小説版ジョジョ『The Book』レビュー

The Book―jojo’s bizarre adventure 4th another day 〜







堂々の380ページ 表紙を開くと楽しいギミックになっている

気鋭の作家・乙一氏による執筆5年&ボツ原稿2000枚の渾身の一冊。生命の尊さについて考えさせられ、期待以上の完成度!
原作者の荒木先生は本書について「第4部執筆中に描ききれなかったキャラたちの“悲しみ”の部分も深く描かれてる。当時目指していたものの完成形がこの本にはありますね」「挿絵や装丁も作品を読んだ印象にあうように気合いを入れました」「ラストが切ない感じでグッとくる。ハッピーエンドとは違った豊かな感じがあるんですよ」(07.12.5読売夕刊)と絶賛。大きく期待に胸を膨らませて一気に読んだ。読了して本を閉じ、目を瞑って呟いた「素晴らしかった…確かに“ジョジョ”だった!」。

ミステリーなので前半のツカミだけ紹介。吉良との戦いから数ヶ月後、冬の杜王町で奇妙な事件が起きる。女性が密室状態で“交通事故”にあい絶命したのだ。室内で車と衝突するなどあり得ない。新手のスタンド使いの犯行か?犯人はなぜ彼女の命を奪ったのか?遺骸の第一発見者は康一と露伴。捜査に乗り出した彼らは、仗助、億泰、由花子たちと協力して事件の核心に迫っていく。そして、次第に明らかになる、あまりに深い悲しみの物語…。

ここまで読むと、全編にわたって仗助たちが活躍するように思えるけど、メインで描かれるのは小説版オリジナル・キャラ。この小説に否定的な意見の多くは「仗助たちの出番が少ない」ことに集まっているけど、むしろ僕の場合は「オリジナル・キャラだけでも魅力的なのに、さらに仗助たちの見せ場もあって最高!」。仗助の登場が待たされた分、出てきた時は「仗助ーッ!」と思わず立ち上がった。

本筋の謎解きとは関係ないので触れるけど、トニオさんの料理店や、エニグマの本、鉄塔の話題、圧迫祭りなど、ファンがニヤリとするネタも随所にある。この本のタイトルが“ザ・ブック”というシンプルなものである理由、なぜ革表紙風の重厚な装丁なのか、その仕掛けが分かった時にも「上手い!」とテンションが上がった。
ミステリーは4部の設定があう。旅をするなど移動が多い3部や5部が舞台ではだめ。杜王町という閉塞感のある空間だからこそ、身近に犯人がいるという恐怖感が生きてくる。

それにしても、文章でジョジョの白熱したスタンドバトルを表現できるとは思わなかった!ジョジョの最大の魅力は、個性的で強烈なパワーのある荒木先生の絵と思っているので、活字だけで緻密なバトルを書き上げた乙一氏の筆力に驚いた。台詞についても“あのキャラならここでこう言うだろう”と思うものが多く、基本的に違和感なく入ってきた。

独特の世界観を持つ荒木作品の文章化がどれほど困難かは容易に想像できるし、いつも自分の文章力にもどかしさを感じている僕は、ジョジョ世界を活字だけで表現するのは不可能と頭から思っていた。しかし、本作は明らかに“空気感”がジョジョだった!人気作品のノベライズはファンの目も厳しく、相当なプレッシャーだと思う。ジョジョという偉大で険しい山脈に、ペン1本で登り切った乙一氏に敬意を表すと共に、4部の連載終了から11年の時を経て、再び杜王町へ連れて行ってくれたことに感謝を!

※サービス過剰かなと思った部分も少し。康一君に「あとはコミックを参照」「ジョジョ連載当時〜」と語らせたことで、読み手を杜王町から現実に引き戻してしまった。あの部分はどう考えても後書きor注釈で書くべきもの。本文に入れたら作品世界が壊れてしまう…。あと、ひらがなの多さに最初は戸惑ったけど、これはじきに慣れた。



(以下、ネタバレ・レビュー)

僕はビルの隙間で生きる飛来明里をずっと応援していた。琢馬が生存していることから、最後は彼女も脱出できると確信していた。それだけに、ハシゴを登っていて懐中電灯で顔を照らされた時の挫折感、捨て子にされた真相を悟った時の絶望感は半端じゃなかった。目の前が真っ暗になった。

琢馬の出産シーンは泣けた。男には一生体験できないことだけど、文章だけで激痛が全身に走りそうだった。体を裂かれるような痛みの中で語られた言葉--「名前も、過去も、人間としての思考も剥がれ落ちた。最後に残ったのは、産むという意思だけだった」。人を一人産むというのはあんなにも大変なのかと、思わずお袋に感謝した。

「能力は『感情移入』、魂が確信したことに、肉体は抵抗できない」、こういう言い回しがジョジョ的で好き!億泰VS琢馬、仗助VS琢馬の連続バトルという怒濤のクライマックスは手に汗握る迫力だった。馬鹿にされていた億泰が実は先を読んでいたのがシビレたし、図書館屋上での仗助との決戦は寒さが伝わり、夜の杜王町の遠景が目に浮かぶようだった。由花子と康一の教室での“高温作戦”も地味ながら面白い。

ジョジョの重要テーマ“血統”が照彦・明里・琢馬・千帆の親子の問題として取り入れられたし、ボス戦で絡んでくる“時間”についても「未来に行きたいと願った事は?私、こう思うんです。(お腹の)この中に『時間』そのものが、生じつつあるって」と触れられ、よく練られていた。命の誕生=時間が生まれる、この発想(イメージ)にスケールの大きさを感じる。

ジョジョでは敵役にも悲しみを背負っている者が多い。「神様なんてものがいるのだとしたら罪深い者を生かしておくはずがない。いないから、人生をかけて、自分がやるしかなかったのだ」(琢馬)。まだ10代半ばの少年がこの台詞を語るに至った人生があまりに辛い。織笠花恵は悪党だけど、病気で子供を産めなくなって琢馬を探し始めたところに悲しみがあるし、全ての元凶の大神照彦も吉良と同様に“静かに生きたかった”タイプの男なのに愛娘に刺されるなど、自業自得とはいえ憐れな末路だった。
この事件の最後を締めくくる康一の「神様、あの母と子に慈悲を。二人の行くところに、やすらかな家と食事が用意されていますように」という言葉が、業を背負った人間たちを浄化したように思う。琢馬にも読者にも救いになった。

(オマケ)
暗い話だからこそユーモアのあるセリフは光るね。思わずメモった言葉は
・トニオさんのスープをすすった千帆の「これが水道の蛇口からでてくればいいのに…」
・仗助が真面目な琢馬に時間を訊いてトボける「ちょっとまった。目がかすんで、よく見えなかったっス」
・康一の「億泰君の壊滅的な試験結果のことは学校中に知れ渡っていた。(略)確かにそれは学校が始まって以来の歴史的不毛の大地だった」
・もうひとつ康一で「時計を見ると興奮するんですよね。長針と短針にロマンスを感じるんです。恋人同士みたいな。追いつ追われつみたいな」

熱くなったのはコレ!
・仗助「様子がおかしいと思ってたがよお。こいつはマジに正解かもなあ。先輩よお、名前を聞いておこうか」
・康一「仗助君が“明日でいい”なんて思うわけがなかった。彼はボクと別れる時、既に決めていたのだろう」
やっぱり仗助はカッコイイ!(*^o^*)






アマゾンで低いレビュー読むと、こんなにも読み手の立ち位置が違うのかと、クラッとくる。
「そこってそんなに問題なの?」って感じること多いです…。(>_<)



★小説版ジョジョ第5部『ゴールデンハート/ゴールデンリング』レビュー

「コニーリオは、小学校以来封印してきた自らの能力を、生まれて初めて最大限に発揮させようとしていた」--2001年に刊行された小説版ジョジョ第5部『ゴールデンハート/ゴールデンリング』(宮昌太朗&大塚ギチ著)を読破。長年、“荒木先生が考えたストーリー以外はジョジョじゃない”というジョジョ原理主義者だった僕は、小説版第4部『The Book』(乙一著)を読んで考え方が180度変化。手に取ると、もともと原作自体にエネルギーがあるため、活字だけでものめり込めることを知った。

舞台はヴェネチア。時はボスを裏切った後。新手のスタンド使いは3人。パッショーネのヒットマンでスタンド使いだけを標的にするミスタの師匠・“スタンドキラー”リガトニ(スタンド名パブリック・イメージ・リミテッド)、左右の手に触れた物質を入替える”という地味ながら使い方次第では強敵になりうるパッショーネ幹部のソリョラ(スタンド名ジョイ・ディヴィジョン)、そして治癒能力のある民間人の若い女性コニーリオ(スタンド名ザ・キュアー)。ここにブチャ・チームと別れたフーゴが絡んでくる。ネタバレになるので、誰が敵で誰が味方かは伏せておく。パープル・ヘイズは原作で一度しか活躍できなかったので、その鬱憤を晴らすかの如く、ヴェネチアで大暴れする。

この本が刊行された時、「フーゴは一般人を巻き込まないハズ!」と彼のファンがけっこう怒っていた。でもどうなのかな。高い知能と凶暴さが混じったフーゴは、どこか超然とした風もあり、一般人とは異なるクールな価値観で動く気がする。やる時はやるんじゃないかな(汗)。

コニーリオについて少し触れたい。彼女は怪我や病気を治癒する能力“ザ・キュアー”を持っている。少女時代に体育の授業で膝を擦りむいた友人を治してあげた時、「秘密にしてね」と言ったのに、傷が治った友人は喜ぶどころか気味悪がり、その日のうちに彼女の奇妙な能力の噂は学校中に広まった。あだ名が“不死身のコニー”から“魔女のコニー”となり、もっとひどい形容詞になっていく。そして彼女は「人は、どれだけ“よいこと”であっても、未知のモノを怖れる」ということを学ぶ。以後、ずっとザ・キュアーを隠して生きるコニーリオだが、彼女はその能力ゆえに、“パープル・ヘイズ”の地獄、あらゆる生物が死に絶える紫の煙の中でも、彼女だけは立ち続けていた。その状況で、冒頭の言葉が出てくる「コニーリオは、小学校以来封印してきた自らの能力を、生まれて初めて最大限に発揮させようとしていた」。この設定がうまい!こういう劇的な場面に弱いッス。

『The Book』の半分のページ数しかないこともあり、スタンド・バトルのオチがあっけなく、確かに物足りなさの残る作品ではある。それでも、あのフーゴとの「別れの船着き場」以降の物語、200ページの夢を見させてくれた2人のライターさんに「ディ・モルト・グラッツェ」と御礼を言いたい!
※挿絵の半分は単行本の使い回しだけど、新たに描き下ろされたカットも計8ページあった。これは嬉しい!新しい5部キャラとの出会いは、それだけでテンションMAX!

ミスタの師匠リガトニ ウサギ型のキュアーとコニー

『ゴールデンハート/ゴールデンリング』(Ama)※アマゾンには書名が「ジョジョの奇妙な冒険〈2〉」としか出てない。ちゃんと「ゴールデンハート/ゴールデンリング」まで載せてあげて欲しい。




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