〔覚えておきたいギリシャ神話の神々と英雄たち〕
〜名画や彫刻もいっぱい!〜



ゼウスをはじめオリュンポス十二神が住んでいるギリシャ中部のオリンポス山(2917m)

〔はじめに〕
最初からゼウスが世界を支配したのではなく、ゼウスが頂点に立つのは3番目の王朝。
神話のおおまかな流れは、原初の時代→ウラノス王朝→クロノス王朝→神々の大戦「ティタノマキア」→《ゼウス王朝が
爆誕》→巨人大戦「ギガントマキア」→ゼウスVS怪物テュポン→半神半人の英雄(ヘラクレス等)の時代。



《ギリシャ宇宙・原初の時代の神々》

●カオス…最初の神カオス(混沌)から世界は始まった。カオスは大地の女神ガイア、奈落(地の底)の神タルタロス、愛の神エロス、闇の神エレボス、夜の神ニュクスの5神を単独で生む。

●ガイア…大地の女神。単独で天空神ウラノス、海の神ポントス、山の神ウーレアを産んだのち、子のウラノスを夫としてさらに男神6人と女神6人のティタン(巨神)十二神を産む。長兄はオケアノス(大洋)。子どもたちのうち、レア(大地)と末子のクロノス(農耕)が夫婦になり「ゼウス」を産んだ。

    紀元前470年頃に描かれたガイア神

※ティタン十二神…海洋神オケアノス(娘3千人)、テテュス(オケアノスの妻、ヘラの乳母)、太陽神ヒュペリオン(太陽神ヘリオス&月の女神セレネの父)、テイア(ヒュペリオンの妻)、イアペトス(アトラス、プロメテウスの父)、クレイオス(孫に西風の神ゼピュロス、北風の神ボレアス、南風の神ノトス)、クロノス(ゼウス、ポセイドン、ハデス、ケイロンの父)、レア(クロノスの妻)、掟の女神テミス、追憶の女神ムネモシュネ(叙事詩を司るカリオペなど9人のミューズ/ムーサの母)、ポイベ(アポロンを産んだレトの母)、コイオス(ポイベの夫)。


●タルタロス…カオス(混沌)に次いでガイア(大地)とともに生じ、ガイアと交わり最強の怪物テュフォンやエキドナ(ケルベロス、スフィンクス、キマイラの母)をもうけた。タルタロスが支配する領域はハデスの冥界よりもさらに深い最下層の暗黒界。神々への反逆者が落とされる底なしの奈落(ならく)であり、タルタロスの名前はそのまま奈落の牢獄を指すものとなった。ゼウスは打ち負かしたティタン神族をここに幽閉した。

  ヤン・ブリューゲル(父)が描いたタルタロス領域

●エロス(クピド/キューピッド)…愛の神。カオスの息子。男女両性を結びつける原理として万物に先だって存在し、神々のうちで一番若く、翼を持ち弓と矢を携える。本来は力強さをもった神であったが、時代が下るとともに若者から少年へとイメージが変わり、ローマ神話では悪戯好きの幼児の射手や、アフロディテ(ヴィーナス)の子とされるようになった。美少女プシュケーを愛している。
※()内はローマ神話や英語の読み方

  
アントニオ・カノーヴァ「アモル(エロス)の接吻で甦るプシュケ」(ルーブル美術館)。腰に矢筒がある

●ニュクス…夜の女神。兄であり夫のエレボス(闇の神、原初の幽冥神)との間に、「昼の女神ヘメラ」、「天上の輝く大気の神アイテル」、「冥府の河の渡し守カロン」を産む。他にも、ニュクス単独で「優しい眠りの神ヒュプノス」、「死の神タナトス」(一般人の魂はタナトスが、英雄の魂はヘルメスが冥府に運ぶ)、「夢の神オネイロス」、「災いの女神エリス」(トロイア戦争を引き起こす)、「復讐(義憤)の女神ネメシス」、モイラ(運命の三姉妹)ら、15神を超える多数の神を生む。眠りの神ヒュプノスと死の神タナトスはタルタロスの領域に館を持つ。
※ニュクスと娘ヘメラが夜と昼の対、エレボスと息子アイテルが天上の光明と地下の暗黒の対となり、表裏一体になっている。

  ギュスターヴ・モロー「夜の女神ニュクス」

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《ウラノス王朝》

●ウラノス…最初に世界を支配した最高神。天空神。大地の女神ガイアの子にして夫。ガイアとの間にティタン(巨神)十二神をもうけた。続けて一つ目の巨人キュクロプスや、百腕の巨人ヘカトンケイルが産まれると、ウラノスは醜怪さを嫌って彼らを地の底タルタロスに幽閉した。これに怒ったガイアが息子たちに報復を呼びかけると、末っ子のクロノスだけがこれに応えた。クロノスは大鎌で父ウラノスを去勢し退位させ、自身が支配者となる。このときウラノスが流した血から、「美の女神アフロディテ」が生まれたとも。元素ウランの語源。


  ジョルジョ・ヴァザーリ作、去勢されるウラノス

●オケアノス…水の神でオーシャン(Ocean)の語源となった。天神ウラノスと大地の女神ガイアの子。ティタン神族の長兄。同じティタンの妻テテュスとの間に、あらゆる河川の神々と三千人の娘(オケアニス)を生み、長姉は冥界の大河の女神ステュクス(勝利の女神ニケの母)だ。他の娘にクリュメネ(プロメテウスの母)やカリロエ(エキドナの母)など。有名な子孫に、ポロネウス(最初のペロポネソス半島の王)、ニオベ(ゼウスが愛した最初の人間の女性)、アルゴス(百眼の巨人)、リュカオン(ゼウスの怒りで狼にされる)、イオ(エジプトに縁)、アシア(アジア)など。妻テテュスと、アキレウスの母テティスは別人。

  ローマ“トレビの泉”のオケアノス像

●ヘリオス…太陽神。4頭の馬の引く戦車で毎日東から西へと天空を横切り、夜間には黄金の杯に乗って大地のまわりを流れる大河オケアノスを渡り東へ戻るという。ティタン十二神ヒュペリオンとテイアの息子。


●アシア(Asia)…オケアノスとテテュスの娘。ティタン神族のイアペトスとの間にアトラス、メノイティオス、プロメテウス、エピメテウスを生んだという説や、プロメテウスの妻になったという説がある。地名アジアの由来とも。

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《クロノス王朝》

●クロノス(サトゥルヌス/サターン)…2代目の最高神。ティタン神族。姉である大地の女神レア(レイア)を妻とする。父ウラノスを倒して支配者となるが、自分が同じ目に遭うことを恐れて、生まれてくる我が子を次々と飲み込んだ。結局は三男ゼウスに神々の大戦『ティタノマキア』で滅ぼされる。(詳細はゼウスの項目で)
※同名で「時間の神クロノス」がいるため注意。

  スペインの画家ゴヤ『我が子を食らうサトゥルヌス』が強烈…

●レア(レイア)…クロノスの妻。ティタン神族。クロノスとの間にオリンポス十二神の半数となる、長女ヘスティア、次女デメテル、三女ヘラ、長男ハデス(第四子)、次男ポセイドン、三男ゼウスをもうける。レアは大地の女神キュベレーと同一視されることもある。

●イアペトス…ティタン十二神の1柱。長兄オケアノスの娘クリュメネとの間に、アトラス、プロメテウス、エピメテウス、メノイティオスをもうけた。神々の大戦『ティタノマキア』では兄弟とともにゼウス側と激しく戦い、敗れてタルタロスの領域に堕とされた。息子達も皆ゼウスに敵対した。妻はアシアとも。
※メノイティオスは『ティタノマキア』で父イアペトスと共に勇敢に戦ったが、ゼウスの雷で撃たれ、タルタロスの領域に堕とされた。

●アトラス…巨神のティタン神族の一人。イアペトスの子でプロメテウス、エピメテウス、メノイティオスの兄。オリンポスの神々との戦い『ティタノマキア』に敗れ、罰として世界の西の果てで、天と地が接触しないよう天球(天界)を支える役を課せられた。ティタン神族オケアノスの娘プレイオネとの間にプレイアデスと称される7人の娘をもうけた。そのうち長姉マイアはゼウスとの間にヘルメスを産んでいる。マイアの祭日である5月1日は供物が捧げられ、メーデーの起源となった。

  天空を支えるアトラス神(ナポリ国立考古学博物館)

ちなみに、アトラスの7人娘(プレイアデス)は狩人オリオンの求愛から逃れるため鳩に変身して星の集団になり、日本では星が一つにまとまった様子を「統ばる(すばる)」とたとえ、昴の文字を当てた。その美しさから清少納言も枕草子で「星はすばる」と歌っている。アトラスは他にもオケアノスの妃テテュスとの間に海の女神カリュプソをもうけた。

  美しいプレイアデス星団

●プロメテウス…ティタン神族の一人。水と泥土から人間を創り、知恵と技術を教えた。イアペトスとクリュメネの子。アトラスの弟で、エピメテウス、メノイティオスの兄。プロメテウスはティタン神族であるが、神々の大戦『ティタノマキア』ではゼウス側の勝利を予見してゼウスに味方した。それゆえ敗者のティタン神族がタルタロスの牢獄に投げ込まれても、彼だけは天界や人間界を自由に移動することを許された。人間愛の強い彼は、ゼウスへの捧げ物(牛の部位)を決める際、人間の味方をしてゼウスの裏をかき、神には骨が捧げられ、美味な肉は人間の食べ物にした。怒ったゼウスは人間から火を奪って使えなくするが、プロメテウスは天上の火を人間のために盗み与える(もしくはこのとき初めて人間は火を得たとも)。ゼウスは激高し、プロメテウスはカフカス山(コーカサス、ロシア南部)の岩に鎖で繋がれ、大鷲に肝臓をついばまれるという刑期3万年の責め苦に毎日あう(不死ゆえに肝臓は夜中に再生)。旅の途中のヘラクレスが大鷲を射落としてプロメテウスを救い出した。

  テオドール・ロンバウツが描いた痛々しいプロメテウス

●パンドラ…ギリシャ神話の「人類最初の女性」。天の火を盗んだプロメテウスを罰するためにゼウスが鍛冶神ヘファイストスに粘土で造らせた。ゼウスはプロメテウスの弟エピメテウスの妻となるパンドラに「全ての悪と災い」を封じこめた小箱(壺とも)を持たせた。パンドラは「開けてはならない」と警告されていたこの箱を好奇心から開けてしまい、あらゆる疫病や災いが飛び出す。急いで蓋をすると、箱の底に“希望”だけが残った。

  ロセッティ「ピュクシス(箱)を持つパンドラ」

その後、人間が武器を手にして争うようになり、アルカディア王リュカオン(地上で最初の都市を建設)とその子らが、不信心なうえゼウスに人肉を食べさせようとした事件があり、ゼウスは人間に愛想を尽かし、いったん滅亡させて新しい種族を作る決断を下す。そして大洪水を起こしほとんどの生物を滅ぼした。事前にプロメテウスから警告を受けていた、プロメテウスの息子デウカリオンとその妻ピュラー(プロメテウスの弟エピメテウスとパンドラの娘)は、箱船を造って生き延びる。彼らは9日間水上を漂い、中央ギリシャのパルナッソス山(2457m)に漂着した。この地でデウカリオンが投げた石から人間の男が誕生し、ピュラーが投げた石からは人間の女が誕生し、再び地上には人間があふれるようになったという。彼らはギリシア人の祖といわれる息子ヘレンや、葡萄酒を水で割った最初の人間アンピクテュオン(アッティカ王)をもうけた。
※「デウカリオンの洪水」や聖書「ノアの箱舟」の元ネタは紀元前3000年ごろのメソポタミアの大洪水とみられる。

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《ゼウスが活躍した3つの大戦争》

【神々の大戦『ティタノマキア』】

2代目の最高神クロノスは、父ウラノスから玉座を奪う際に、「お前も自分の息子に王位を奪われるだろう」と予言された。クロノスはこの言葉を恐れるあまり、レアとの間にできた子供を次々と飲み込んでいく。これを嘆いたレアはクレタ島の山中で末っ子「ゼウス」のお産をすませ、ゼウスを守るために夫には産着に包んだ石を飲ませた。その後、ゼウスはクレタ島のニンフ(精霊)に密かに育てられる。

成長したゼウスは父クロノスに飲み込まれた兄姉たちの救出策を練る。そして祖母ガイアから嘔吐薬をもらい、それをゼウスの最初の妻メティスがネクタール(神酒)に混ぜてクロノスに飲ませることに成功する。クロノスはポセイドン、ハデス、ヘラ、デメテル、ヘスティアと、飲み込んだ順番とは逆に吐き出した。ここにゼウスを盟主としたオリュンポスの神々と、クロノス率いる巨神族ティタンとの史上最大の戦い『ティタノマキア』が勃発し、10年に及ぶ激戦となった。
ゼウスはガイアの助言を受けて、奈落(冥界のさらに下、タルタロス神の領域)に幽閉されていた三人のキュクロプス(一つ目の巨人)と三人のヘカトンケイル(百手巨人)を解放。キュクロプスは御礼としてゼウスに最強の武器「稲妻」を、ポセイドンに「三叉の矛」を、ハデスに「隠れ兜(かぶと)」を与えた。ゼウスの雷火で地球は焼き尽くされ、稲妻で天界は崩れ落ち、ポセイドンは三叉の矛で地球を揺らし、ハデスは隠れ帽で姿を消して敵の武器を奪った。こうしてオリュンポスの神々は勝利し、クロノスら不死のティタン神族はタルタロスの奈落へ封印された。

従来の支配者(ティタン神族)を追い出した後、ゼウス3兄弟は支配地を決めるクジ引きを行い、天はゼウスが、海はポセイドンが、地下の冥界はハデスが治めることとなった。

 
マドリード王宮の壁画に描かれたティタノマキア。フランシスコ・バイユー作。上がオリュンポス側、下がティタン側。リンク先の拡大図ではアテナ(右下)の勇姿もよくわかる。ポセイドンは左上。

※キュクロプス(サイクロプス)…ひとつ目の巨人、ブロンテス、ステロペス、アルゲスのこと。クロノスによりウラノスの性器が切り取られた際に滴り落ちた血をガイアが受胎し産み落とされた。誕生後、醜さを嫌ったクロノスが地の底タルタロスに幽閉したが、ゼウスに救い出され、御礼に稲妻など武器を与えた。

  オディロン・ルドン「キュクロプス」(クレラー・ミュラー美術館)

【巨人族との大戦『ギガントマキア』】

大地神ガイアは息子クロノスが率いるティタン神族と、孫ゼウスが率いるオリュンポスの神々の大戦『ティタノマキア』ではゼウスを支援したが、勝者となったゼウスがティタン神族を地獄タルタロスに幽閉したため「やりすぎ」と反発。ガイアにとってはティタン神族も愛しい我が子である。ガイアはタルタロスから彼らを解放するため、たくさんのギガス(巨人、複数でギガンテス)を生み出して戦をけしかけ『ギガントマキア』を起こした。
怪力のギガスは山を引き剥がしゼウス勢に投げつける。「神々だけではギガスを殺せない」と予言されていたため、ゼウスは人間の女性アルクメネと交わって半神半人のヘラクレスを誕生させ味方に付けた。ゼウスが稲妻でギガスを失神させ、ヘラクレスが次々と弓でとどめを刺した。ポセイドン、アテナ、アポロン、ヘカテ、ヘルメスの奮闘もあり、ギガスたちは皆殺しにされた。


  両手から稲妻をギガスに放つゼウス
※北イタリア・マントヴァのゴンザーガ家の離宮「パラッツォ・デル・テ」の“巨人の間”に、ルネサンス期のジュリオ・ロマーノ(ラファエロの弟子)が壁画「巨人族の没落」を描いている。部屋全体を“騙し絵”のように使った驚天動地の 異空間に!リンク先の後半に様々な角度からの画像あり。

  ドラクエウォークのギガンテス

【最強の敵テュポンとの対決】

神々の大戦『ティタノマキア』、巨人戦争『ギガントマキア』でゼウスに敗れたガイアは、最大最凶の怪物テュポンを産み、ゼウスに最後の戦いを挑む。いったんはテュポンが勝利しゼウスを幽閉したが、オリュンポスの神々が逆襲した。(詳細はテュポンの項目で)

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《ゼウス王朝〜オリュンポス十二神》


★第一世代〜クロノスとレアの子どもたち

1)ゼウス(ユピテル/ジュピター)…3代目の最高神。気象を支配する雷神。2代目最高神クロノスの息子で母はレア。ハデス、ポセイドンの弟。女性が大好きで浮気関係のトラブル多発。最初の妻はティタン神族の「知恵の女神メティス」(アテナの母。オケアノスとテテュスの娘)、二番目の妻は「掟の女神テミス」(ウラノスとガイアの娘)、三番目の妻が結婚の女神ヘラ(ゼウスの姉。クロノスとレアの娘)。

  古代オリンピア・ゼウス神殿の座像(13m)は世界七不思議に

ゼウスが意中の相手と交わる際は、妻ヘラや相手の配偶者に見つからないよう変身し、ダナエには“黄金の雨”、レダには“白鳥”、エウロペには“白い牡牛”、イオには“雲”の姿で近づいた。ゼウスが愛した最初の人間の女性はペロポネソス半島の王女ニオベ(同名の石化したニオベは別人)、最後に愛したのはニオベの16代目の子孫アルクメネ(ヘラクレスの母)。ゼウスの有名な子どもは、アテナ、アポロン、アフロディテ(ヴィーナス)、アルテミス、アレス、ヘルメス、バッカス、ペルセウス、ヘラクレス、ヘレネなど。天体の象徴は木星。

  グスタフ・クリムト「ダナエー」。ゼウスは黄金の雨になった

  ギュスターヴ・モロー「レダと白鳥」。ダ・ヴィンチも描いたが現存せず
 
  ティツィアーノ「エウロペの略奪」。白い牡牛になり連れ去る

  コレッジョ「ユピテル(ゼウス)とイオ」。雲に変身して抱擁

2)ヘラ(ジュノー)…クロノスとレアの娘。ゼウスの姉であり妻。婚姻の神、女性の守護神。アレスやヘパイストスを産む。嫉妬深く、夫の愛人やその子供たち(ヘラクレス等)を徹底して迫害、ときに命まで奪った。天体では小惑星ユノ。

3)ポセイドン(ネプチューン)…クロノスとレアの息子。海神。ゼウスの兄、ハデスの弟。誕生時に、父クロノスに飲み込まれたが、のちにゼウスの機転で吐き出された。兄弟で父を倒した後、世界の支配をくじで分割し、海の支配権を得る。ポセイドンは三叉(さんさ)の槍(トライデント/トリアイナ)を持ち、これで天変地異を起こす。青銅のひづめと黄金のたてがみを持つ馬が引く戦車に乗って海原を駆け巡る。ポセイドンの子に、深海の神トリトン(半人半魚)や狩人の巨人オリオン、単眼の巨人ポリュフェモスなどがいる。傲慢な人間を懲らしめるため巨大海獣ケートスを作り出すが、ケートスはペルセウスに退治された。天体では海王星。

  三叉槍(トライデント)はポセイドンの代名詞

  『バビル2世』では巨大ロボの名前に

※オリオン…ポセイドンの子。巨人で美男の狩人。母エウリュアレはメドゥーサの姉もしくはミノス王の娘。オリオンの最初の妻シデは女神ヘラと美を競ったため冥界タルタロスへ投げ込まれた。のちにクレタ島で狩猟の女神アルテミスと恋に落ちたが、彼女の兄アポロンは「純潔を司る処女神アルテミスに恋は許されない」として2人を罠にはめる。アポロンが放った毒サソリに驚いて海中に逃げたオリオンを、アルテミスはそれと知らずに射殺してしまう。嘆き悲しんだアルテミスはゼウスに頼んで彼を天上の星座にしてもらった。天空のオリオンは、月に一度会いに来る月神アルテミスを楽しみに待っているという。
別説に「狩の腕を天狗になって自慢するオリオンにヘラがサソリを放ち、これに刺されて死んだ」「曙の女神エオスとオリオンが恋仲になったため、アルテミスが嫉妬してサソリを差し向けた」というものあり、東の空にサソリが昇ると、西の空からオリオンが逃げ去る理由とされる。


  冬の夜空を彩るオリオン座

※ポリュフェモス…ポセイドンの子。キュクロプス(一つ目の巨人)の1人で、同族では最も体が大きく洞窟に住む。トロイア戦争の帰途、この洞窟に踏み込んだオデュッセウスはポリュフェモスに食べられそうになるが、ワインで眠らせ巨人の目を潰して脱出に成功した。我が子を傷つけられ怒ったポセイドンは、オデュッセウスの艦隊を嵐で妨害し、何年も海上を放浪させる。ちなみに、ポリュフェモスの母は精霊のトオサ。トオサの父ポルコスは海の女神ケトとの間にメドゥーサなどゴルゴン三姉妹をもうけており、トオサとメドゥーサは異母姉妹となる。

  ティバルディ「ポリュペモスの目を潰すオデュッセウス」

※メドゥーサ…ポセイドンの愛人。ゴルゴン3姉妹の三女で髪は無数の毒蛇で見たものを石に変える能力を持つ。メドゥーサは美少女であったが、海神ポセイドンとアテナ神殿で交わったためにアテナの怒りをかい、醜い怪物にされてしまう(ポセイドンから無理に抱かれ、絶望から自分を醜い姿に変えたとも)。姉たちが妹のためにアテナに抗議すると、同じく怪物に変えられてしまった。英雄ペルセウスはアテナから借りた盾アイギスを鏡のように使ってメドゥーサに接近して首をはね、あふれ出た血から羽を持つ天馬ペガサスとクリュサオルが産まれた。ペガサスとクリュサオルはポセイドンの子だ。クリュサオルはオケアノスの娘カリロエとの間に36足の怪物ゲリュオン(ヘラクレスによって退治)と、下半身が蛇のエキドナを産む。エキドナはケルベロス、キマイラ、スフィンクスなど多くの怪物を産んだ。

  映画『タイタンの戦い』(2010)の悲しげなメドゥーサ

4)デメテル(ケレス/セレス)…クロノスとレアの娘。穀物豊穣の女神。デメテルはゼウスとの間にできた愛娘ペルセフォネを冥府の神ハデス(ゼウスの兄)にさらわれ、行方を探して神の役割を放棄したため、地上は穀物が実らず荒れ地となった。ゼウスからペルセフォネを地上へ返すよう頼まれたハデスは、彼女にザクロの実を3分の1食べさせて返した。一度でも冥府の食べ物を口にした者は冥府の住人となる掟があり、ペルセフォネは1年の3分の1は冥府で生活しなくてはならず、デメテルが娘と一緒に過ごす期間は大地が豊かに実り、娘が地上に不在の冬は嘆きによって作物が実らない。天体では小惑星セレス。

5)ヘスティア(ヴェスタ)…クロノスとレアの娘。長女でありゼウスの姉、のんびり屋。竈(かまど)の火を司る女神、家庭生活の守護神であり、食前食後の祈りは彼女に捧げられた。ヘスティアは常に家庭の炉端にいるため、神々の戦争に参加することはない。

★第二世代〜ゼウスの子どもたち

6)アテナ(ミネルバ)…ゼウスの娘。知恵・技芸・戦争の神。母はゼウスの最初の妻である知恵の女神メティス(ティタン神族)。ゼウスは「メティスが産む男神は父の脅威になる」との予言を受け、妊娠したメティスを飲み込むが、メティスはゼウスの体内で出産。やがてゼウスの頭部から成人し武装した女神アテナが出てきた。パルテノス(処女)であり、彼女を祀る神殿はパルテノン(処女宮)と呼ばれる。フクロウ(知恵の象徴)を伴う。天体は小惑星ミネルバ。ちなみに、アテナの随神ニケ(ヴィクトリア)は勝利の女神であり、ティタン神族のパラスとステュクス(冥界の河)の子。ニケの英語読みはナイキ。ナイキ社のトレードマークは有翼の女神ニケの翼をイメージしたもの。
※巨人戦争『ギガントマキア』では、アテナはギガス(巨人)の中で最も強力なエンケラドスと戦い、シチリア島を投げつけて圧殺した。トラキア(現ブルガリア)でもヘラクレスと一緒にギガスを打殺す。アテナはギガスのパッラースの皮で盾を作り、自らパラス・アテナと名乗った。

  オーストリア議会前のパラス・アテナ像

7)アフロディテ(ヴィーナス)…ゼウスの娘。愛と美の女神。母はティタン神族のディオネ(ウラノスとガイアの娘)とされるが、名の「アフロディテ」は“泡から生まれた”の意であり、クロノスに切られたウラノスの性器を浮かべる海の泡から生まれ、キプロス島に流れ着いたという伝承がある。「鍛冶神ヘファイストス」の妻となったが軍神アレスを恋人にし、浮気現場を見つかったことも。アレスとの間に恋心と性愛を司る神エロス(キューピッド)、調和を司るハルモニアをもうけたともいわれる。
アフロディテはトロイア王家アンキセスとの間に息子である半神アイネーイス(アエネアス)をもうけ、アイネーイスはトロイア滅亡後にイタリア半島へ逃れてローマの祖市ラウィニウムを建設し、ローマ建国の祖となった。天体では金星。

  ボッティチェリ「ヴィーナスの誕生」。キプロスへ流れ着く

※アフロディテはギリシャの美青年アドニスをめぐって冥府の王妃ペルセフォネともはりあった。アドニスが狩猟中に死ぬとアフロディテは嘆き悲しみ、アドニスの倒れた大地に自らの血を注ぐとアネモネが芽生えた。

  アネモネの花

8)アポロン(アポロ)…ゼウスの息子。音楽・芸術・予言・医療の神。若い男性の守護神。母はティタン神族のレト(ヘカテを産んだアステリアと姉妹)。レトはゼウスの妃ヘラの嫉妬により陸地でアポロンを出産できず、デロス島でアポロンと妹アルテミスの双子を産んだ。のちに光明の神として太陽神ヘリオスと同一視される。駿足であり古代オリンピックの最初の優勝者。崇拝の中心地はパルナッソス山のふもとにあるデルポイ(デルフォイ)。当地は古代ギリシアにおいては世界のへそ(中心)と信じられており、最大の聖地。元々は大地の女神ガイアの聖地であったが、アポロンがこの地を支配していた大蛇ピュートーンを倒し自分のものとした。アポロン神殿で下される「デルポイの神託」は絶対であった。天体に小惑星アポロ。
※デルポイではアポロンを称えるために4年おきに音楽競技(コンクール)「ピューティア大祭」が奉納された(デルポイは旧名ピュートー、巫女はピュティアと呼ばれた)。コンクールでは「アポロン神への讃歌」「フルートとキタラ(弦楽器)の演奏、歌あり・なし部門」「演劇と舞踊」「絵画」で腕が競われた。
※ダプネ(ダフネ)…アポロンがエロス(キューピッド)の持つ小さな弓を馬鹿にしたことから、エロスは仕返しに、愛情の虜になる「黄金の矢」でアポロンを撃ち、愛情を嫌悪する「鉛の矢」でダプネを射た。アポロンはダプネを追い、彼女は逃げ続ける。ついにアポロンがダプネに追いついたとき、彼女は月桂樹に姿を変えて逃れた。絶望するアポロンを哀れに思ったダプネは、月桂樹の葉を頭に落とす。この故事により「ピューティア大祭」優勝者に月桂冠が与えられることになった。

  ベルリーニ「アポロンとダフネ」は指先が枝に変容、超リアル

※ヒュアキントス…スパルタの美少年ヒュアキントスとアポロンが円盤投げを楽しんでいると、ヒュアキントスを想う西風の神ゼピュロスが嫉妬して風で邪魔をし、アポロンの投げた円盤がヒュアキュントスの頭に当たり少年は死んでしまう。流れた血から赤い花が咲き、少年の名にちなんでヒュアキントス(ヒヤシンス)と名付けられた。

  ヒヤシンス

9)アルテミス(ディアナ/ダイアナ)…ゼウスの娘。狩猟・純潔の神。若い女性の守護神。また、誕生・多産の守護神でもある。母はティタン神族のレト。アポロンの双子の妹。美しい処女神の猟人。のちに月の女神セレネ(ローマ神話のルナ)と混同された。天体では月。

  ルーブル美術館のアルテミス像

10)アレス(マルス/マーズ)…ゼウスの息子。軍神。母はヘラ。凶暴で思慮に欠け、神々にも人間にも嫌われた。戦いのときにはデイモス(恐れ)とフォボス(驚き)が従者となるが、敗北する物語だけが伝えられ、トロイア戦争ではアテナが味方した人間ディオメデスにも敗れる。ある時、ポセイドンの息子の1人がアレスの娘を犯し、激怒したアレスはその息子を撲殺した。子を殺害されたポセイドンはアレスを神々の裁判にかけ、これが世界初の裁判となる。アレスは情状酌量により無罪となった。勝利の女神ニケの父とも。天体では火星。

  映画『ワンダーウーマン』のアレス神

11)ヘファイストス(バルカン)…ゼウスの息子。火と鍛冶の神。母はヘラ。妻は愛の女神アフロディテ。足が不自由だったがキュクロプス(一つ目の巨人)らを従え、神々の鍛冶屋として、鎧(よろい)や武器、宝飾品を作った。仕事場はシチリア島の火山、エトナ山の地下。

12)ヘルメス(メルクリウス/マーキュリー)…ゼウスの息子。神々の使者をつとめる伝令神。死者の魂を冥界に導く役目を持つ。同時に、幸運と富の神であり、商売・盗み・賭博・旅人の守護神でもある。母はティタン神族のアトラスの娘マイア。翼のついたサンダルと帽子、2匹のヘビが巻き付き翼がついた魔法の杖カドゥケウス(ケリュケイオン)を持っている。ヘルメスが“盗み”の守護神になったのは、ゼウスが妻ヘラの熟睡中にマイアと関係を持ったことによる。天体では水星。

  ヘルメスは靴と帽子に翼がついており見分けやすい

13)〔竈(かまど)の女神ヘスティアの代わりに十二神に入ることがある神〕ディオニュソス(バッカス)…ゼウスの子。豊穣と酒の神。母はカドモスの娘セメレ。人間にブドウの栽培とワインづくりを教えた。ディオニュソスは毎年冬に死んで春に甦ることから、人々は春に再生を祝う祭礼を催し、それがギリシャ演劇を発達させた。アテネでは5日間にわたって祭りが開催され、三大悲劇詩人ソフォクレス、アイスキュロス、エウリピデスらも、この祭礼のために傑作を生みだした。
※ディオニュソスの女性信奉者はマイナス(Maenad/語源は“わめきたてる者”)、マイナデス(複数形)と呼ばれ、熱狂した者を指す「マニア」と語源が同じ。男性のディオニュソス信者はサテュロスと呼ばれ、陽気で好色、笛の演奏が得意で、上半身は人間、下半身が山羊という姿でよく描かれる。

  ミケランジェロ作の挑発的なバッカス(フィレンツェ・バルジェロ美術館)

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《冥界/冥府の神》

★ハデス(プルート)…冥界の王。ゼウスとポセイドンの兄。ティタン神族のクロノスとレアの子。厳格で冷酷な神だが、根は邪悪ではない。オリュンポス山ではなく冥府にいるため十二神にカウントされない。姉の女神デメテルの娘ペルセポネをさらって妃とした。作物や金銀などの鉱物は地下の冥府から生みだされると信じられたことから、富をもたらす神プルトン(富める者)としても知られる。天体の象徴は準惑星の冥王星。

  ハデスと妃ペルセポネ。ハデスは二叉の槍バイデントを所持

   
ハデスのイメージはベルリーニの彫刻「プロセルピナの略奪」や、ディズニー「ヘラクレス」の敵役などで、すっかり悪い印象がついてしまっているが、ゲーム「無双OROCHI3 Ultimate」では超絶イケメンで登場しイメージ回復に貢献。

※冥府(死者の国)はエレボス(地下世界)と、最深部タルタロス(奈落、地獄)の2つからなる。古代ギリシア人は他界後、英雄の魂は「伝令神ヘルメス」に、一般人の魂は「死の神タナトス」に冥府の入口まで導かれる。冥府と地上はステュクスという川で隔てられ、死者の魂は渡し守の老人カロン(エレボスとニュクスの子)の小舟で川をわたる。3つの頭と竜の尾をもつ猛犬ケルベロスが番をしているハデスの館で、死者の魂は3人の裁判官(ミノス、ラダマンテュス、アイアコス)に裁きを受ける。
多くの魂はエレボスで「アスポデロス(不花)の野」にさまようが、真の英雄は西方の地の果て「エリュシオンの野」に送られ至福の生を営むという。極悪人は「奈落のタルタロス」へ押しこめられ永遠の責め苦にあう。


  ドラクロワ「ステュクスを渡るダンテとウェルギリウス」

  地獄の番犬・三つ頭のケルベロス(いらすとや)

●ペルセポネ(プロセルピナ)…ハデスの妻で冥界の王妃。季節の神。ゼウスとデメテルの娘。ハデスによって冥府にさらわれるが、丁重なもてなしを受けて心を和らげ妃となる。ペルセポネが地上に戻ることを希望したとき、ハデスはザクロを食べさせた。冥界の食べ物を口にすると冥界の住人になる掟があり、ザクロを3分の1食べてしまったペルセポネは、1年の3分の1を冥府で過ごす。母デメテルは豊穣の神であり、娘が里帰りすると嬉しさから季節が春になり、冥府に戻ると寂しさから冬になる。

  ロセッティ「プロセルピナ(ペルセポネ)」。石榴を持っている

※メンテ…ハデスが地上で精霊メンテの美しさに魅了された際、ペルセポネは嫉妬から「くだらない雑草になれ」とメンテを草に変えてしまった。この草はミントと呼ばれ、芳香を放って人々に居場所を知らせている。

  爽やかな香りがするミント

●ヘカテ…暗黒の女神。ティタン神族のペルセスとアステリア(アポロン、アルテミスを産んだレトと姉妹)の娘。夜の暗闇、恐怖、妖術をつかさどり、魔術師や魔女は彼女を崇拝した。顔は3面とも。ハデス、ペルセポネに次ぐ冥府神。

  ウィリアム・ブレイク「ヘカテー」(テート・ブリテン)

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《ゼウスゆかりの者たち》

●イオ…ゼウスの妃ヘラの女神官。ゼウスの愛を受け、ヘラの嫉妬を避けるためゼウスはイオを白い牝牛(めうし)に変えた。イオはヘラの送った虻(あぶ)に追われてエジプトまで逃れた。人間に戻ったイオはナイル河の側でゼウスとの子エパポスを産み、エパポスはエジプト王となって古代エジプトの首都メンフィスを創建した。イオはエジプトで豊穣の女神イシスと同一視される。

●リビュエと子孫たち…エジプト王・エパポス(ゼウスとイオの子)の娘。古代アフリカは彼女の名にちなみ「リビュエ」と呼ばれ、のちに範囲が狭まり「リビア」となった。リビュエはポセイドンとの間に双子の兄弟アゲノル(フェネキア王)とベロス(エジプト王)を産む。

1)フェネキア(現レバノン)王アゲノルは妻テレパッサとの間に娘エウロペ(クレタ王ミノスの母、ヨーロッパの語源)、息子カドモス(フェニキア王子)らをもうける。カドモスはゼウスにさらわれた姉妹エウロペを探してギリシアを訪れ、アルファベットをもたらした。カドモスは神託に従いアテネの北西にテバイ(テーベ)を建設、泉の竜を退治し、初代テバイ王となった。カドモスは調和を司るハルモニア(アフロディテとアレスの娘)と結婚し、これは「オリュンポスの神々が参列した初めての人間同士の結婚式」となった。晩年、夫婦はゼウスにより大蛇となり、ギリシャ神話の極楽浄土「エリュシオン」へ送られた。カドモスとハルモニアの娘セメレはゼウスの愛人となり酒神ディオニュソス(バッカス)を妊娠したが、嫉妬したゼウスの妃ヘラの陰謀で雷に打たれて死ぬ。だが、胎内のディオニュソスはゼウスに救い出され、のち母親を冥府から呼び戻した。

  エリュシオンの野(ゲーム「アサシン クリード オデッセイ」)

2)エジプト王ベロスはナイル河の河神ネイロスの娘アンキノエとの間に4人の息子をもうけ、そのうちのアイギュプトスは占領地を自身の名にちなんでアイギュプトス(Aegyptus/エジプト)と呼んだ。その後、彼は双子の弟ダナオス(アルゴス王)との権力闘争に敗れて(50人の息子のうち49人をダナオスの娘たちに殺害される)失意の日々を送るが、玄孫(やしゃご、ひ孫の子)のダナエがゼウスとの間に英雄ペルセウスをもうけている。王ベロスの4人の息子のうちケフェウスはエティオピア(現在のヨルダン一帯)の王となり、ケフェウスの妻子が有名なカシオペイアとアンドロメダ姫だ。残りの息子ピネウスはアンドロメダと婚約していたが、英雄ペルセウスがアンドロメダを怪物から助けたあとに結婚しようとしたため対立し、ペルセウスにメドゥーサの首を見せられ石になった。
※ダナオスの娘たち49名はタルタロスに投げ込まれ、穴の開いた水瓶に水を注ぎ続ける刑罰を受けている。

アスクレピオス…医術の神。アポロンの子でゼウスの孫。母は軍神アレスの孫コロニス。ケンタウロス族の賢者ケイロンに育てられ、同時に医術を学び名医となる。だが、人を救うことに熱心なあまり死者までも蘇らせたため、冥界の死者が減ることを危惧した冥府王ハデスが「世界の秩序を乱すもの」とゼウスに強く抗議し、アスクレピオスはゼウスの稲妻で殺された。ゼウスは医業を讃え、へびつかい座として天に迎えた。世界保健機関(WHOのシンボルマークは、国連旗の中心に医療の象徴であるアスクレピオスの杖(蛇の巻き付いた杖)をあしらったもの。

  中心にアスクレピオスの杖!

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《地獄タルタロスに墜ちた者》

●テュポン(テュフォン/Typhon)…ギリシャ神話中、最大最強の怪物で一時的にでもゼウスを破った唯一の存在。ティタン神族の大地神ガイアが、ゼウスらオリュンポスの神々を打倒するために産んだ最後の子。『ティタノマキア』『ギガントマキア』に連勝したゼウスは、敗れたティタン神族を地獄の暗黒界(タルタロス)に閉じ込めたが、ガイアはこの仕打ちに立腹。ガイアにとってはティタン神族もギガスもかわいい我が子。ガイアは地の底のティタン神族タルタロスと交わりテュポンを産み、ゼウス一派に最後の戦いを挑んだ。テュポンは天にも届く背丈があり、両腕は世界の東西の崖に達し、百の竜の頭、火を放つ目を持ち、両脚はとぐろを巻く毒蛇という大巨人だ。テュポンがオリュンポスの天空に突進すると、迫りくるテュポンに神々は恐慌状態になり、動物に変身してエジプトへ逃亡した。その際、アポロンは鷹に、伝令神ヘルメスはコウノトリに、軍神アレスは魚に、狩猟神アルテミスは猫に、酒神ディオニュソスは山羊に、英雄ヘラクレスは子鹿に、鍛冶神ヘパイストスは雄牛に、女神レトはトガリネズミになった。牧神パンは、あまりに焦って上半身が山羊、下半身が魚になってしまい、「パニック」の語源になったとも。


ゼウスは逃げずに稲妻と鎌で応戦し、テュポンはシリアのカシオス山までゼウスに追いつめられた。ここでデュポンは猛然と反撃、ゼウスの武器を取り上げ、手足の腱(けん)を切ってギリシャ・デルポイ北部の洞窟に幽閉した。そしてテュポンは竜女デルピュネを番人に置き、自身の傷の治療のために母ガイアのもとへ向かった。その隙にヘルメスとパンはゼウスの救出に向かい、デルピュネを騙してゼウスを治療し、力を取り戻したゼウスはテュポンと再び激突する。テュポンの火炎とゼウスの雷が発する熱で大地は炎上し、海は沸騰した。戦いの振動に、冥府のハデスだけでなく、最下層タルタロスに幽閉中のティタンたちまで恐怖したという。テュポンは勝利を掴むために“夜の女神ニュクス”の子「運命の三姉妹(モイライ)」を脅し、あらゆる願いが叶う“勝利の果実”を奪ったが、実は望みが叶わぬ “無常の果実”を渡されていた。これを食べたテュポンは力を奪われてしまい、ゼウスの激しい稲妻に耐えかねてシチリア島まで逃げたところを、ゼウスからエトナ火山を投げつけられた。下敷きになったテュポンは今も火を吐き続けているとも(もがくと噴火が起きる)、灼熱が大地を熔解させ、そのままタルタロスに放り込まれたともいわれる。

  

   様々なテュポン

テュポンは子どもも有名だ。不死の怪女エキドナ(下半身が蛇)との間に、ケルベロス(冥界の番犬、ヘラクレスに退治)、オルトロス(双頭犬、ヘラクレスに退治)、キマイラ(キメラ/ライオンと山羊と蛇の合成)、ヒュドラ(猛毒の水蛇、ヘラクレスに退治。うみへび座)、ラドン(黄金の林檎を守る百頭の竜、ヘラクレスに退治。りゅう座)、エトン(プロメテウスを襲った巨大鷲)、パイア(牝の猪。テセウスが退治)などをもうけた。
※エキドナは子である双頭犬オルトロスとの間に、ネメアーの獅子(ヘラクレスに退治。獅子座)、スフィンクス(テーベのオイディプスに敗北)を産んだ。
※テュポンは骨が鉄でできていたといい、ギリシアの神殿では鉄を持ち込むことが禁忌とされた。
※タイフーン(typhoon)の語源とも。

イクシオンテッサリア(中部ギリシャ)のラピテス族の王子。妻の父をだまし討ちにし、血縁の人間を殺した最初の人物。人々は親族殺しという重罪を犯した彼を避けたが、ゼウスは父クロノスを倒した自分と重ねたのか、イクシオンを天上界の食事に招き、ネクタル(飲物)とアンブロシア(食物)を味わわせ、不死とした。ところがイクシオンは大胆にもゼウスの妻ヘラを誘惑する。彼を懲らしめるためにゼウスがヘラそっくりの雲の固まり「ネペレ」を作ると、イクシオンは知らずにこれと交わった。ゼウスは激怒し、イクシオンを地獄タルタロスに放り込み、燃えさかる火の車に縛り付けて回転させた。イクシオンは不死身ゆえに、永遠にこの責め苦を受けている。ちなみに、イクシオンと雲のネペレとの間に産まれた子が、半人半馬のケンタウロス族だ。
のちにイクシオンの子ペイリトオスが結婚の宴に異母兄弟のケンタウロス族を招くと、酩酊したケンタウロス族が女性たちを追い回し大騒動になった。ペイリトオスは親友のテセウス(アテナイ王子)の加勢でケンタウロス族を撃退した。

  タルタロスのイクシオン。火炎にさらされ永遠に回転しているという…

●タンタロス(名がタルタロスと似ており注意)…ゼウスの子。リュディア(現トルコ)の王。神々を自分の王宮の食事に招いた際に、神々が全てを見通しているか試すために自分の子を料理したことから、神々のひんしゅくを買って地獄タルタロスに堕とされた。神々は子どもを生きかえらせ、タンタロスには永遠の飢えと渇きに苦しむ罰(飲もうとすれば水は消え、枝の果物に手を伸ばせば枝が風で揺れて取れない)を与えた。

  タンタロスは目の前に果実があっても食べることができない

●シシュフォス(シーシュポス)…アテナイ、スパルタと並ぶ都市国家(ポリス)コリントスの創建者。神ゼウスをも欺き、最もずる賢い人間とされる。テッサリア王アイオロスの息子。母はアンチクレイア。妻メロペは、ティタン神族アトラスと海のニンフ(精霊、ニュンペー)プレイオネとの間のプレイアデス7人娘のひとり。シシュフォスは河神アソポスの美しい娘アイギナの誘拐犯がゼウスであることを暴露したため、立腹したゼウスはシシュフォスを冥府に送るべく死神タナトスを家に遣わした。ところが、シシュフォスは言葉巧みにタナトスを騙して縛り上げたため、タナトスは死神の役割が出来ず人間は誰も死ななくなった。軍神アレスが困り果ててタナトスを助け出し、シシュフォスを捕らえた。彼は冥府に向かう前に妻メロペに「葬式をするな」と指示し、冥府の王妃ペルセポネに「葬式が済んでいない」と訴え、「私をないがしろにする妻に復讐するために三日間だけ生き返らせてくれ」と頼む。冥府から戻ったシシュフォスは、ペルセポネとの約束を無かったことにし、まんまと長寿をまっとうした。
神々を二度も欺いたシシュフォスは、死後にタルタロスの地獄へ投げ込まれた。そして神々を愚弄し続けた罰として、頂上の直前で転がり落ちる岩を何度でも山の上に押上げる苦役に服すことになった。シシュポスの子グラウコスは、のちにペガサスに乗って怪物キマイラを倒した英雄ベレロポンの父。別伝に、シシュフォスは智将として名高いオデュッセウスの実父と伝わる。

  ティツィアーノ「シシュポス」(プラド美術館)

●ダナイデス(アルゴス王ダナオスの娘たち49名の総称)…結婚初夜にエジプト王アイギュプトスの王子49名を殺害し、タルタロスで穴の開いた水瓶に水を注ぎ続ける刑罰を受けている。

  ジョン・ウィリアム・ウォーターハウス「ダナイデス」。水瓶に穴…

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《英雄伝説ゆかりの者》

●ペルセウス…ギリシャ神話の英雄。ゼウスとダナエ(人間。アルゴス王の娘)の子であり半神半人。ゼウスは黄金の雨に化けてダナエと交わった。ペルセウスはゴルゴンのメドゥーサを退治し、海の怪物の生け贄にされていたエティオピア(アフリカのエチオピアとは別で中東にあった)の王女アンドロメダ(カシオペアの娘)を救って妻とした。アンドロメダはエレクトリュオン(ヘラクレスの母)、ペルシア王家の祖となるペルセスをはじめ7人の子をもうけた。ペルセウスは後に誤って祖父を殺したため、生地アルゴスを去ってティリンス (ヘラクレス誕生の地)を支配した。

  
ベンヴェヌート・チェッリーニ「ペルセウス像」はフィレンツェの回廊“ロッジア・ディ・ランツィ”を代表する名作

●アンドロメダ…エティオピア王ケフェウスと王妃カシオペイアの娘。カシオペイアは「海のニンフよりも自分(もしくは娘アンドロメダ)は美しい」と自慢したため、怒った海神ポセイドンが海の怪物ケートスを放った。恐怖し神託を受けたケフェウス王は娘アンドロメダを生け贄として海岸の岩に鎖で繋いだが、通りかかった英雄ペルセウスに救われた。

  危機一髪!フランソワ・ルモワーヌ「ペルセウスとアンドロメダ」

●ヘラクレス…ギリシャ神話中最大の英雄。ゼウスとアルクメネ(勇者ペルセウスの孫)の子で半神半人。ゼウス率いるオリュンポスの神々が、巨人族ギガスの大軍と戦った『ギガントマキア』において、神には殺せないギガスを倒すために、ゼウスが人間の女性との間にヘラクレスを誕生させて味方につけた。ヘラクレスはミュケナイ王エウリュステウスから12の難業を命ぜられ、ネメアのライオン退治、レルネー湖のヒュドラ退治、黄金の林檎(ガイアがゼウスとヘラの結婚祝いで贈ったもの)の獲得、冥界の番犬ケルベロスの捕獲など武勇伝を持つ。妻の嫉妬により非業の最期を遂げる。

  ディズニー『ヘラクレス』(1997)

●ヘベ…ゼウスの子。青春の女神。母はヘラ。ヘベはすべての女神の中で最も美しいといわれる。英雄ヘラクレスが神に加わった際、ヘラは人間時代のヘラクレスに意地悪をした後ろめたさから、最愛の娘ヘベをその妻として与え、義理の息子とすることで和解をアピールした。

●ケイロン…半人半馬のケンタウロス族で射手座となった賢者。父はクロノス。ケイロンはアポロンから音楽、医学、予言の技を、アルテミスから狩猟を学んだ。そしてヘラクレスやカストルら英雄たちに武術や馬術を教え、アキレウスやイアソンの教育係となり、アスクレピオスには医術を授けた。一般にケンタウロス族は野蛮で酒好き、好色な一族として知られるが、ケイロンはその例外であり、薬草を栽培し病人を助けながら暮らした。やがてケイロンはヘラクレスとケンタウロス族の争いに巻き込まれ、ヘラクレスの放った毒矢が誤って命中してしまう。ケイロンは苦痛から逃れるために、不死身の能力をプロメテウスに譲って死を選ぶ。その死を惜しんだゼウスが星座にした。

  ジャン=バプティスト・ルニョー「アキレウスを教えるケイロン」

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《クレタ島にゆかり》

●ミノス…ゼウスの子。クレタの王。母はエウロペ(ヨーロッパの語源)。エウロペはフェニキア(現レバノン)王の娘だったが、白い牡牛(牡牛座)に姿をかえたゼウスにクレタ島までさらわれ、そこでミノス、ラダマンテュス(ヘラクレス出産後のアルクメネと再婚)を生んだ。ミノスはパシパエ(太陽神ヘリオスの娘)と結婚しアリアドネが生まれる。また、パシパエはポセイドンの呪いで牡牛との間にミノタウロスを産む。ミノスは最古の海軍を組織し、海賊を追い払ってエーゲ海域を制覇、クレタに法を制定し善政をしいた。死後は冥界の裁判官に。

●テセウス…ギリシャの国民的英雄。伝説的アテナイの王。名工匠ダイダロスの建てたクレタ島の迷宮ラビュリントスで人身牛頭の怪物ミノタウロスを退治し、ミノス王の娘アリアドネの助力で脱出に成功した。その後、古代ローマ建国の父ロームルスと共にアテナイを建国。アマゾンの女王ヒッポリュテをさらって妻とし、カレドニアのイノシシ狩りや、「黄金の羊皮」を探すアルゴ号の遠征にも参加した。晩年はペルセポネに恋して冥界に長居した結果、アテナイの王位を奪われ、スキュロス島に身を寄せる。最期はテセウスの権力欲を警戒した現地の王に崖から突き落とされ、あっけなく死ぬ。
※テセウスはクレタ島から戻る際、船に生還を示す白い帆を張り忘れ、出発時の黒い帆のままにしていたため、父であるアテナイ王アイゲウス(Aegius)は息子が死んだと勘違いし、絶望から海へ身投げした。この故事からアイゲウスの海、エーゲ海(Aegean Sea)になったとされる。
※息子ヒッポリュトスはテセウスの後妻ファイドラから恋されるが、これを冷たく拒絶。悲嘆にくれたファイドラは「ヒッポリュトスが力ずくで自分を奪おうとした」という偽りの遺書を夫テセウスにのこして自殺する。遺書を信じたテセウスは、息子に天罰を与えるようポセイドンに祈り、馬車の事故でヒッポリュトスは落命した(死の直前に和解)。

  「テセウスとミノタウロス」(パリ、チュイルリー庭園)

 
映画『インモータルズ』ではオリュンポスの一員になったテセウスが、ティタン神族と天空で戦う

●ダイダロス…ミノス王に命じられてクレタ島の迷宮(ラビュリントス)を造ったあと、迷宮の秘密を漏らすことを恐れた王によって、息子イカロスと共に塔に幽閉された。父子は人工の翼を作って逃亡を図るが、イカロスは太陽に接近しすぎて、 翼の蜜蝋が溶け墜落死してしまう。

  ジェイコブ・ピーター・ゴーウィ「イカロスの飛行」

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《伝説の冒険とトロイア戦争》

イアソンとアルゴ船の冒険…ギリシャ東部イオルコスの王子イアソンは、アルゴ船の冒険で知られる英雄。イアソンの父は、イアソンが子どものころ叔父ペリアスに王位を奪われ、イアソンはケンタウロス族の賢者ケイロンのもとに送られ養育された。大人になったイアソンは叔父ペリアスに王位の返還を求めるが、黒海東端の国コルキス(グルジア)にある金の羊毛を持参するよう要求される。イアソンはギリシャ全土から50人の勇者をつのり、隊長となって巨船「アルゴ」(アルゴーは“快速”の意)でコルキスに向かう。この50人は「アルゴナウタイ」と呼ばれ、メンバーにヘラクレス(半神で怪力の英雄。水汲みに行ってさらわれた随者を探すため序盤で下船)、オルフェウス(アポロンに竪琴を与えられた音楽家。毒蛇に咬まれて死んだ妻エウリュディケを冥界から連れ戻そうとする)、テセウス(ミノタウロスを退治)、ペレウス(アキレウスの父。婚礼時の騒動がトロイア戦争に繋がる)、カストル&ポルックス兄弟(双子座の兄弟)などがいた。イアソンは様々な危険を乗り越えて金羊毛を手に入れ、コルキスの王女メデイア(太陽神ヘリオスの孫)を伴って帰国する。だが、イアソン不在の4カ月間に、叔父ペリアスはイアソンの父を自殺に追い込み、母も悲しみのすえに死んでいた。イアソンはペリアスを殺して復讐をとげる。その後、イアソンはメデイアと結婚する約束を破ってコリントス王の娘と結婚したことから、メデイアはイアソンの子どもたちを殺して逃げ去った。イアソンは非業の死を遂げたという。
※かつて夜空に「アルゴ座」があったが、あまりに巨大な星座だったため、18世紀に天文学者ラカーユが、帆座、とも(船尾)座、羅針盤座、竜骨(りゅうこつ、船の背骨)座の4つに分割した。

  片側22名の漕ぎ手がいるアルゴ船

トロイア(トロイ)戦争…ホメロスの詩「イーリアス」に記す。テッサリア地方の王ペレウスと海の女神テティス(アキレウスの母)の婚礼には、「争いの女神エリス(ニュクスの娘)」以外のすべての神々が招待された。これを恨んだエリスは、「最も美しい女神へ」と記した黄金のリンゴを婚礼の席に投げ込んだ。それをヘラ(ゼウスの妻)、戦の女神アテナ(同娘)、愛の女神アフロディテ(同娘)の3女神が奪い合ったため、ゼウスはトロイア(トルコ北西部イリオス)の王子パリスに判定を命じた。女神たちはパリスを買収しようとして、ヘラは権力のある支配者にするといい、アテナは軍事において偉大な名声を与えるといい、アフロディテは世界で一番美しい女性をめとらせるといった。パリスはアフロディテを選び、メネラオス (伝説上のスパルタ王)の王妃、究極の美女ヘレネとの結婚を望んで彼女を誘拐した。ヘレネ奪還のため、メネラオス王の兄アガメムノン(伝説上のミュケナイ王)を総大将とするギリシア軍が編成され、トロイア戦争が勃発する。ヘラとアテナはギリシャ側に、アレスはトロイア側に味方した。ギリシャ軍は10年間の包囲戦を行い、最終的に巨大な木馬に兵を潜ませるというオデュッセウスの奇計を用いた。トロイア側で木馬を怪しんだ神官ラオコーンはポセイドンの放った大蛇に襲われ、同じく警戒を訴えた予言者カッサンドラは、アポロンから失恋の腹いせで「予言を誰も信じない」という呪いをかけられており耳を傾けてもらえなかった。かくして木馬は“戦利品”として城内に引き込まれトロイアは陥落した。

  トルコ・チャナッカレ(トロイ近郊)の木馬。映画『トロイ』で使用。

【後日談】トロイア戦争の出征前に、ミュケナイ王アガメムノンは口を滑らして狩の女神アルテミスを侮辱してしまい、その代償として愛娘の王女イフィゲネイアを生け贄に捧げた悲劇が起きた。王女を溺愛していた王妃クリュタイムネストラは夫を恨み、夫の出征中に情夫アイギストスと親密になる。終戦後、故国に凱旋したアガメムノンは連れ帰ったトロイア王女カッサンドラとともに、王妃クリュタイムネストラとその情夫アイギストスの手で暗殺された。イフィゲネイアの妹エレクトラと弟オレステスはミュケナイを脱出。オレステスは成長後に父の仇であるアイギストスと実母を殺害し、さらにトロイア戦争のきっかけとなった美女ヘレネを「家族崩壊の原因を作った不義の女」として殺す(ヘレネは誘拐の被害者だが…)。また、アキレウスの息子ネオプトレモス(トロイア王プリアモス及びヘクトルの遺児を惨殺)に決闘を申し込み殺した。
ヘレネ…世界一美しいとされるゼウスの娘。母はレダ。ゼウスは白鳥に化けてレダに接近した。兄にディオスクロイ(カストルとポルックス)兄弟、姉にクリュタイムネストラがいる。ヘレネはメネラオス(アガメムノンの弟)の妻となったが、トロイアの王子パリスにさらわれ、トロイア戦争の原因となった。

  ギュスターヴ・モロー「トロイの城壁のヘレネ」

●ラオコーン…トロイの神官。ギリシア軍の「トロイの木馬」をトロイの城内に運び込むことに反対した。ギリシャの味方のアテナは怒ってラオコーンの両目を潰す。彼はなおも「木馬を焼き払え」と主張したため、アテナは2匹の大蛇を呼び寄せて ラオコーンとその2人の息子を襲わせ、息子たちをかみ殺させた。

  ヴァチカン美術館のラオコーン像。大傑作!

●アキレウス…トロイア戦争におけるギリシャ軍の英雄で、ホメロスの叙事詩「イーリアス」の中心人物。テッサリア地方の王ペレウスと海の女神テティスとの子。母により冥界の川に逆さまに浸されて不死身となったが、かかとだけは母が掴んでいたため浸されずに残った。アキウレスはトロイアの総大将ヘクトルを討ったが、トロイアの王子パリスに弱点のかかとを射られて絶命。ギリシャ軍は17日間にわたって英雄の死を悼んだ。

  アキレウスに扮するブラッド・ピット(映画『トロイ』)

●オデュッセウス(ユリシーズ)の冒険…ギリシャ西岸イタケ(イターキ)島の支配者。アテナに守護されたトロイア戦争の知将でトロイの木馬作戦を立案した。ホメロスの叙事詩「オデュッセイア」(前8世紀成立)の主人公で、10年間の長期戦となったトロイア(トロイ)戦争と、陥落からさらに10年を要した帰国に至る冒険が記されている。
トロイア戦争の帰途、オデュッセウスと部下たちは「一つ目の人食い巨人ポリュフェモス」を退治したが、巨人の父が海神ポセイドンであったため、怒ったポセイドンに嵐を起こされ海をさまようことになる。オデュッセウスは故郷の目前で遠方のアイオリア島(風神アイオロスの島)に吹き戻され、イタリア西海岸のアイアイエー島では妖艶な魔女キルケに部下が魔法で豚にされた。美しい歌声で船乗りを海にひきこむセイレンの海域を通るときは、体を帆柱に縛りつけ耳栓をして切りぬけたが、6本首の怪物スキュラのいる海峡では6人の船員が食べられた。その後、さらなる悲劇が襲う。イタリア南岸にあるトリナキエ島で休息した一行は、無風で一ヶ月も出航できず食料が尽きた。空腹のあまり部下が太陽神ヘリオスが所有する立派な牛を殺して食べてしまい、やっと出航できた船は怒り狂ったヘリオスの頼みを聞いたゼウスによって稲妻で粉砕された。海に投げ出された彼らは怪物カリュブディスにも襲われ、オデュッセウスは流木にしがみついて九日間も漂流し、部下は全員死亡した。

 
幻想ロマン画の巨匠、英国のジョン・ウィリアム・ウォーターハウスが描いた「ユリシーズとセイレーン」

オデュッセウスは海の精霊カリュプソ(アトラスもしくはオケアノスの娘)が住むオーギュギア島(マルタ)に流れ着き、彼に一目惚れをしたカリュプソに7年間もひきとめられた。カリュプソはゼウス(アテナとも)から恋を諦めるよう告げられた際、女神と人間の男との愛を認めない神々の嫉妬深さを批判し、ゼウスに引き裂かれた豊穣の女神デメテルとイアシオンの恋を挙げた。オデュッセウスはカリュプソから「夫になれば不死にする」といわれるが誘惑を振り切る。カリュプソは悲しみながらも帰国を応援し造船を手伝った。アテナとカリュプソの支援を受け故郷に近づくオデュッセウス。面白くないのはポセイドン。最後の妨害で嵐を巻き起こし、またしても船を破壊した。海の女神レウコテアはオデュッセウスに同情し、絶対に溺死しない魔法のスカーフを授けて命を救う。裸ひとつでスケリア島(ケルキラ島)に漂着した彼は、純粋無垢な王女ナウシカアに救われ王宮で世話になる。ナウシカアはオデュッセウスに好意を持つが故郷で妻子が待っていることを知り、身を退いて船で送り出した。

こうしてオデュッセウスは出征から20年ぶりにイタケ島に帰還した。夫の帰りを待ち続ける妻ペネロペの周囲には、「あなたの夫はもう帰ってこない」と言い寄る求婚者がたくさんいた。オデュッセウスは弓矢で彼らを皆殺しにし、夫婦は再会を喜んだ(『オデュッセイア』は後世の文学者に多大な影響を与えた古典中の古典であり、物語の知識そのものが西欧文化の基本的教養のひとつとなっている)。
※イタケ王オデュッセウスと竪琴のオルフェウスを間違えないように。


  妻に言い寄る者をギッタギタのメッタメタにするオデュッセウス

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《番外編〜神話の語り部》

●ヘシオドス…紀元前8世紀前半(紀元前740〜前670年ごろ)の古代ギリシアの詩人で、ギリシア神話の宇宙生成物語。1022行の叙事詩『神統記(しんとうき)』の著者。原題は「テオゴニアー(神々の誕生系譜)」。ウラノス、クロノス、ゼウスの三代にわたる政権交代劇を描き、ギリシア神話の宇宙観の原典となった。

●ホメロス…紀元前8世紀ごろのギリシャの詩人。盲目の吟遊詩人としてギリシャ各地を遍歴した。二大英雄叙事詩「イリアス」「オデュッセイア」の作者とされる。古来最高の詩人。

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《黄道十二星座・豆知識》

やぎ座…変身に失敗した牧神パンの姿(上半身はヤギ、下半身は魚)がゼウスにバカウケ、その姿のまま星座にしてしまった。

 

みずがめ座…トロイの美少年ガニメデスが水瓶を持つ姿。羊飼いだったが美しさに目をゼウスが、鷲に化けて天上界にさらい酒宴のお酌係に。

 

うお座…愛と美の女神ビーナスと息子キューピットが怪物(テュポン)から逃げるため2匹の魚になり、はぐれないよう互いの尾を結んでいる。

 

おひつじ座…天を翔ける金色の羊。生贄に選ばれた2人の子ども(兄妹)を助け出し、背中に乗せ舞い上がったが、妹がめまいを起こして海に落ちたため後ろを振り返っている。

 

おうし座…ゼウスが人間の王女エウロパ(ヨーロッパの語源)をさらう為に、純白の雄牛に化けた姿。エウロパは雄牛の優しげなまなざしに心を許し手中に落ちた。

 

ふたご座…スパルタ王妃レダの息子カストルと弟のポルックス。厳密には父が異なり、弟だけがゼウスの子で不死。弟は死んだ兄と不死を分かち合いたいと願い、天にのぼった。

 

かに座…ヘラクレスが海ヘビ(ヒドラ)と戦った時、親友の海ヘビ君を助けようとしてヘラクレスに踏み潰された蟹。友情を讃えられ星座に。

 

しし座…凶悪人喰いライオン。弓も棍棒も効かず、ヘラクレスに絞め殺された。この「ネメアーの獅子」の毛皮に包まれた者は不死を授かる。

 

おとめ座…正義の女神アストレイア。正義を大切にしない人間たちに失望し、地上を去り天に昇った。

 

てんびん座…正義の女神アストレイアの持つ天秤で、天国へ行く者と、地獄へ行く者とを振り分けている。


 

さそり座…狩人オリオンが自惚れて世界最強を名乗ったことから、ゼウスの妃ヘラが放った刺客。さそり座は最古の星座のひとつで、B.C.1200年頃の絵に早くも登場。

 

いて座…ケンタウルス族の賢者ケイロン。ヘラクレスやアキレウスの先生。蠍(さそり)のすぐ横で、弓の狙いを蠍の心臓につけている。

 


以上、最後まで読んでいただき有難うございました!ギリシャ神話を知れば西洋文化・芸術をより楽しめます♪




【おまけ〜北欧神話】
北欧神話は「ワーグナーのオペラ」「進撃の巨人」「マーベル・シリーズ」など様々なサブカルの元ネタであり、知っておくと楽しみ方が増えるので簡単にまとめました→

天地がない太古の時代、熱風と霜がぶつかり、溶けた滴から巨人ユミルが誕生した。ユミルの汗から男女の巨人が生まれ、ユミルが塩辛い石をなめると人間(ブーリ)が出てきた。巨人の娘とブーリの息子ボルが結ばれ、アース神族となる主神オーディンら3人の男子が生まれる。3人はユミルを殺し、その亡骸から大地を、血から海を、骨から岩を、髪から草を、頭蓋骨から天を、脳みそから雲を創造した。

アース神族は世界の中心のアースガルズ(アスガルド)に住み、そこには巨大なイグドラシル=トネリコの大樹がそびえ、枝は天に達していた。3本の根はオーディンらアース神族と、巨人族と、冥府ニブルヘイム(ニーベルング)の世界に繋がり、それぞれに泉があり、3つの泉の運命の女神3人が、神々と人間の運命をさだめた。

世界や人類を創造した最高神オーディンは、片目と引き換えに知恵を授かった。オーディンは8本足の馬「スレイプニル」、槍の「グングニル」、黄金の腕輪「ドラウプニル」を宝として持つ。オーディンは地上の女神3人を妻にもち、大地の女神ヨルズとの間に雷神トール(ソー)が生まれた。トールはアース神族きっての力持ちであり、どんな敵も必ず倒して手元に戻る魔法の槌ミョルニルを駆使。雷鳴はトールの戦車の音といわれる。ちなみに英語のThursday(木曜日)は「トールの日」の意味で、Friday(金曜日)は美の女神フレイヤを讃えた「フレイヤの日」の意味。アース神族のトールやバン神族のフレイヤらは、巨人族と壮絶な戦いを繰り広げていく。

※悪の精霊ロキはオーディンの義兄弟。ロキは神ではなく巨人族であり、悪戯で災いを起こす。冥府の女王ヘル(ヘラ)はロキと女巨人の娘。世界を支える聖なるトネリコの木「イグドラシル」の3本の根のひとつの下に住む。オーディンによって死者の国ニブルヘイム(ニーベルング)の支配権を与えられた。冥府ニブルヘイムは彼女の名のヘルとも呼ばれ、英語のhell(地獄)となった。




いらすとやさんの可愛いゼウス(^^)




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