界観を反映した立体曼荼羅になっている。足を踏み入れた瞬間、約1200年をかけて堂内に満ち満ちた名仏たちのオーラ(霊気)に圧倒され、一瞬、自分の立っている場所が現実世界かどうか分からなくなった。壇上の中心に座すのが大日如来で、その周囲を阿弥陀など4体の如来が囲んでいる(五智如来)。向かって左に五大明王、右に五菩薩、その外側に梵天と帝釈天、そして四隅には四天王が配されている。春秋に開館される宝物館は密教美術の宝庫で、こちらでは「兜跋毘沙門天(とばつびしゃもんてん)像」が注目の的。長く平安京入口の羅城門(羅生門)の楼上に安置され、都の守護神として人々の信仰を集めていた仏像で、鳳凰の冠を被り、鎖で編んだマントを身につけている。ギロリと眼をむいた任侠系のヒーローだ。
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  東寺の帝釈天


6.広隆寺

広隆寺といえば記念すべき国宝第1号となった「弥勒(みろく)菩薩半跏(はんか)像」!穏やかな微笑が見る者に時間を忘れさせる。赤松を彫った飛鳥時代の仏像で、腰掛けて足を組み、右手の指をそっと頬に当てている。これは、釈迦の後継者として、どのように人々を救えばいいのかを思索している姿だ。片足を下ろしているのは、瞑想中でも苦しんでいる者を救いに行きたいという、居ても立ってもいられない気持ちの表れ。口元の微笑みは、救い方を悟ったその瞬間のもの。この極限まで優しい仏像は、人間の手で彫り上げられたものとは思えない。弥勒仏を前に哲学者カール・ヤスパースはこう感嘆した「私はこれまでに古代ギリシャの神々の彫像も見たし、ローマ時代に作られた多くの優れた彫刻も見てきた。だが、今日まで何十年かの哲学者としての生涯の中で、これほど人間の本当の平和な姿を具現した芸術品を見たことはなかった!」。1960年、この麗しい姿に我を忘れた大学生が、頬ずりをしようとして右手薬指を折ってしまう事件があった。呆れてしまうが、吸い寄せられたその気持ち、分からんでもない…。常に満員なので閉館1時間前に行かれることをお薦め。最後の数分間、弥勒さんと1対1になれます。
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  広隆寺の弥勒菩薩半跏像


7.龍安寺

龍安寺の石庭は枯山水の頂点、侘びさびの極致と言われており、日本の美の象徴として世界遺産に登録されている。白砂が敷かれた長方形の庭は約25mX10m。そこに大小15個の自然石が向かって左から順に、5・2・3・2・3と数個ずつまとまって配置されている。大まかに分けると7・5・3となることから、陰陽道の吉数に例えて「七・五・三の庭」ともいわれる。それぞれの石組みの周囲を緑の苔が縁取っており、島が大海原に浮かんでいるように見えるし、雲海の中から山の頂が突き出しているようにも見える。人によって自由な解釈が可能であり、変化し続ける“生きた庭”だ。各石の距離を始め庭内全体に黄金律が発生していて、幾ら眺めていても見飽きない。庭の三方を柿葺き油土塀が囲み、境内の植栽を借景(しゃっけい)(遠景)としている。また、少しでも石庭を広く見せる為に、左右の塀は遠くに行くにつれ徐々に低くなっている。遠近法を巧みに利用したものだ。15個の石はどの角度から見ても、必ず1個は別の石に隠れて、14個しか見えない設計になっている。これは「この世界はあなたという最後の石があって完成する」「見えなくても15個ある、外見に惑わされて真理を見落とすな」など、様々なメッセージを含んでいる。まったくもって、空前絶後の庭だ。
※平成18年3月31日まで油土塀・柿葺屋根は葺替え工事でシートがかけられているのでイマイチ。
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  竜安寺の石庭


8.清凉寺

この寺の釈迦如来立像は、釈迦を慕った古代インドの王が、当時37歳の釈迦の姿を彫らせた生身の仏像と言われており、インドから中国へ渡った後、大陸に留学中の日本の僧が現地の仏師に頼んで模刻してもらい、持ち帰った仏像だ。故に「三国伝来の釈迦像」と呼ばれている。それまで日本人が見てきた釈迦像とは明らかに異なるガンダーラ風の姿は鮮烈で、人々から超熱狂的に崇拝された。この後、さらに模造が約100体も作られ全国に広がった。1954年、修復作業に取り掛かった仏師たちから驚きの声があがる。仏像の胎内から絹製の内臓(五臓六腑)と、霊魂としての鏡が発見されたのだ。そればかりじゃない。X線で目に黒水晶、耳に水晶、額に銀の仏がはめ込まれていることが分かったのだ!外見を写しただけではなく、心臓や肺といった臓器まで作り、よりいっそう生身に近い像にしようとした、その釈迦への深い想いにジ〜ン。境内には、豊臣秀頼首塚や光源氏のモデルとされる源融(みなもとのとおる)の墓もある。霊宝館は春秋に特別公開され、源融を模した阿弥陀像、釈迦十大弟子像、四天王立像、兜跋毘沙門天立像(素肌に鎖の鎧がセクシー)など平安期の名仏を拝観できる。釈迦仏の「五臓六腑」は2階に展示されているのでお見逃しなく。
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  光源氏のモデルが眠る


9.愛宕(おだぎ)念仏寺

千年前の仏像だけが名仏じゃない!愛宕念仏寺の前住職は昭和・平成と活躍し、“最後の仏師”と言われた西村公朝さん。仏像修復の為に初めて三十三間堂でノミを握ってから亡くなるまで、約60年の間に修復した仏像は、広隆寺の弥勒菩薩(折れた指を復元)や平等院の阿弥陀如来など、実に1300体以上!そんな公朝さんが1991年、76歳の時に彫った「ふれ愛観音」が寺の境内に安置されている。一般にお寺の仏像は触ってはいけないのが普通だけど、この観音様は手で触れられることを喜んで下さる仏様だ。制作のきっかけとなったのは、ある全盲の女性の言葉「お寺に御参りしても仏像の形が想像できず、自分がどんなものを拝んでいるのか分からないのです」。公朝さんはこの女性を京都仁和寺の国宝・阿弥陀如来の前に案内して触ってもらった。手で阿弥陀仏を撫でながら「安心する…なんだろう…」と穏やかに微笑む彼女を見て、“仏像は人と共に在るべきだ。観賞用の美術品じゃない!”と胸を打たれ、すぐに「ふれ愛観音」の制作に取り掛かったという。また、この寺の境内は一般参拝者が彫った1200体もの羅漢像で埋め尽くされている。「人の心には仏がいて誰だって彫れる」、そんな仏師としての信念が結実した石仏たちだ。
※もっと公朝さん!

  たくさんの羅漢さんが待ってます



【奈良編】

10.興福寺/新薬師寺

最盛期には175棟が境内に建ち、169体の仏像を安置していた興福寺。7回以上も焼失と再建を繰り返す中で、鎌倉期の北円堂と三重塔、室町期の東金堂と五重塔は無事に残った。多くの日本人が愛する仏像『阿修羅像』も守られた。北円堂には運慶の遺作であり最高傑作でもある『無著(むじゃく)・世親(せしん)菩薩立像』が安置されている。無著と世親の兄弟は実在したインドの修行僧。運慶は様々な仏を彫り続けた人生の最後に、迷いながらも悟りに近づこうと懸命に努力する人間の姿を彫ったんだ。阿弥陀仏や観音ではなくただの人間を、遺言のように刻んで旅立った運慶。この名仏は春と秋に特別公開される。一方、新薬師寺では究極の写経体験が可能。用紙と見本のお経を購入し(2千円)、墨と筆を借りてトライ。何と国宝(本尊薬師如来)の真正面で写経できるんだ!最後に写経した経文を薬師如来の膝元に奉納するんだけど、驚くなかれ国宝の十二神将が並ぶ円陣内に入れてもらえる!視界の360度が国宝になって、もう失神寸前。そして奉納時は薬師如来の背後の文様をお見逃しなく。1250年前の仏像にギリシャの植物・アカンタスが刻まれている。この寺もまたシルクロードの終着点!ロマン爆発!
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  興福寺の阿修羅像


11.東大寺

仏教伝来200年目の752年。金色に光り輝く高さ16mの大仏が、世界最大の木造建築となる大仏殿と共に完成し、開眼供養会が催された。開眼の儀をインド人の高僧・菩提僊那(ぼだいせんな)が務めたように、この大法要は非常に国際色が強く、クライマックスでは内外1万人の僧侶による地鳴りのような読経が行なわれた。当時は高さ100mという超高層の七重塔(京都東寺の五重塔の倍!)も東と西にあったらしい。東大寺に行って大仏だけ見て帰ってはもったいない。法華堂には16体もの天平の仏像があり、『伝日光・月光菩薩像』等そのうち12体が国宝だ。仏像が林立する“国宝の森”と言われている。本尊は『不空羂索(けんじゃく)観音像』。“不空”とは虚しくないこと、“羂索”は救済の為のロープ。よく見ると、合掌した手の間に水晶が挟まっているのが見える。絶対に足を運んで欲しいのが、大仏殿の西へ10分ほど行った所の戒壇院。内部の『四天王立像』4体は、興福寺の『阿修羅像』と並ぶ天平彫刻の最高傑作!特に西方を守る『広目天立像』がド迫力。武器を持たずに筆を握り、説得で悪鬼を改心させる仏だ。あの鋭い眼光が発する「凄味」は半端じゃないッ!運慶が活躍するより400年も昔に、これほど気迫に満ちた仏像が既にあったことに仰天するだろう。
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   四天王はド迫力!


12.薬師寺/秋篠寺

薬師寺本尊の『薬師如来座像』のあの生命力!どっしりと安定感があり引き締まった肉体に活力が満ち溢れている。如来が座す台座も必見だ。ギリシャの葡萄、ペルシャの蓮華、インドの力神、中国の四方四神(青龍、朱雀、白虎、玄武)など、当時の世界文化を表す文様が刻まれている。これを見ると、1300年前の時点で、ギリシャから日本まで国際的な文化交流があったことが分かり、その壮大なスケールに卒倒しかける。薬師如来の両脇に立つ『日光・月光菩薩立像』も良い。軽く腰をひねって動きがあり、しかも均整のとれた抜群のプロポーション。3mという大きさもあって、つい見入ってしまう。そして!そしてッ!日本の美麗仏トップ3に入るであろう『聖観音立像』!足が透けるほど衣が薄く、それが左右対照に柔らかく広がっており、この仏が銅で出来ていることを忘れさせてしまう。嗚呼、この至福!そこから電車で2駅の秋篠寺は本堂そのものが素晴らしい。穏やかな屋根の勾配、正方形に近い縦横の対比、温かく響き合うクリーム色の壁と焦げ茶色の柱、圧迫感のない屋根の高さ、何もかも涙が出るほど完璧に調和している。建物から優しさがにじみ出ているんだ。ゆるやかに広がる屋根を見てるだけで骨抜きになってしまう…!
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  秋篠寺


13.法隆寺/中宮寺

世界最古の木造建築、法隆寺!約1300年前の飛鳥の姿を現代に伝え、日本で初めて世界文化遺産に登録された。創建は607年。落雷による焼失後、700年頃に再建された。法隆寺は約230件という膨大な数の国宝や重文を所蔵している。『百済観音』は“東洋のヴィーナス”と海外でも絶賛され、ルーブル美術館で展示された際は1ヶ月に30万人(!)が訪れた。細身で長身の姿は“生命の炎のゆらめき”と評されている。『救世(ぐぜ)観音像』は太子の姿を写した等身大の観音。絶対秘仏として800年以上も封印されていた、独特の神秘性が漂う仏だ(春秋の1ヶ月間のみ特別公開)。『釈迦三尊像』は渡来系仏師・鞍作止利(くらつくりのとり)が、太子の死の翌年に追善の為に制作したもので、美しいシルエットと異国風の顔立ちに心惹かれる。五重塔の『塔本四面具』は仏教の故事が東西南北に彫像で語られており、「釈迦涅槃(ねはん)」では号泣する弟子達と共に、菩薩だけでなく、かつて仏敵だった阿修羅までが臨終を見守っている感動的なもの。法隆寺を訪れたら必ず隣の尼寺・中宮寺に足を運ぼう。国宝『半跏思惟(はんかしい)像』はモナリザやスフィンクスと並び“世界三大微笑像”にあげられる、この世のものとは思えない優しい笑みの仏像。あらゆる罪を許す慈悲の姿がそこにある!
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  中宮時の半跏思惟像


14.室生寺

戦乱や火災に巻き込まれたことがなく、都会から遠く離れた山中にあるという点で、ここまで紹介してきた他の寺と色合いが違う。奈良の山里、室生村一帯は深山幽谷という言葉がぴったりで、水神の聖地という伝承があるのも頷ける。室生寺は「女人高野」と呼ばれているが、これは真言宗の総本山・高野山が女人禁制である一方、室生寺が女性に開放されている真言寺院であることによる。深山の四季に抱かれ、自然と調和した伽藍の中には、多くの優れた仏教美術が保存されてきた。弥勒堂の『釈迦如来座像』は、写真家の土門拳が「これほど利口で頭の良い顔をした、そして天下第一の美男の仏像はない」と感嘆した平安前期の傑作木彫り仏だ。この釈迦像は衣も非常に美しく、衣紋はまるで清流の波のよう。金堂に並ぶ鎌倉時代の『十二神将像』は、12体の個々に躍動感があったりユーモアがあったりで一向に見飽きない。そして、室生寺のランドマークの五重塔!平安初期に建てられたこの塔は、高さ16mで国内の五重塔の中では最も小さい。1998年に台風で大被害を受けたが無事修復され、小柄ながら漂う気品や優美さは他に無比なもの。霊気が満ちた山々の中で、室生寺はこれからも悠久の時の流れにその身を任せていくのだろう。
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  山中に凛とそびえ立つ室生寺の五重塔


15.三井寺(園城寺)※滋賀県

境内から雄大な琵琶湖が見える古刹。これまで何度も他寺の僧兵や平家に焼き討ちされ、秀吉から寺領・本尊の没収命令が下り廃寺同然に追い込まれたが、そのつど窮地から復興し「不死鳥の寺」と呼ばれている。金堂には各時代の仏像が揃っている上、ガラス越しではなく、超至近距離で拝観することが可能だ。ズラリと並んだ仏像の中でも、北極星を神格化した『尊星王(そんじょうおう)像』の彫りの緻密さ、正面右側の手前に安置された生身のような『阿弥陀如来坐像』の強烈な存在感に、思わず息を呑んで見入るだろう。居並ぶ傑作仏像を約50cmの距離で思う存分堪能できる素晴らしいお寺だ。この寺には平等院や神護寺の鐘と並んで日本三名鐘に数えられる大鐘『三井の晩鐘』がある。「ゴォーン」という暗くこもった音ではなく、「バァーン」という突き抜けた明るい音がして、環境庁の「残したい日本の音風景100選」にも選定された。重要文化財に指定されているこの名鐘は、一回300円(パンフ付)で誰でも撞けるので是非挑戦しよう。とても綺麗な余韻が長〜く聴こるので、鐘の真下に入り目を閉じていると、体中の水分に波紋が広がる感じがする。鳴り終わった後、体液が新鮮なものにすっかり入替わった気がした。合掌。
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  三井寺の阿弥陀如来



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