★『ハウルの動く城』はなぜ素晴らしいのか



※ネタバレせずにコメントするのは不可能なので、観る予定がある人はまだ読まない方が良いデス。r(^_^;)

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「面白かったけど、何か物足りない」こんな意見をあちこちで聞く。しかも、この“物足りなさ”は決定的なもので、それが“宮崎アニメ”というブランド作品に感動を求めて足を運んだ観客を戸惑わせている。辛口の評論家は「支離滅裂、映画として成立していない」とバッサリ。劇場を出た僕の感想は「何もかもが唐突」「観客
チョ〜置いてけぼり」これに尽きた。ただし!それは当初の話で、今は本当に素晴らしい映画だと思っている。順を追って書こう。

霧の中から徐々に城が巨大な姿を現す冒頭シーンはツカミOK!大半の観客は、あれでいきなり宮崎ワールドにトリップしたと思う。続いて主人公の“地味っぷり”が紹介された後、ハウルとの空中散歩で心地よい浮遊感を味わい「嗚呼、こういうのを見られて幸せだ…待っててよかった」とウットリ。ソフィーがお婆さんに
なってウロウロする場面に笑い、街を出た彼女が夕暮れの丘を登っていくところで、背景美術の美しさや風の音の臨場感に驚嘆。カブのけな気さにキュンとなり、城に入る場面では未知なる世界への得も言われぬ緊張感を味わった。
“新しい家族”と出会った後は、ベーコンエッグにヨダレを垂らし、「どこでもドア」にワクワクし、マルクルとの「私なら大事なものを隠しておく」という自然な会話や演出に、“『宮崎アニメは良くて当然』というプレッシャーの中、ホントに良い仕事をしてるなぁ!”と感心しまくり。僕の頭の中には“宮崎さんはスゴイ!!”と感嘆符の山が築かれていった。
ところが、サリマンと会ったあたりから、この山が疑問符の山に変わっていく…。

「なんで戦争してるの?」「なぜ荒地の魔女はソフィーに魔法をかけたの?」「どうしてハウルは魔法を解かないの?」「黒い鳥やら魔王やらよく分からない」「帽子屋は潰れたの?」「ソフィーは何で一度城を壊したの?ハウルに戦いを止めさせる為に“守るべきもの”を失くそうとしたから?」「って思ったらまた別の城を作った!」「なぜ心臓を出したのにハウル生きてんの?」「“未来で待ってて”のタイムスリップは必要?」「カブの正体、あれだけ引っぱいといてそれだけ!?」「“じゃあ馬鹿げた戦争を終わらせましょう”…って、めっさ
簡単!」etc。
ちょっと考えただけでも、ツッコミどころ満載だ。一番仰天したのは前フリなしの「あなたを愛しているの!」の雄叫び。愛してるって…そんな気持ちになる過程は出てきてないじゃん!好感を持っていたのは分かる。
でも、好感が愛に変わる描写がないのに、あんな風に叫ばれても全く説得力なし!

…と、ここまで批判めいたことを書いてきたが、これら全部を許せてしまうほど「良かった」と思う点を今から書くッ!
最初に「何か物足りない」としたもの。僕はその正体が、物語の発端である「ソフィーにかけられた魔法」が何の説明もないまま(少なくともセリフの上では)終わってしまったことだと思った。劇中で彼女は何度も若返ったり老けたりする。寝ている時は若い。大自然の中にいる時も若い。どうやら、心が無防備になってる時に若返るというのは分かったが、そこから宮崎さんが何を伝えたかったのかは、漠然としたイメージがあるだけで、ハッキリと言葉にできなかった。

そんな時に『a tempo』さんの11月29日の雑記帳「ハウルの動く城/所感その5」(byちゃこりんさん※紹介許可を有難うございます!)を読んで目からウロコが落ちた。1枚や2枚のウロコではない。手元のキーボードが埋まるほど落ちまくった!そこには『ハウルを想う時や眠っている時のように心が開放されている時は若返り、かたくなに心を閉ざすと老婆になる。つまり、ソフィーがかけられた魔法は“本当に90歳の老婆に
なる魔法”ではなく、ソフィーの内面が容姿にあらわれる魔法
だったのでは。だから魔法を解くにはソフィー自身が心の持ちようを変えるしかなかった』とあった!確かに、好きなハウルのことをサリマンの前で話すソフィーは若返っていたし、高原をデートしている時も若かった。だから荒地の魔女は「私には解けない魔法。ハウルに解いてもらえ」と言っていたのか!最後までハウルが呪文で魔法を解いてくれるシーンが出てこなかったのは、“彼が魔法を解く”のではなく、ハウルを愛して心を開放することで“自ら解かれる”から「ハウルに解いてもらえ」だったんだ!

映画の当初から社交的な妹や派手な母親と比べて、どこか自信なさげだったソフィー。髪がブロンドじゃなくなったと騒ぐハウルに「私なんか一度も美しかったことないわ!」と叫ぶソフィー。コンプレックスを持っていた18歳の彼女は、老婆になったことをきっかけに、もはや外見にこだわる必要がなくなり、結果的にありのままの自分を表現することで、マルクルやカブも含めて周囲のみんなに愛されていく(ダイアナ・ウィン・ジョーンズの原作では、ハウルが90歳のソフィーに恋の告白をするらしい)。仕舞いには自分が魔法をかけられていることも忘れて荒地の魔女を救い、ハウルの心臓をめぐり「お婆ちゃん、お願い」と抱きしめる優しさを見せる。外見に囚われない彼女だから、怪物化したハウルにもキスできる。
本当に帽子屋を継ぎたいのか、自分が何をやりたいのか分からず悶々としていた主人公が、最後には
自分も世界も全てを受け入れ、真に心を開放して新しく人生を歩み出し、ジ・エンド。

やっと物語がつながった。なんて素晴らしいメッセージだったのだろう!!

P.S.荒地の魔女、素敵な魔法をかけた良いヤツじゃん!(*^o^*)


【追記】

(その1)この映画は反戦映画ではなく、ただ物語の背景に戦争があるに過ぎないと思うけど、少しその辺に触れたい。宮崎さんは、最後まで戦いの理由を書かなかったことや、わざと終戦の呆気なさを描くことで、“どんな理由であろうと戦争は馬鹿げたロクデモナイもの”と主張していると思う。印象的だったのは「あれは敵?味方?」「どちらでも同じことさ…人殺し共め」というやり取り。これは従来のアニメの戦争描写を突き抜けており、特筆すべきものだ!ただ、いかんせん、ハウルがそこまで戦争を憎み、王家を侮蔑する理由が何一つ描かれていない。ソフィーの「愛している」と同じで、そこに至る過程がないとセリフに真実味が加わらない。これは残念だった。

(その2)ちゃこりんさんは『サリマンの“戦争を終わらせましょう”は、隣国との戦争だけをさすのではなく、ハウルとの戦いを止め、ハウルの独り立ちを認めることもさす』と解釈されていました。弟子のハウルに去られた後のサリマンは、王宮の奥で少年時代のハウルに似た美形の人形に囲まれ暮らしていて、ラストでは
人形の数が増えていた。『そんなサリマンの姿に物悲しさを感じます』とも。う〜む、深いッス。

(その3)女性のサイト読者の方から、「“愛している”は唐突ではない」というご意見を頂きました。
『ソフィーがなぜハウルを唐突に愛したのか、カジポンさんには謎だったようですが、実は私は、この点に
ついては痛いほどよく分かりました。地味でパッとしない人生を送っているソフィーは、偶然ハウルと知り
合い、変な奴らに追われ、逃げる為に魔法で空を散歩します。きっと今までにこんなワクワクドキドキした
ことはなかったでしょう。初めて経験する素晴らしいひととき。誰も自分に与えてくれなかった特別なひと
ときを、簡単に与えてくれたハウル。しかも美しくて輝いてて。私は観ててその瞬間にソフィーと一緒に
ハウルに恋をし、こんな気持ちを与えてくれたハウルの為なら、何だって出来る、って思いました。
恋と同時にそれは感謝でも尊敬でもあり、愛だった気がします。このシーンで既に感激しちゃって涙が
ポロポロこぼれたんですよ。とにかく大好きな映画です。何度観ても泣きそうです。』
※な…なるほど!ナットクです!!ますますこの映画が好きになりました!!(>_<)

(その4)『Very Very Glad Day』のハルさんのコメントを紹介!
『魔法をかけられたソフィーが、今度は逆にハウルに「愛している」という呪文をとなえて、結果的にハウルの呪いを解いてしまう…まさに「恋は魔法」。恋愛映画では、愛し合ってゆく過程を事細かに見せていますが、あれはウソで、実際人を好きになるときは「突然」だし、たいてい「理由なんかない」。自分でも何で
好きになったのかサッパリわけが分からない。当然他人にもわからない。宮崎さんが、2人が愛しあって
ゆく過程をいちいち描かなかったのは描く必要がなかったからでしょう。
とにかく、突然恋に落ちた、
っていうことが重要なわけなんです。』
※ソフィーもハウルの呪いを解いていたっていう表現、めっさ良いと思いますッ!!

(その5)サイト読者のtomockyさんからのコメントを紹介!
見終わった瞬間の感想は「これってジブリの最高傑作じゃないの!?」ということでした。テーマ性と娯楽性が両方盛り込まれていたからです(『ラピュタ』は面白いだけ、『千と千尋』は分かりづらい)。『ハウル』の最も重要なメッセージは「自由」だと思います。つまり、「自由」であることと、他者を自由に操ることは違う」ということです。
『ハウル』のキャラの多くが自由を求めています。自由を維持するのに必要なだけ名前を持つハウル、ハウルとの契約から逃れたいカルシファー、呪いから解き放たれたいソフィーやカブ。おそらく荒地の魔女も、かつて自由を求めたのでしょう。この映画で唯一自由なのは、圧倒的な魔力を持つサリマンです。
しかし、サリマンは強大な力を持つがゆえに、他者を自由に操る方へと向かってしまった。戦争はサリマンが裏で糸を引いていました(簡単に止めさせたように)。そのサリマンから自由になりたいと願ったハウル少年は、悪魔との契約で得た力で自由を勝ち取るけど、彼もまた「力」におぼれて自分だけの為に魔法を使うようになってしまう。「どちらでも同じことさ、人殺しどもめ」とハウルは言うけれど、自分も軍艦に攻撃するという人殺しと大差ない行為に出てしまう…。※腕が悪魔化していたことから、悪魔の力に侵され攻撃的になったのでしょう。
「圧倒的な力でもって、“自由”というスローガンを掲げ、他者を自由に操ろうとする」これ、現実世界にもありますよね。強大な武力で他国民の“自由”の為に戦争し、好みの政権を作ろうとする某大国とそっくりです。
『ハウル』ではソフィーが、自分の呪い、ハウルの呪い(悪魔との契約)、恐怖さえも受け入れることで戦いを止めさせ、ハッピーエンドへと向かいます。現実世界でも、自分と他者両方の恨み、恐怖、怒りといったものを全て受け入れることで、報復の応酬となっている戦争は止められる…そんなメッセージを感じ取りました。イラク戦争を理由にアカデミー賞授賞式(『千と千尋』)に出席しなかった宮崎監督が、戦争を背景としたストーリーで反戦メッセージなしの映画を作ることはないと思います。

(その6)サイト読者のNさんからのコメントを紹介!
「なぜ戦争しているのか?」の「なぜ?」には特に意味はないと思います。「どこでもドア」に黒いトビラがあって、そこにあわせると戦場につながるということは、世界のどこかで常に戦争がおきてるというとこだと思いました。港町やきれいな湖、そういう街があるすぐそばに黒い、血みどろの世界がこの世界にはつねにあると。 
んで、簡単に終わらせられるということは、あの魔法使いのように、世界の本当の権力を握っている人(王ではないところがポイント)が一言「やーめた!」といえば、簡単に終わるようなシロモノなんだと。いろんな打算やわがままで戦争を起こしているだけで、ホントは簡単にやめられるものなんだよ!と私は受け取りました。
そして、とても印象的だったシーン。ソフィーが荒れ地の魔女からハウルの心臓を返してもらうとき。「やだ!」と言って返そうとしない魔女に、ソフィーは「大事なモノなの」と優しく話し、お願いして、抱きしめた。魔女が勝手にとったのだから、怒って無理矢理取り返してもいいのに、自分にとってどれだけ大切なモノか言葉で話して分かってもらって、納得してもらって、返してもらう力づくではなく。これが、私は世界をマトモにする答えだと思いました。

(その7)『原始の花嫁』のKOWAさんのコメントを紹介!
城はハウルの心臓の魔力で出来ており、彼の心のあり方を映し出した物だと僕は捉えています。遠目からだと大きくて不思議な動く城。でも近くで見るとお化けのようなお城。中の乱雑さは酷いもので、ソフィーは「今日から働く掃除夫です」と頼まれもしないのに掃除を始めます。ハウルは「大概にね」と言うだけで止めませんが、ハウルの髪の呪いが解け黒髪になった時、「大概にって言ったじゃないか!」とハウルは泣き叫びます。
彼は心の奥底では酷く孤独な、一人ぼっちの男の子です。だから人には精一杯強がろうと城を大きくしようとしていますが、中はぐちゃぐちゃ。つまりソフィーが「掃除をする」ことは「ハウルの心を丸裸にしていく」ことではないでしょうか。
彼の寝室が宝石に囲まれたきらびやかな場所なのに、怪物の姿のハウルは玩具がギッシリ埋め込まれた洞窟で一人うずくまっていました。あの洞窟はハウルの一番弱い奥底の部分、心の洞窟と言えないでしょうか。このシーンが素晴らしいのはソフィーがハウルの心に踏み込んでいって、分かれ道があるというのに迷わずハウルの元へいったという事です。ここで涙が出ました。
そうやって掃除をしていき、どんどんハウルの心を綺麗にしていくソフィーに対してハウル本人も模様替えをしたりすることでソフィーに答えようとします。つまり、あの家に二人で暮らすことが二人の愛だとおもうのです。だからこそあの「愛してる!」はちっとも不自然じゃ無いと思いました。
ソフィーが城を一度破壊するのは、余計な物を一切排除して、裸の心でハウルに会いに行こうとしたのでは。最後にハウルを助けた時には薄っぺらな板一枚と足だけです。僕はこのハウルの動く城で心理描写が足りないなんてちっとも思いません。
一番汚い所(怪物になった自分)も、一番見て欲しくない所(おばあさんの自分)も全てさらけ出しても「ソフィーはきれいだ」と言うハウル。なんて美しい愛だろう。そんな清々しい気持ちで一杯になる素晴らしいラブストーリーでした。



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