トップ・ページや掲示板で3回に分けて表明した事件への自分の見解を、ここに一括掲載しました。転載自由です。
〔 イラクでの人質事件について〜3人を見殺しにするな 〕
2014.4.9〜4.17
★イラクの人質事件について/掲示板から(4月12日発表) 〔今までの議論のポイントを分かりやすく整理します〕 ※撤退派、撤退拒否派、両者の共通点 ・卑劣なテロ行為には断固反対 これは同じ。違うのはここから。 (撤退派) ・国の威信は今後取り戻せるが、失った命は二度と取り戻せない。 ・国際的な合意がない派兵そのものが間違っていたんだから撤退すべし。 (撤退拒否派) ・テロに国家が屈すると模倣犯が続出する。テロが有効という前例を作ってはならない。 ・3人は軽率。その行動は本当に「今」必要なものだったのか? 僕は拒否派の意見を認めたうえで、なお撤退派の「見殺しにはできない」を支持します。“取り戻せるもの”と“取り戻せないもの”を考えれば、後者を選択するべきだと思ったからです。 「すべてに優先されるのが人命の尊重だ」と考えていますし、また今回の場合では、イラク戦争をめぐって国際世論が分裂する中、国連を軽視し見切り発車で自衛隊を派遣した日本にも非があると思っているからです。(自衛隊が人道支援の為に来たとイラク人すべてに理解されているか疑問) 他にも思うところがありますので、以下、拒否派の代表的な二つの意見について反論します。 ●テロに国家が屈すると模倣犯が続出する。テロが有効という前例を作ってはならない。 撤退拒否派の人は、なぜこの事件が起こったのか、その原因まで掘り下げて考えるべきだと思います。誘拐と脅迫は、それが有効であったか無効であったかにかかわらず、大国の圧倒的な軍事力に対抗するための代表的な戦術であり、今回の事件の結果にかかわらず、大国が武力で圧力をかけ続ける限り続出するでしょう。 また、一方でテロ犯は自らの大義を非常に重視します。彼らを突き動かすのは「民衆から支持されている」という信念です。拒否派の方が恐れている、「人命優先を表明した日本への擬似事件続出」ですが、世界に向けて“人命優先”を表明している国に、それを逆手にとって誘拐と脅迫を行なえば、どれだけ世論から糾弾されるかテロ犯だって想像できるでしょう。パレスチナの悲劇を引き合いに出すまでもなく、テロの続発を防ぐのは、軍を引き、銃口を下げて対話するしかないことは歴史が証明しています。米英のやり方では、死者の山を築き、第2、第3のビンラディンを生むだけです。 日本は憲法で『武力による威嚇又は武力の行使は、国際紛争を解決する手段としては、永久にこれを放棄する。』とうたっています。給水活動は武力の行使ではありませんが、同盟軍の米国はこの一週間にファルージャで600人ものイラク人を殺しており、いたずらに憎しみの連鎖を拡大しています。米軍との連携は、米軍の占領に協力することでもあり、明らかに憲法の「精神」に抵触しています。こんな国際的合意のない派兵を維持するために、3人を見殺しにするべきではありません。 ※日本政府は自衛隊派遣を人道支援と主張していますが、実際は武装した米兵をクウェートからイラクのタリル、バスラ両空港に3月中旬から何度も輸送しています。津曲航空幕僚長が記者会見でこう発言しているのに、マスコミが伝えるのは給水作業のことばかり。そして、これまたなぜかマスコミがファルージャの大虐殺を詳しく報道しないので、日本人には「自衛隊は出て行け」という要求がどんな感情からきているのか分かりにくくなっています。 以下のアルジャジーラの画像サイトを見れば、「米軍の仲間は全部敵」とするイラク人の焦燥感が伝わります。 http://english.aljazeera.net/NR/exeres/056E41CC-27F4-4FE4-B33E-F39160EA16A5.htm (ファルージャで殺された子どもたち。数字をクリックすれば画像が変わります。目を背けたくなりますが、僕たちは見るべきだと思います。なぜなら、これが現実だからです。そして、こうした写真をアラブの人々は皆が見ているのに、日米のマスコミは報道しないので国民は全く知らないということが、相互理解からほど遠い今の絶望的状況を生んでいます。相手の気持ちを考える想像力が働かない、これほど恐ろしいことはありません。) 写真を見るべきだと言っているのは、感情論に走っているわけではありません。日本人としてヒロシマ・ナガサキの写真を1人でも多くの海外の人に見て欲しいという気持ちと同じように、イラクの人もファルージャの現実を世界の人に見て欲しいと思っていると考えたからです。(もちろん、いかなる理由があれ、卑劣なテロは絶対に認めません!) 自衛隊の活動が“純粋な復興支援”であっても、今のファルージャで給水作業ができますか?マイクで「復興に来ました」と叫んでも、ファルージャで家族を失った人々は、“米軍の片棒を担ぐ敵”としか見なさないでしょう。たとえ一部にでもそういう人がいる限り、現地からは撤退すべきなのです。 武力では絶対にテロを封じ込めず、逆にテロの拡大を呼び込むだけ。問題の根本を対話で解決しない限り、今度は世界各地に滞在している日本人が誘拐の標的になるでしょう。繰り返しますが、戦力で劣り、追い詰められた抵抗者に残された最後の手段がそれだからです。(だからといって僕はテロを認めていません。現実問題としてそうなっていくと、事実を言っているのです) ●彼らが適切な自衛手段を採った上での取材や支援なら非難しないけど…。 40人を超える人質の中には「自衛のプロ」ともいえる警備会社の人も多いですよね。今のイラクで「適切な自衛手段」などあり得るのでしょうか?3人はヨルダン・ナンバーのタクシーではなく、イラク・ナンバーを使ったし、またファルージャの町をわざわざ迂回したうえでなお捕らえられたわけで、そこを非難するのは少し酷だと思います。(それに繰り返しますが、ファルージャ虐殺がなければ誘拐されなかったでしょう) それにしても、世論の動きが本当に怖いです。13回の退避勧告に反してイラクに入ったのは、NHK、民放各社、各新聞社の特派員が70人。誰だって人質になる危険性があります。でも、勧告を振り切り、命を張ってバグダッドで取材してくれる彼らがいるおかげで、僕らは現地の様々な情報に触れることができます。一部のマスコミがイラクから撤収した今、なおも残った彼らが被害にあった時に「迷惑かけやがって」と悪者扱いされやしないかと、心から懸念しています。 ※イラクで犯罪に巻き込まれたことを「バカ」「ドジ」「情報不足」「甘い」と繰り返す人は、亡くなった外交官2人(小泉首相は空港に迎えにも行きませんでしたが)をも侮辱している気がします…本当に。 ●3人は軽率。その行動は本当に「今」必要なものだったのか? 郡山さんについては僕もまだよく知らないのですが、少なくとも、今井君と高遠さんには「今」行動を起こす必要があったと思います。 自衛隊が米軍の劣化ウラン弾の危険性を世界へ伝えますか?サマワでも多くのウラン弾を米軍は使用しています。今井君はイラク国民のことはもちろんのこと、派遣される隊員が放射能に被曝することを深く心配していました。イラク各地で多くの人々が、リアルタイムで、放射能で苦しんでいるのです(米軍の帰還兵も含め)。その意味からも、彼が「今」必要だと判断したのは当然ではないでしょうか。 高遠さんは、バグダッドで以前にイラク人の友人から受け取った次の手紙を、自ら日本語に訳して日本政府に伝えていました。 『イラク人は日本人のことが大好きです。そして、日本からのNGOの人々は日本に対するさらなる良い印象を私たちに与えてくれました。どうか、この評判を落とさないようにして下さい。そして、私たちの破壊された国を再建するために民間の会社を送って下さい。一人の民間人として私が思うのは、軍隊を送ることは私の国イラクでの暴力を増長させるだろうということです』 『 もし、日本人が武器を持って来るというなら、私たちはそのような人たちを望んでいません。アメリカを助けるために来るのなら、来てほしくありません。私たちが外国人に望むことは、イラクの再建を手伝ってほしいということだけです。国連、そしてNGOの方を大歓迎します』 こうした現地の声を直接聞いている彼女が、「今」この瞬間にも路上で死んでいくストリート・チルドレンを救うべく、地道に援助活動をしていたのです。そこへ、国際的な合意もなく「自衛隊が派遣された」ことで、彼女は命を奪われようとしているのです。これを僕は「軽率だ」「立場が分かっていない」「残念だが見殺しにするしかない」とは、絶対に思いたくないし、彼ら3人の死の上に成り立つ平和を、子どもたちに誇れるとは到底思えません。 ※僕は掲示板にmichaelさんがお書きになった次の言葉を全面的に支持します! 『3人を解放するために自衛隊を撤退させたことで、日本を甘く見てさらにテロを行なう人がいたとしても、それは全人類のうちの、ほんのひとつまみです。大多数の人はテロ行為を憎んでいるはずですし、「要求を通すためにたやすくテロをする」という事はしないでしょう。シーア派・イラク・日本・アメリカ等どんな国家・宗派に属する人であろうと、皆「争いのない、平和な生活を送りたい」と願う“仲間”なのです。(略)平和を作るためには、どんなに不信感をもたれ、その犠牲になろうとも、全人類の良心を信頼し続ける覚悟と勇気が不可欠です。』 ※NGOのグローバル・ウオッチがバグダッド経由の警告文を受け取ったと発表。
『アルジャジーラにたいする川口外相の声明、外務省報道官の声明は、拉致グループを激怒させるに充分です。「これ以上、日本政府が自衛隊派兵の正当性を主張し、米軍と組んでイラク民衆を攻撃しようとするなら、人質解放の扉は閉ざされる危険性があるだろう」、との警告です。』 …“復興支援”という言葉が、いかに両者の間でギャップがあるかが分かります。 人質の今井君たちを紹介した「劣化ウラン弾禁止ヒロシマ・プロジェクト」のURL→http://www.nodu-hiroshima.org/ |
(追記 4月12日) それにしても、普段は“いい意見を書いてるなぁ”と感心している複数のサイトが、3人を『3馬鹿トリオ』『死んで当然』『無視無視』と切り捨てているのは衝撃的だった。そういった主張には4つの共通点がある。 1.テロが起きた原因を考えようとしない。 ※今回のケースに限定していえば、米軍のファルージャ大虐殺がなければ誘拐されなかったと僕は思っています(救急車や消防車まで攻撃する米軍は異常)。誘拐が多発したのはファルージャ後。あの無差別攻撃がなければ、3人は今頃それぞれの活動に汗を流していたでしょう。「覚悟」していたとしても、それは流れ弾のことであり、人質のことではないと思います。もしそれが予測されていたのであれば、十数カ国40人以上もの人が人質になることはなかったでしょう。3人の予測が甘かったのではなく、米軍が予測を上回る凶行をしたわけで、3人を批判することは理不尽だと思います。 2.米軍のイラク侵攻と占領政策の問題点に触れていない 。 フセインが失脚した後、これまでフセインに弾圧されていた人々が今度は米軍と戦っており、完全に占領政策は破綻しています。ファルージャは誘拐テロ犯を生みましたが、復興ビジネス目当ての占領はファルージャを生みました。 3.三人の活動内容を深く調べようとしない。 サマワでも現在進行形で被曝犠牲者が出ている劣化ウラン弾。物資だけでなく精神的な支援を求めているストリート・チルドレン。ブラウン管には流れないイラクの民衆の生の声。戦乱の中のイラクであっても、3人それぞれに「今」行く理由がありました。売名行為と呼ぶ人もいますが、事件がなければ彼らの活動に何人の日本人が気づいていたでしょう?僕は彼らのことを尊敬はしても、批判なんか絶対にできません。 4.国連軽視で国際的合意もない自衛隊派兵に何の疑問も感じていない。 自衛隊の派遣目的が「復興支援」だとイラク人一人一人に認識されていれば、邦人は狙われませんでした。理解される前に見切り発車で派遣されたことが、派遣の前からバグダッドで人道援助をしていた邦人を危険な目に合わしたのです。これも「全く関連がない」のでしょうか…。 (僕は全ての自衛隊派遣が悪だと思っていません。民間NGOの支援が困難で、かつ、完全に国連の指揮下に入っているならば、派遣に異を唱えません。お金だけ出せば良いとは思わない。そこは誤解なきよう。) どうか『3馬鹿は死ね』と書く前に、上記の4点に触れて欲しい。心からそう思います。 |
(追記2 4月13日)先日、人質となった高遠さんのHPが中傷の嵐で閉鎖に追い込まれたことを書いたけど、嫌がらせはさらに加速している。今井君の家族は、あまりの中傷電話の多さから留守番電話にして番号案内もやめた。すると今度は留守電に「死ね」と吹き込んで切ったり、「チーン」という仏具の音だけが繰り返し録音され、ついに今日電話番号を変えたという。3家族には「自業自得」と書かれたファクスが次々入り、相当追い込まれている(読売は社説で公式に家族を批判し、3人に対し“政府に無用な負担をかけたことを深刻に反省すべし”と書いた。まだ救出もされてないというのに!)。ネットはもっとひどい。某巨大掲示板は「クソ家族」「処刑が楽しみ」などの書き込みだらけ。それでも僕はこう思う、たとえ被害者の家族を口汚く糾弾してる人でも、正しい情報が伝われば考え方に変化が出てくるだろうと!//一方、北海道庁には「なぜ迷惑家族の待機場所に北海道東京事務所を提供するのか」と、抗議の電話が昨日までに100件以上寄せられているという(同事務所にはイタズラでタクシーが10台呼ばれることも)。これに対し知事は「道民は道民」「弁当代は出していない」と会見。電話の非情な内容も驚いたが、被害者家族の弁当代すら負担してあげない行政ってなんだろう。意見は違っていても、困っている人を助けてあげたいとか思わないのかな…//掲示板の人質事件関連のカキコは100件を突破しましたが、個人メールでも様々な意見を頂いてます。今日友人から届いたメールに、とても印象的な文章があったので紹介。「世界の反戦世論を無視してイラクに侵攻したアメリカ。今や国際的に見ても、イラクの女性、子ども、老人を無差別に殺戮する米軍こそテロリスト。ブッシュはその親玉だ。日本政府はテロ犯(ブッシュ)の“圧力に屈して”自衛隊を派遣したんだ」。開戦以降、殺された一般市民は約1万人で、これはイラクの軍人の死者約7千人を上回る数だ。 |
●救出費用請求の愚 「危険を知りながら良い目的のためにイラクに入る市民や自衛隊がいることを、日本人は誇りに思うべきだ。もし人質になったとしても、『危険をおかしてしまったあなたがたの過ちだ』などと言うべきではない」(パウエル国務長官) 外務省が救出費用を一部自己負担にすることを決めたけど、誘拐の被害者に国家が救出費用を請求したなんて話は、世界的にも聞いたことがない!退避勧告が出てる紛争地で誘拐事件が起こった例はいくらでもある。なぜなら紛争地こそ深刻な人権侵害が多発しており、そこにNGO(国境なき医師団他)が非武装で救援に入るからだ(他国の軍隊でなくNGOだから活動できる)。今回、もし3人に救出費用を請求すれば、世界中のNGOやマスコミから日本政府はボロボロに叩かれるし物笑いの種になるだろう。フランスを代表するル・モンド紙は「事件は、外国まで人助けに行こうという世代が日本に育っていることを世界に示した」と論評している。上のパウエル国務長官の意見もそうだけど、海外の世論と国内の世論で差がありすぎる。“退避勧告を無視した”といっても彼らは良い事をしに行ったわけで犯罪者ではない。邦人保護に金を請求するなんて国の格を下げる情けないことはやめて欲しい。 ※ル・モンド紙はスペインがイラクから撤退することについてこう語っている「スペイン国民がテロに屈したと考えるのは間違いだ。スペイン国民はテロと戦うにあたって、米英の戦略では非効果的(むしろテロリストを生んでいる)と判断したからだ。スペイン国民を臆病という意見は彼らを侮辱するものだ」と。 |